またのご来店をお待ちしております(棒読み)
他の猫達とトラブルになるといけないため慌ててレティちゃんを追いかけると、マクシム様も私に続いて触れ合いスペースにやって来た。
そこでの光景に、目を疑った。
グレイ君自らレティちゃんにスリスリしている!? 私との初対面時は、キャットタワーの上から見下ろすだけだったのに!
私よりもレティちゃんの方が良いだなんて。くっ、やはり猫も美人が好きなのね!
レティちゃんは人の目から見ても美しい。
きっと人間になったとしたら、かなりの美人だろう。
グレイ君もきっとその違いが分かるのだろう。
私の時とはあまりに違う対応に、複雑な心境で眺めていると、マクシム様はレティちゃんを引き離そうと近寄った。
「レティ、こっちに来なさい」
「シャーッ!!」
「……」
マクシム様は無表情のまま、一瞬固まった。
もしかして、ショックを受けているのかしら?
マクシム様は無表情だけど、レティちゃんのことになると少しだけ態度に出る様ね。
非常に微細な変化ではあるが、前世で猫を飼っている時に培った観察力が私にはあるため、行動と紐付けると何となくマクシム様の感情を読み取る事ができた。
まさか、こんなところで猫を飼っていた経験が役に立つとは。
「マクシム様、ここはグレイ君とレティちゃんが離れたタイミングを見て連れて行く方がいいと思いますが」
「その様ですね」
マクシム様は無表情のままだが、内心は落ち込んでいるのではなかろうか。
そう思うのは、私も猫を飼っていた時に何度か本気で威嚇をされたことがあったからだ。
大切に育てていたはずなのに、シャー!! と威嚇をされれば、今まで信頼関係が築けていなかったのか、嫌われてしまったのか、とショックで数日間は落ち込んだものだ。
そんな事を思いながら遠巻きにグレイ君とレティちゃんを眺めていると、二人はスリスリに満足した様で少し距離が出来た。
そのタイミングを見計らってマクシム様がレティちゃんを抱き上げた。
しかし、レティちゃんはグレイ君がすっかり気に入った様で、グレイ君から離された事が不満なのかマクシム様の腕の中でニャーニャーと激しく鳴いている。
「レティがこんなに鳴き声を出すなんて」
グレイ君も何処か悲しげな様子でレティちゃんを見上げてニャアと鳴いた。
「どうやらレティちゃんとグレイ君は相思相愛のようですね」
引き離すのは少し可哀想な気もするけど、レティちゃんは公爵家の猫ちゃんだし、お家に帰らないといけないわ。
そんな事を考えていると、レティちゃんを抱き上げたマクシム様は少し考える素振りを見せた後、ふっと顔を上げて私に話しかけた。
「セリーヌ嬢、これからもレティを連れてここに来てもいいでしょうか?」
ええっ、また来るの!?
レティちゃんには是非とも来てもらいたいが、マクシム様は攻略対象者だ。
モブ令嬢の私にはあまり関係ない存在とはいえ、万が一とばっちりを受けて断罪とかされては困るので出来ればあまりお近付きにはなりたくないんだけど。
しかし、マクシム様はあのレイヤー公爵家の次期当主。流石に断れないわ。
「え、ええ、勿論ですわ」
「ありがとうございます、レティも喜ぶことでしょう。さ、レティ。残念だが今日のところは家に帰らないといけない。また、来よう」
レティちゃんはマクシム様の顔を見上げると、不満そうにニャアと鳴いて大人しくなった。
マクシム様はレティちゃんが大人しくなったことを確認すると、カフェの出口へと歩き出した。
私はグレイ君を抱き上げ、レティちゃん、マクシム様、従者の皆様をお見送りすることにした。
「セリーヌ嬢、今日はレティ共々大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ本日は保護猫カフェにお越し下さりありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
マクシム様はじっと私を見つめたまま「また伺います」と言い残し、去って行った。
はぁ、やれやれ。まさかこんなところで攻略対象者に出会うなんて。
マクシム様がいなくなり、ほっと脱力しているのも束の間、リチャードが険しい顔をして私に話しかけて来た。
「はぁ、この猫娘は、猫だけでは飽き足らずトラブルまで呼び込むとは。それに、家庭教師との約束時間はとっくに過ぎています。時間がありませんからすぐに帰りますよ、いいですね!?」
「うっ……はい」
その後、私は、馬車の中でリチャードに叱られ家では事情を知ったお母様にキツくお灸を据えられることになった。トホホ。
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