保護猫カフェ、作っちゃいました

 

 * * *


(遂に、完成したわ!)


 私は執事のリチャードと共にとある場所に来ていた。

 ちなみにリチャードはお父様専属用執事のひとりだが、保護猫カフェの立ち上げのために私専属の執事に期間限定で異動となったのだ。


(ああ、長年の夢が実現するなんて。感動!)


 リチャードは領地の運営を担っているため、その手の知識に関してはスペシャリストだ。

 私のぼんやりした考えにメスを入れ「アイディアはいいけれど、経営についての知識が乏しいので経営学を一から学びましょう」とリチャード直伝のスパルタな授業を受ける羽目になった。

 お陰でこの数ヶ月間は、保護猫カフェの施策や経営学の勉強に追われて寝不足の毎日だったのだ。


「お嬢様、いつまでこんな場所に突っ立っているつもりですか? そのうち石像と間違われて撤去されますよ」

「リチャード、煩いわね。私は感慨に浸っているのよ」


 リチャードは私の幼少期よりラルミナル家に仕えているため、セリーヌからしてみたら年の離れた兄のような存在だ。

 リチャードもセリーヌに対しては実の妹のように接してくれるため、このような皮肉めいた発言は日常茶飯事なので聞き流している。


「足痛くなってきたんで、いい加減中に入りましょうよ」

「はいはい、分かったわよ」


 確かに半刻程入り口付近に突っ立ったままだったので、中に入ることにした。

 中に入ると、早速店員が声を掛けてきた。


「いらっしゃいませ! 二名様ですね。当店は猫たちとのふれあいスペースとカフェスペースに分かれておりまし……あれ? セリーヌ様!?」


 あっ、早速バレた。

 まぁそうよね。このカフェ作ったの私だし、店員の研修も私がしたもの。


「しーっ! 今日はお客として来たの」

「そ、そうなのですか? では、お席までご案内致します」


 店内は地元の住民で賑わっていた。

 予想より多く人が入っているわね。うん、悪くない滑り出しね。


 席に案内されると、ガラス扉越しに猫がいるのが見えた。


 はわわわ! 既に猫様がいらっしゃる!!


 ちなみに、カフェ内は猫達の居住兼触れ合いスペースと、カフェスペースがガラス扉を隔てて二分されており、既に猫が二匹生活していた。

 猫達を刺激しないようにガラス扉を開けてそっと中に入ると、茶トラ柄の猫がスリスリと足元に擦り寄ってきた。


 きゃわゆい〜!!


 足元から離れなかったので、試しにそっと触れようとすると「気安く触るな」と言わんばかりに身体を翻し、元いた場所に戻ってしまった。


「はぁ、尊い」


 何よこのツンデレは。可愛過ぎるじゃないか。

 ちなみにもう一匹のグレーの猫は、高見の見物といった様子でキャットタワーの最上部から私達を観察している。


「リチャード、この子達は野良だったのかしら?」

「ええ、元はそのようですが二匹とも孤児院で面倒を見ていたそうですよ」


 成る程、それでこの子達は人間に対して警戒心が薄いのか。


「孤児院付近には後五〜六匹程度の野良猫がいるそうなので、弱っている猫から順に保護していく手筈になっています」

「そう。怪我したり弱っている子は早めに治療してあげないといけないわね」


 保護される猫達は皆が健康という訳ではない。

 病気や怪我等で治療を施しても回復の見込みがない猫も勿論いる。

 人間の身勝手な理由に振り回され、心も身体も傷付いた猫達に、最後くらいは温かい場所で落ち着いてゆっくり過ごしてほしい。

 偽善、と思われるかも知れないが、それが私の心からの願いだ。


(ふむふむ、この広いスペースなら猫達が増えても充分受け入れが可能ね)


 生活スペースは広く取ってあるし、キャットタワーや隠れる場所等、猫達が快適に過ごせる工夫もあちこちに施されている。

 満足気に内部を見学してると、孤児院施設の院長が慌てた様子でやって来た。

 きっと店員から話を聞き付けたのだろう。


「まぁ、セリーヌ様!?」

「あ、院長さん、こんにちは。お邪魔しております」

「事前にご連絡いただければご案内致しましたのに」

「ああ、いいんです。ちょっと様子を見に来ただけですから、お気遣いいただかなくて結構ですよ」

「お嬢様は一度言い出すと人の話を聞きませんからね」

「リチャード、お黙り」

「あ、セリーヌ様。もしお時間ございましたらぜひ猫達にご飯をあげてみませんか? これから食事の時間なんです」

「まぁ、そうなんですか!? 是非是非!」


 やったぁ! 猫達と触れ合える!!


「ちょっとお嬢様、これから家庭教師が来るのですから帰りますよ」

「嫌よ! 猫ちゃんとの触れ合いタイムを邪魔するなら家に帰らないわよ!?」

「ちっ、この猫娘が」

「ああん? リチャード、何か言った!?」

「イエ、ナンデモゴザイマセン。では半刻だけですよ? それ過ぎたら強制送還しますからね」

「はーい」

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