ドレスを買うのも大変です(屍
* * *
食事を終えた私達は、馬車でとあるブティックまでやって来た。
「さぁ、着きましたよ」
ここは貴族達御用達のドレスショップ。
ショーウィンドウには色とりどりのドレスが飾られている。
私達に同行していたノアはドアマンに名前を伝えると、ドアマンは店内へと案内してくれた。
わぁ、凄い数のドレス。
店内にあるドレスの数に圧倒されていると、奥から助手らしき女性達を従えた店主がやって来た。
「ラルミナル伯爵夫人、本日はご来店いただきましてありがとうございます」
「ポンフィット夫人、ご機嫌よう」
「本日はお嬢様のドレスを御所望と伺っておりますが」
「ええ、そうなんです。娘に似合うドレスを見繕っていただきたくて」
ポンフィット夫人はお母様から私に目を移し、じーっと私を見つめて来た。
「お嬢様は大変スタイルがよろしいですね。それにお顔立ちもこの年代のレディに比べて大人びていらっしゃる。この美しさを花で例えるなら、清楚な中にも見え隠れする色気で周りを惹きつける……月下美人のような魅力がございますわ」
「そうでしょう、そうでしょう!」
お母様は満面の笑みでポンフィット夫人の言葉に賛同している。
流石は貴族相手に商売をするポンフィット夫人、早くもお母様の心を掴んだようだ。
「こういった魅力のあるレディには可憐なデザインよりもシックなデザインの方が断然お似合いですわ。只今ドレスをお持ち致しますので、こちらにお掛けいただいてお待ちください」
ポンフィット夫人は再び奥に引っ込むと、助手の女性は飲み物やお茶菓子を用意してくれた。
わぁ、この紅茶いい香り。それにこのクッキーも美味しい。
お茶とお茶菓子を存分に堪能していると、大量のドレスを持ったポンフィット夫人と助手達が戻ってきた。
「あら、素敵なドレスね! セリーヌ、座っていないで早速試着をするわよ」
「え、お母様、まさかこのドレス全て着る訳じゃないですよね?」
「今まであのドレスしか着て来なかったのですから、色々試してみないと貴女に最適な物が分からないじゃない。時間の許す限り着てみなさい」
「そうですわお嬢様。是非心行くまで試されて下さい」
げげっ、このドレス全部着るの!?
片っ端から試着してこい発言に一気に心が萎えたが、このまま座っている訳にも行かない。
はぁ、やれやれ。大変そうだけど、セリーヌの魅力を引き出すためには服選びに妥協してはいけないわね。
こうなったら何着でもドレスを着てやる!
気合いを入れ立ち上がると、ドレスを手にしたポンフィット夫人と助手達が私を試着室まで案内した。
「まずはこのドレスから着てみましょう。大人っぽいデザインにはなりますが、セリーヌお嬢様ならきっとお似合いですわ」
流れるようなマーメイドラインが美しいこのドレスは、十三歳のレディが着こなすには少々難しいデザインだ。
言われるままに試着をしてみると、あらビックリ。
セリーヌの雰囲気にぴったりだ。
「まぁ、想像以上にお似合いですわ!」
ポンフィット夫人はベタ褒めで、周りの助手達もウンウンと力強く頷いている。
「まぁ、セリーヌ! 凄く似合っているわ!」
いつの間にか試着室にいたお母様も大絶賛だ。
「あ、ありがとうございます?」
容姿を褒められることに慣れていないからなんと返事をしたら良いのやら。
「このドレスは購入しましょう。さぁセリーヌ、ボサッとしていないで次のドレスを着て頂戴」
もう!? 早っ!
「畏まりました、ラルミナル伯爵夫人。さ、お嬢様、次のドレスに移りましょう」
「え、ええ?」
こうして私はスパルタレベルで次々とドレスを試着させられた。
そして、これで何十着目だろうか……と魂が半分抜け出てきた頃にようやく試着地獄から解放された。
「ポンフィット夫人、今日は良い買い物が出来たわ」
「こちらこそ、当店の商品を沢山お買い上げいただきましてありがとうございます。またのお越しをお待ちしておりますわ」
従者が馬車に荷物を運んでいる間、お母様は終始満足そうな笑みを浮かべていた。
私はというと、試着に疲れ果てソファにグッタリもたれ掛かりながら『もうお母様とドレスは買いに行かない』と心に誓ったのだった。
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