脱・ピンク!
私は一体どうしたらいいのやら、と思っていると、ノアは直ぐにお母様を連れて戻ってきた。
「セリーヌ! 貴女、ノアにピンク色のドレス以外を着たいと話したって本当なの!?」
ああ、そういえばお母様もセリーヌのセンスの悪さを心配していたんだっけ。
ってことは、このドレスはきっとノアとお母様で用意した物だったのだろう。
「え、ええ。お母様、私は今までどうかしていました。お母様は私を心配して助言して下さったのに、今まで聞く耳を持たずに申し訳ありませんでした。これからは自分に似合った服を着る事に致しますわ」
私の言葉を聞いたお母様は急に涙目になり、感極まった様子で私を抱きしめた。
「セリーヌ! ああ、こんな日が来るなんて、お母様は嬉しい!!」
お母様の華奢な腕から想像も付かないような力で抱き締められ、骨がミシミシと軋む。
痛い痛い痛い!
「うぐっ! お、お母様、落ち着いて……!」
「ああ! ごめんなさい、セリーヌ! 嬉しくてつい!」
お母様はぱっと離れると、満面の笑みを浮かべて私を見つめて来た。
「セリーヌ、これからは貴女に似合った物を着ましょうね。ああ、そうだわ! これからドレスを一緒に買いに行きましょう! それと、貴女の気が変わらないうちにこのドレス達は処分しましょう」
ええっ! この大量のドレス処分しちゃうの!? 勿体ない!!
前世はお世辞にも裕福とは言い難い家庭で育った私は、物を捨てることに抵抗があった。
いや、正確には『リサイクル等で金になる物をそのまま捨てる事に抵抗がある』と言った方が正しい。
このドレスを古着として売れば絶対いい金額になるわ!! ここはお母様に任せたらいけない!
「お母様、このドレス達の処分は私が行いますわ。ですから、どうかお母様はドレスの処分についてはお気になさらずに」
私の言葉を聞いたお母様の表情は途端に曇った。
あ、もしかしてドレスを処分しないで取っておくと誤解しているのかしら。
「お母様、ご安心下さい。このドレス達は必ず処分致しますわ」
「その言葉は本当かしら」
「ええ、約束致します」
お母様の表情はまだ曇りがちだが、これ以上しつこく追求してセリーヌの気が変わると困ると思ったのだろう。
渋々といった様子で私の言葉を了承した。
「貴女の言葉を信じるわ。早めに処分して頂戴ね。可能な限り、早めにね」
早めに、を二度も言ったわね。よっぽどこのドレスを処分して貰いたいのか。
「はい、お母様」
お母様は私の選んだドレスに目を向け、再び口を開いた。
「一先ずそのドレスを着て、朝食が済んだら早速新しいドレスを買いに行きましょう」
私がこくりと頷くと、すかさずノアが「では私が着替えのお手伝いを致します。ささ、こちらへどうぞ!」と動き出した。
ノアの補助により、Aラインのシンプルなドレスに身を包んだ私は朝食を取るために早速食堂に顔を出した。
既に席に着いていたお父様とお母様は私の姿を目にした途端、まるで長年の憑き物が取れたような晴れやかな笑みを浮かべた。
先程あの場に居なかったはずのお父様も笑顔だということは、お母様から全て事情を聞いたのだろう。
「おお、セリーヌ! 見違えたぞ!!」
「まぁ、セリーヌ! 貴女はそのデザインの方が断然似合っているわ!」
「お父様、お母様、お待たせ致しました」
貴族らしく丁寧なお辞儀をして席に着いた。
おお!? 朝から生ハムが出るとは、前世の貧相な食事とは比べ物にならないくらい贅沢な朝食!
「ああ、今日は朝から気分が良いな。美味い酒でも飲みたいぞ」
「貴方、今日は公務がおありでしょう?」
お母様にギロりと睨まれたお父様は慌てた様子で弁明した。
「それはもちろん分かっているよ。酒は帰ってからの楽しみにする予定だ」
「それなら良いですが。セリーヌ、貴女は食事を終えたらお母様とドレスショップに出掛けるからそのつもりでいて頂戴ね」
「はい、お母様」
ああ、生ハムおいしい。
美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、お母様に返事をした。
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