ピンク色はもうお腹いっぱいです


 さて、そうと決まれば、まずはこのドレスをどうにかしなければ。


 そういえば、乙女ゲームのパッケージにいたセリーヌも、似合いもしない、まるで子供のお遊戯会にでも着ていくようなピンクのフリフリドレスを身に付けていたっけ。


 なんとなく嫌な予感はするけど、とりあえずクローゼットの中を見てみるか。


 クローゼットの扉を開くと、一面ピンク、ピンク、ピンク。


 って、なんじゃあ! このピンクだらけの衣装達は!!


 そういえばこの部屋もやたらピンク色が使われている。

 どんだけピンク好きなのよ、セリーヌ!


(ああ、そうだ思い出した! 幼少期の頃、ピンクの服を着ていた時に可愛いと言われた事があったから、それ以降ピンク色ばかり好んで着ていたんだっけ)


 幼少期はまだ背も小さかったため、両親もセリーヌに女の子らしい子供用ドレスをよく着せていた。

 そして、たまたまピンク色の子供用ドレスを着てお母様とお茶会に参加した時に、同年代の男の子にかわいいと褒められた事をセリーヌはずっと覚えていた。


(うん、まぁ、女子だから可愛くなりたい気持ちは分かるけど、これは流石にやり過ぎでしょ)


 セリーヌはただ可愛くなりたい一心だったのだろうが、このクローゼットの中身は余りに酷すぎる。

 

(とりあえず、ピンク色以外の服を探そう)


 目がチカチカする衣装達を掻き分けていると、落ち着いた色合いのドレスが奥から出てきた。

 きっと、セリーヌ以外の者が選んだのだろうが、フリフリピンクなドレスばかり好んでいたセリーヌは、これらは着ないからとクローゼットの奥に仕舞い込んでいたのだろう。

 その中でも比較的装飾の少ないシックなドレスを探し出して鏡の前で当てていると、コンコンッと扉を叩く音が聞こえた。


「お嬢様、おはようございます」


 あ、この声は侍女のノアね。


「おはよう、ノア」


 私の声を聞いたノアは扉を開けると、驚いたような表情を浮かべた。


「お嬢様、そのドレスは……?」

「え? ああ、いつもピンク色のドレスばかり着ていたから、違う色を着たくなったの」


 すると、ノアは目を見開いてその場で固まってしまった。

 あれ? 私、なんか変な事を言ったかな?


「お嬢様がそんな事を言い出すなんて! はっ、まさかお身体の具合でも悪いのですか!?」


 いやいやいや、ちょっと待て!

 何故そんな発言になる!?

 そして医者を呼びに行こうとしないで!?


「ノア、落ち着いて! 私は至って健康よ」

「ですが、いつもはピンク色のドレスでないと部屋から出たくないと仰るお嬢様が、他のドレスを当てているなんて」


 セリーヌのピンク色依存は重度だった様だ。

 ここまで徹底的にピンク色ばかりだと、日本の芸人を思い出すわ。


 うん、林家○ー子的な……ね。


 いやいや、そんな事より先ずはノアを説得しなければ。


「ノア、私気付いたの。私の容姿ではフリフリピンクなドレスより、もっとシックなデザインのドレスが似合うってことに」


 すると、ノアの見開いた目から大粒の涙が溢れ落ちた。


「お嬢様……!! ようやく! ようやく、ご自身の魅力に気付かれたのですね!?」


 このドレスはもしかしてノアが選んだ物だったのかしら。

 ってことは、ノアはずっとセリーヌのダサいセンスに悩まされてきたのか。


 ああ、ノア、今までごめん。


(確かに、セリーヌの記憶を辿ると、ノアはさり気なくピンク以外のドレスも似合うとか、大人っぽいデザインも素敵とか言っていたな。それを可愛くなりたい一心で盲目的になっていたセリーヌは聞き入れて来なかったのか)


 ぼんやりそんな事を考えていると、ノアは涙を流したまま「奥様にもご報告をしなければ! 奥様ーー!」と部屋を飛び出してお母様を呼びに行ってしまった。


「え! ノア!? ちょ、ちょっと!!」


 ああ、どうしよう、行ってしまった。

 一人ポツンと取り残された私は、はぁ、と深いため息を吐いた。

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