第十一話 僕らは金髪幼女とメイドに出会う

 僕らが打ち上げられた海岸沿いに、土の道が走っており、今はそこをとぼとぼと二人して歩いている。中世レベルの文明なので、アスファルトなどは当然ない。天界に召喚されてから、ずっと飲まず食わずである。加えて、僕は体力がない方だ。身体は限界に近づいていた。近くに森はあるのだが、今入っていっても遭難必至だろう。憔悴しょうすいしているのはアリスも同様だ。歩いて数十分は経過しているが、先ほどから口を開いていない。ああ、天の恵みはないのか。ある訳ないか。その天から逃亡したんだから。餓死を半分覚悟したその時、遠くに二人の人影が見えた。最後の力を振り絞り、二人のもとまで歩いていった。


 相手は女性二人だった。一人は、中学生くらいの女の子。アリスほどではないが背中には届くロングの金髪で、ゆるやかにウェーブがかかっている。肌は色白だ。いかにもお嬢様風の洋服を着ている。もう一人は、二十歳前後の女性。中心が長く、左右が短いセミショートのストレートヘア。髪の色は水色に近い青、肌の色は白人と言っていい。女の子の侍従なのか、メイド服を着ている。買い物の帰りなのか、物がいっぱいの紙袋を持っていた。正直、アリスには劣るものの、二人とも十二分に美少女、美女の範疇はんちゅうに入るだろう。加えて、一人は幼女である。これに異論のある人もいるだろう。しかし、三十歳手前の男からしたら、アリスと目の前の彼女はどちらも幼女、あるいはロリに分類されるのである。僕は彼らに助けを請う。

「あの、突然すみません、実は……。」

「XXX」

 言葉の壁! 今まで様々な壁を乗り越えてきたが、最後にこれが立ちはだかるとは。だが、僕は乗り越えてみせる。

「こんにちは。」

「XXX!」

「すみません。」

「XXX!」

 全く歯が立たなかった。そういう訳で、ここは神頼みといこう。

「アリス、君に任せた。」

「私も話せませんよ。」

「冗談は言わなくていいよ。こうやって日本語を話しているではないか。神々はあらゆる世界の言葉が話せるんでしょう。」

「答えはノーです。日本語を話せるのは、あなたが来る前にそのように頭を調整したからです。こちらに来る予定はありませんでしたから、この世界の言語には合わせていません。」

 パソコンのアプリの言語選択みたいだ。そして、もはや変更不可能になっている。つまり、これは万事休すか。そう思った時、女の子が腕輪をこちらに差し出してきた。指で何かを腕輪に込めるようにジェスチャーする。何かの道具かな。僕は腕輪を装着して、魔力を込めるイメージをする。

「こっちの言ってること分かる?」

 女の子の声が日本語として理解される。

「分かるよ。助かった……。」

「さっきから訳の分からない言葉を連呼して、見るに忍びなかったから渡したのよ。言葉も分からず、身体も汚い。一体どうしてそうなったの?」

 至極まともな見解である。

「説明なら後でいくらでもするから、何か飲み物と食べ物をくれないかい?」

 僕らの栄養状態を把握したのか、隣のメイドに指示する女の子。とりあえず、命はつながった。買い物袋から取り出してもらったリンゴと水を口にする僕とアリス。一段落ついたと判断した女の子は僕らに質問する。

「さていくつか聞かせてもらうわよ。あんたたち、名前は? どこから来たの? というか、二人はどういう関係なのかしら?」

 三秒ほど考えて、僕は答えた。

「僕はメイナード・ケルビンという。こっちは娘のアリス・ケルビンだよ。とある目的で旅をしていたんだけど、船が転覆して、近くの浜辺に運よく打ち上げられたんだ。そして、この海沿いの道を歩いていたら、君たちに出会ったという訳さ。」

 アリスが僕の袖を引いて、後ろに振り向かせる。

「あなたがパパだと、悪い家庭環境で育った娘だと思われる気がします。」

「今は話を合わせてほしい。」

 僕は小声でアリスに懇願する。でも、不出来な息子の兄弟になるわけだから、確かに家庭環境は悪いのだろう。

「それとも、恋人とかの方が良かったかな?」

「こ、恋人ですか。ま、まあそれはそれで……。」

 なんで少し嬉しそうな顔をするのだろう? 僕が怪訝けげんな顔になると、アリスが我に返った。

「ふ、普通に旅の仲間と言えば良かったのでは?」

 確かにそうだ。というか、親子って言ってしまったが、日本で同じ回答をしたらパパ活中だと口を滑らせたようにしか見えないだろう。しかも、相手は幼女である。お巡りさんこいつですと指を指されただろう。そして、逮捕された僕に向かって、追い打ちで後ろ指を指しただろう。ここが異世界で良かった。

「何こそこそと話しているのよ。まあ、いいわ。訳ありなのは分かったから。このまま放っておいたら寝覚めが悪いし、とりあえずあたしの家にでも来る?」

 女の子が提案してきた。

「お、お嬢様。流石にそれはやりすぎではありませんか?」

 慌ててメイドさんが口を挟む。

「ここで助けなかったら、この国の王族として、国民に示しが付かないわよ。さあ、メイナードたち、ついてきて。」

 来るように告げると、女の子は歩きだした。当然、この好機を逃す手はない。アリス共々、女の子についていく。ところで、今、王族と言った気がしたが聞き間違いかな。

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