第十話 僕らに無能の烙印が押される

 僕はひとまず話をまとめた。

「アリスにも詳細な知識がないとなると、手掛かりは、邪なるものだけになるね。まあ、元々調査の中心は邪なるものになると思っていたからね。それにたどり着くための補助がほとんどないだけで、目的自体が存在しない訳ではない。念のため聞くけれど、邪なるものを解析する魔法は使えるのかな?」

「解析は任せてください。それにあなたのいう事はもっともです。それでは、邪なるものの調査と解析をしましょう。早速行動ですかね。あ……。」

「どうしたの?」

「ひとつ伝え忘れていました。私、今魔法が使えません。」

「はい?」

 またもや、思わず聞き返してしまった。

「詳しく言うと、使えることは使えるのです。しかし、一度使えば私の魔力を探知されて、天界から追手が来ます。また、天罰が下るかもしれません。」

「天罰とは何かな?」

「門を通る直前に受けた光の柱による攻撃のようなものとお考えください。」

 僕は肝を冷やした。この幼女、もはや可愛い以外の取り柄がないのではないか。というか、その理屈ならば僕も魔法が使えないのではないか。どうしよう。可愛いという取り柄すらない人間になってしまう。

「補足ですが、あなたは魔法を使えますよ。天界での戦闘時は私も混乱していて後から気づいたのですが、あなたの場合、使用後の魔力の残滓ざんしがないのです。おそらく、魔法の使用完了時と残滓の発生時を一致させることで、残滓を発生時点で消去しているのだと思います。」

 絶妙なことをしているな。しかし、門外漢が深く考えても仕方がない。アリスが続けた。

「ですので、あなた一人ならば追手や天罰に怯える必要はありません。今から別行動にしましょうか?」

「さっきも言った通り、それは非効率だし、調査には君の解析魔法が不可欠だよ。何より、君の入浴を覗いたり、ベッドに侵入したり出来ないのは辛いものがある。」

「本気でセクハラしているのではないかと不安になるのも事実なので、そういう発言は慎んでください。……でも、一緒にいてくれてありがとうございます。」


 僕は話をそらすことにした。

「ところで、異世界への門が開いたのに、どうして僕らは無事なんだい? こちらの出口から魔力を検知されていれば、とうの昔に僕らは年貢の納め時だった筈だよ。」

「それは私も不思議でした。推測ですが、光の柱が異世界への門を直撃しましたよね。そのことで魔力の痕跡を含めて大体のものが消滅したのだと思います。そこに、あなたの魔法無効化が加わって、残りの残滓もほとんど消えたのでしょう。それでも、微量の残滓は残り、魔力を検知される筈ですが、そこまでくると私にも分かりません。異世界への門が特別な場所でしか使えない特殊魔法であることが関係しているような気はしますが。話の流れで言いますが、そういう訳で現状こちらから異世界への門は開けません。」

 天界に行っても死地に赴くだけなので、門が開通できないことは別に構わない。本来ならば死んで天国に行くのだから、順番が前後しているような気がしてならないが無視しよう。しかし、魔力が検知できない理由はアリスにもよく分からないのか。まあ、こちらに来てからそれなりの時間が経っているだろうが、今まで無事なのだ。このことは等閑とうかんに付して良いだろう。


 ここで僕は重要なことに気付いた。

「魔法が使えない女神と、魔法を消す魔法しか使えない人間しかいないということは、つまり誰も魔法が使えないということではないかい?」

「そういう表現もできますね。」

 僕らに無能の烙印らくいんが押された瞬間だった。

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