第13話 執行局について、そしてこれから~悩む事と分からない事だらけ~
「――大丈夫かストレチア?」
「は、はい。申し訳ございません、陛下」
混乱のあまり叫んでしまった事に、私は何度も頭を下げる。
「そのように頭を下げずとも良い」
「は、はい……」
私は何度か深呼吸をして、落ち着こうと試みる。
そして、思い返す。
コーネリア王国の女王と、王様。
ダチュラは女王に似ていたが、王様には似ていなかった。
紹介された、弟である王子は王様によく似ていた。
夫である王様がいるのに、別の男との子どもを産むとかどういう頭をしているのだろうか、あの女王。
「いやはや、あの王には同情する。だが、王族の血は弟が引いてるし、裏で母と『姉』から虐げられていた弟は二人を軽蔑してたようでな。姉の方は煮るなり焼くなり好きにしてくれ、二度と顔を見たくないとまで言っていた。いやはや、まだ十二の子にそう思われるとは相当な輩だなぁ。ああ、安心せよ弟が成人するまでは王やまともな者達が政治を行うようだ、何かあったらこちらでも手伝う約束を取り付けた」
王様が可哀そうだが、息子である王子がしっかりしているので少し安心できた。
「それと、グローブの家族の方はまぁ、エルフ族だから余達に反抗的と思いきや、不貞行為補助への嫌悪が酷くてな。その代わり恋人がまぁ、高慢で、其方の事を良く知りもしないで侮辱したので監獄行きにした。恋人の家族はそうではなかったな、一体なんなのだあの変なプライドは? 美しい其方への嫉妬かな?」
「そ、そのような御冗談は……」
「冗談でもないぞ、あの女エルフ、其方の美貌に嫉妬しておった。ただの村娘の人の分際でと、な。だから王女に恋人を奪われてざまぁみろとまで言ったので口を縫い合わせたくなった」
「あ、あの……まさか、縫い合わせて……」
「おらんぞ? 其方が縫い合わせて欲しいなら今すぐ縫い合わせてくるが」
「い、いいえ……」
流石に、口を縫い合わせるとかそういうのは今は想像できない。
今は、復讐内容としては望まない。
けれども、もしかしたら望む様になるのかもしれない。
私は、自分の望むことがまだ、分からないのだ。
「……あの、信じたのですか?」
「何をだ?」
「……私を裏切ったという内容を……他からしたら、私が連中を裏切ったと――」
私がそう言うと、陛下は申し訳なさそうな顔をした。
「――すまぬ、事前に許可を取らずにやった」
「え?」
「其方が連中に見切りをつけるまでの一部始終の過去を映し出し、声まで再現する鏡を見せた」
「え゛?」
「……すまぬ、これは余が悪い、殴ってくれて構わない」
「あ……うぅ……」
私はテーブルに突っ伏した。
――事前に言ってください、お願いします……――
正直精神的にダメージが大きかった。
何せ元仲間の身内に、自分が裏切られた、正直知られたくない内容よりを多くのヒト達に知られたのだ。
――辛い――
「……陛下、御后様に後で誠意をもって謝ってくださいませ。それは酷すぎます」
「陛下、いくら何でもあんまりでございます。せめて許可を取ってからではないでしょうか?」
「……すまぬ、以後気を付けよう……ストレリチア、其方は余に怒りを向ける権利がある、どうする……」
「……後で考えます、今はちょっと……」
流石に今回の内容は文句を言いたいが、どう「謝罪」してもらうべきか分からない。
兄だったなら完全な身内だからぶん殴るなりできるが、陛下は別だ。
陛下は私を「后」にすると言っているし、ブルーベルやサイネリアは私を名前ではなく「御后様」と呼んでいる。
だが、私は立場が「后」と言われてもまだ受け入れきれてない。
正直どうすればよいのか何一つ分からない。
確かに私は連中に、私を裏切った連中と、それを擁護する連中に罰を与えたい。
だが、内容が一つしかまだ決まっていない。
その内容も我ながら酷い内容だと思っている。
けれども、許す程今の私はもう、優しくない。
嘗ての人を疑わない、人を恨まない村娘ストレリチアはもういないのだ。
此処にいるのは、憎悪の炎を体に宿す、ストレリチアと言う女がいるだけだ。
裏切りを知ったあの日、それでも私は今までの私であろうとした。
だから、あの逃亡が精いっぱいだった。
けれども、今は違う。
私は奴らが憎い。
憎いからこそ、許せないからこそ、どう罰を与えるべきなのか、無知で愚かな私は一つしか思いつかなかった。
「御后様」
エンレイさんが声をかけてきた。
「御后様は、もし愚者達に与えたい罰の内容が明確でなくても決まったら私共に命じてください」
エンレイさんはそう言って頭を深く下げた。
それに合わせる様に他の方達も頭を下げた。
「「「「我らはこの国の執行者、罰を与える者。貴方様の命ずるがままに、我らは愚者に罰を与えましょう。それこそが我らが使命、そして誇りなのです」」」」
「……」
心の底からの言葉。
この方達にとっても、もう私は后、陛下の妻なのだ。
陛下に歯向かった罪、后である私を侮辱した罪。
それを、陛下や私の代わりに与えるという事こそが、彼らにとって栄誉であり誇りなのだと理解できた。
「……」
私は自分の両手を見る。
――自分の手で、私は復讐したいのか、それとも復讐できるならなんでも良いと思っているのか、分からない――
自分自答を繰り返す。
――殺したい?――
――殺したいんじゃない、復讐をしたい、だから死なないで欲しい――
――どう、復讐をしたい?――
――……わからない――
「ストレリチア」
「陛下……」
名前を呼ばれ、陛下の方を見ると、陛下は静かに口を開いた。
「時間はいくらでもある、だから悩むといい。そして己の望む答えを、余に言うが良い」
「……はい」
私が望む答え。
私が望む復讐。
一つだけしか決まっていない復讐。
でも、早く自分が望む復讐を私は見つけたかった。
私の中の傷が悲鳴を上げているのだ。
血を流して、泣き叫んでいるのだ。
――決して許さない――
そう、声を上げている。
城に戻ると、私はふらついて躓いてしまった。
「大丈夫か?」
「も、申し訳ございません、陛下」
陛下が転びそうになった私を抱きかかえた。
「……其方は自分の事をあまり理解できてないようだな」
「え?」
陛下の言葉の意味を私は理解できなかった。
「まぁ良い。ブルーベル、サイネリア。ちょうど良い茶会の支度を」
「準備は既にできております」
「場所は中庭で宜しいでしょうか?」
「上出来だ、では行くぞ」
「え、あ、私、歩け――」
最後まで言わせてもらえぬまま、私は陛下に抱きかかえられて城の中庭に連れていかれた。
中庭は美しい花達が咲き誇っていた。
中庭の中央の休憩所らしき場所には他のメイドの方々が居た。
私は椅子に座らせられ、陛下は向かいに座った。
「……」
目の前にあるのは、此処に来てから私に出されていた物とは異なる明らかに綺麗な菓子。
いや、此処に出されていた菓子類も明らかに今まで私が口にした菓子類と比べ物にならない程美味しくて綺麗だが、今回の菓子はそれよりも遥かに上だ。
「――お前達」
硬直している私を見て、陛下はため息をついてメイドの方々を見る。
「……妻はまだ此処での生活に慣れておらぬのだ、食事の類には気を使えと余は言ったはずだが?」
「申し訳ございません、そのように伝えたのですが。今日の担当の者が陛下と御后様がご一緒にお食事をなさると聞いた為その……」
「良い、未だ余の愛に上手く答えられぬ妻との仲を深めるきっかけにでもと張り切ったのが分かる。故に咎めはせぬが、まぁその何だ。お前達、はしゃぎすぎだ」
陛下が呆れたように息を吐いた。
――はしゃぎすぎ?――
私はただ、首をかしげるだけだった。
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