第12話 この国を学ぶ~予想外な情報~





「あの……」

「陛下から許しを頂きました。それにストレリチア様は御后様になられる御方です、この国の事は知っておいて頂くべきでしょう」

 私はブルーベルとサイネリアに案内されていた。

 最初は呼び出すと二人が言ったのだが、自分の目で、どのような所で働いているのか、私は知りたかったので案内を望んだ。


 色々と不安もあるし、言いたいこともあるが、とりあえず何とか平常心を保って私は二人について行く。


 城から少し離れた場所に、城とは異なる意味合いで堅牢な造りの建物があった。

「……」

「陛下の許可が出てるのは、処刑人の待合所までなので、こちらへ」

 ブルーベルに案内されるがままに建物中に入る。

 正面ではなく、おそらく処刑人や関係者専用の通路を通る。

 一つの部屋の前に来るとブルーベルがノックをした。


 その音に手が震えてしまう。

 その手をサイネリアがそっと握ってくれた。

「御后様、ご安心を。貴方様を傷つける輩はおりません」

「……はい」

 彼女の言葉に、それぐらいしか返せなかった。


 部屋の扉が開かれるのを聞いた。

「御后様、どうぞ」

「は、はい……」


 サイネリアもブルーベルもついに「御后様」と私を呼びだした。


 慣れない、というかまだ心構えができていない。

 そもそも、王族の后になるために必要な物を自分が持っている気がしない。


 だが、うだうだしてても仕方ないと、勇気を出して、部屋に入る。

 そして部屋の中の光景に目を丸くする。

 皆、床に膝をつき、頭を下げていたのだ。


 困惑して視線をさ迷わせれば、何と言うか。


 慌てて、部屋を掃除しました。


 そんな感じが見て取れる。

 何か悪い事をしたような気分だ。

「……お前達『自由に使うのは構わないが、来客が来たときのことを考えて部屋は使え』との陛下の言葉をお忘れですか」

「「「面目次第もございません」」」

 その様を見て、少し厳しい表情になったサイネリアが、頭を下げている方達に少しキツイ口調で釘を刺している。

「わ、私が急に来たのが悪いのです、ですから、その……」

「御后様に非はありません。仕事に誇りを持つことは良いですし、休憩時は心身を休めるのは大事ですが、誰か来るかもしれない場所を明らかに招くにふさわしくない状態に放置しておいた事は嘆かわしい事です」

「「「仰る通りです」」」

 サイネリアの方が立場が上なのだろうか、その場の全員が頭を下げてあげようとしない。

 疑問に思っている私に、ブルーベルが耳打ちしてきた。

「サイネリアは元は執行局の局長だったんです、つまりここの者達は皆サイネリアの元部下、未だに頭が上がらないのです」

「え?」

 ブルーベルの言葉に、私は驚きを隠せない。


 サイネリアは普段はおっとりとした表情で私と向き合ってくれているが、今のサイネリアの表情はとても真面目で、厳しさを出していた。


「私が居た時は、比較マシだったが、弟がどうやら甘すぎたようですね、後で説教しておきます」

「あ゛ー!! 遅かっ……ごへ?!」

 私と慌ててきたらしい男性が激突しそうになった時、ブルーベルは私の体を庇うと同時に激突しそうになった相手を蹴り飛ばした。

「サイネリア、すみません。貴方の弟を蹴り飛ばしました」

「構いません、御后様と激突しそうになった愚弟にはそれでも足りないですから」

 ブルーベルは私の体を抱きしめたまま、サイネリアは明らかに怒りを露わにしている表情で、床の上でぴくぴくと痙攣している彼女を同じ髪や肌の色の存在を見下ろした。

「エイレン。私はお前に役職を譲る際に言ったはずだ、甘やかすだけでは駄目だと」

「ご、ごめん、姉さん。いやだってまさか御后様が来るとか思わないじゃないか!! 陛下なら『いつも良い良い』済ましてくださるから」

「……そうですか、陛下が……」

 弟さん――エイレンさんの言葉に、サイネリアのこめかみに血管のようなものが浮き上がった。

 エイレンさんは手で口を覆った、多分失言だったのだろう。

「……後で、陛下にそのあたりじっくりお話を伺います」

「あ、あの……」

「何でしょう、御后様?」

 私が恐る恐る声をかけると、サイネリアは即座にいつもの微笑みを浮かべた。

 切り替えが早い方だなと思いながらも私は問いかける。

「あ、あの執行局……というのは?」

「そうですね、ではご説明いたします」

 サイネリアがそう言って、じろりと室内を向けば、頭を下げていた方たちが顔を上げて一瞬でまだ汚れているテーブルを磨き、そして来客用と思われる座り心地の良さそうな椅子を引っ張り出して、それの汚れも全て一瞬で落とした。

 ぴかぴかになった空間に、私は漸く入っても大丈夫ですと言われ、サイネリアに案内されて、座り心地の良い椅子に座らせてもらえた。

「この国にも法律があります。それの管轄は司法局。そして法律を犯したり、契約違反行為等様々な問題を解決する裁判所があります。此処迄は分かりますか?」

「えっと、はい、何とか……」

「執行局はその通り刑罰等を実際に執り行う場所です。此処はその本部になります」

「……えっとつまり、中心?」

「はい。執行局と罪を犯した者等の監獄は基本近くにあるのですが、ここの監獄はここにある転移魔法でしか行けない場所にあります。陛下と、陛下に認められた方に関しては転移魔法で直接行くことも可能です」

「……本部ここの監獄はどういう罪を犯した方が?」

「そうですね、基本的に、民の方々が入る事はまずありません。ここが管轄する監獄は――」


「陛下に牙をむいた輩や、大勢の民を殺戮した等、そういった輩が入る場所ですから」


「……つまり……」

 私はその言葉の意味を理解した。

「はい、ストレリチア様を裏切った連中はその監獄にいます」

 その言葉に、心の中でどろりとした液体が零れ、焼けるような熱さを感じた。

「……どのような、刑罰を?」

「そうですね、普通の執行局ならば、罰金刑の場合は徴収。懲役刑の場合は労働や日々の素行の監視等、治療刑の場合は専属の医師をつけて治療を行います」

「……治療刑?」

 初めて聞く名前の刑に私は思わず聞き返してしまった。

「ええ、民の中にはある種の病故にそういう罪を犯してしまう者がいます、ストレリチア様が最も分かりやすいのであれば、薬物や酒でしょう。アレは病です。断ち切らねば同じことを幾度も繰り返す、それ故の治療刑です。本人ではどうしようもできない、そう言った場合の治療刑なのです」

「……」

 私は何となくだが、この国は自分のいた国よりもずっと進んでいる気がした。

「……此処ではどのような刑罰を?」

「先ほど言った通り、本部の監獄に入れられる輩は、この国では重罪人です。この国には死刑が殆ど行われない代わりに――拷問刑という物があります」

「拷問、刑」

 サイネリアの言葉に、私は自分の手を強く握りしめる。

「はい、拷問内容は様々存在します。一般的に肉体を痛めつけるものから、精神的な苦痛を与えるもの――様々です」

「……どうして、死刑は殆ど行われないのですか?」

「陛下が決めたのです『死刑という罰で償わせてしまえば、その愚者に殺された者達の命、傷つけられた者達の未来がそんな愚者の命一つと同じ重さになるという事だ。故に、余は罰を与える、死ぬまで、息絶えるその日まで罰を与えるのだ』と」

「……」


――私の場合は、どうなんだろう……――


「――やはり此処に来ていたか」

 情緒が不安定になっている状態で考え込んでいると、陛下が入り口に立っていた。

「陛下……」

「サイネリア、ストレリチアに我が国の刑罰について説明をしてくれていたようだな、礼を言う」

「感謝の極みでございます」

 陛下は静かな足取りで私に近づき、私の頬を撫でた。

「サイネリアから余の国の刑罰について聞いていたようだが、何か他に聞きたいことは?」

「……私を……裏切った連中は……今どうしてますか?」

「エンレイ報告を」

「仰せのままに」

 先ほどまで、どこか頼りなさそうな顔立ちだった、サイネリアの弟のエンレイさんは、真面目な顔つきになった、やはり姉弟だからか、似ている。

「現在、個室の牢屋に閉じ込めております。ただ、王女ダチュラに関しては先日陛下のご要望があったので、別室に移し、出産までは何か行動をしないよう監視しております」

「……まだ、何も、していない、という事ですか?」

「その通りです、御后様」

「……」

「それは余の指示だ。連中への処遇は其方に決定権がある、サイネリアの説明もあった通り、好きな罰を望むと良い。今すぐ答えを出せとは言わぬ、ゆっくりと考えるといい」

「……お心遣い、感謝します……」

「それと報告だ、愚者が居た。コーネリア王国の女王つまり王女ダチュラの母。そして魔術師グローブ・アーバンの恋人。他は軽蔑するなりしていたのでな。この二名だ」

 陛下の言葉に、私は色んな意味で驚いた。

「二名しかいなかったと、安堵すべきか。それとも二名もいたと、軽蔑すべきか。まぁ良いその二名のうち一名は監獄、もう一名は国で処刑されることになった。その者たちの処遇も含めて考えると言い」

「あ、あの、待ってください。コーネリア王国の王は? それとダチュラには弟がいたはずです!! グローブの家族は?!」


――そう、父親である王とダチュラの弟はどうしたのだろう?――

――そしてグローブの家族はエルフだ、エルフは「魔族」を嫌悪している――


「ん? ああ、いや何何と言うかコーネリア王国の方は泥沼だった」

「はい?」

「王族の血を引いているのは女王だったのだがな、その女王あっての娘と言わんばかりでな、ダチュラは王の子ではない。弟は王の子だったがな」


――は?――


 陛下からの予想斜め上すぎる情報に、私は――



「なんですかそれー!?!?!?」



 絶叫してしまった。





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