第一否定 人形憎愛 第五節

 事件は古江 恭二の死で終わった。

 現在は時間が少したち、僕と加羅は病院から出た後車の方で待機しており、警察の事故処理が終わるのを待っていた。

 彼女は流石に疲れたのか気持ち良さそうに寝ている、まぁ無理もないかと考えている、僕も早く家に帰って寝たい、そんな事を考えていると遠くから取調室で出会った鎌倉刑事がこちらにやってきた。


「よぉ、お前達無事だったか。」


 その声に反応したのか、さっきまで寝ていた加羅が起きてきた。


「やぁカカクラ刑事、こんな遅くまで働いているなんて頑張り者だね、で事件の後片付けとかは終わったのかな?」


「俺の名前は鎌倉だぞ、まあいいこちらの様子は残念だがまだかかりそうだ、でももうお前達は帰していいって引坂さんから電話がきた。

 そのかわり明日にでも報告書を書けっていっていたぞ。

 それにしても……これはどうなってるんだ、中には死体が沢山転がっていて、古江 恭二の肉体は分割されているし、捜索願いが出されていた、妹の小百合は発見されたのはいいが、呼吸はしているものの死んでいるし、その近くには何かの生き物の死体が転がっていた。

 こんなの普通の事件ではないぞ、お前達一体何をしたんだよ。」


「んー、説明するのが非常に難しいし疲れているから、後日にでも叔父にでも聞いてくれないか、多分君になら全部話してくれると思うよ、今後の為に。」


 すると彼女は車のエンジンをかける。


「それじゃあカメクラ刑事、またよろしくねぇ〜」


「鎌倉刑事、何か色々とすいません。」


「おう気にするな、気をつけて帰れよ。」


 僕と加羅は車に乗って現場から出て行った。

 道すがら今日の事を振り返ると、今回もまた酷い目にあった。

 いつものことなので慣れてしまったが、もう少し穏やかで、危険の少ない事件はないのかと思うが、加羅の関わる事件にそんなものはないか。

 ふと横を見ると加羅は事件を解決できた事で、嬉しそうにハンドルを握っていた。


「さて今から私の家に来て事件解決の祝いでもしようかジン。」


「誰か今からするかよ、今日はもう大人しく家に帰って休ませてくれ、全くお前に関わると楽な間に合わないな。

 ……それにしても何とも言えない事件だったな。」


「んっ、なにが何とも言えない事件なんだい?」


「だってそうだろ、古江 恭二が憎愛なんて抱いたばかりにこんな惨劇が生まれてしまうなんて、一体どうすればどちらも傷付かずに済んだんだろうなって思ってな。」


 事件は結局のところどうだったのだろうか考える、過ぎた事をいちいち考えるのはどうかと思うのだが。もし小百合さんが古江 恭二を受け入れていたら、古江 恭二はこんな事をしなかったのかと考えてしまう。


「さぁねー、そんなこと考えた所で、意味のない事だよ、君が言った事だが、確かに彼が憎愛を持ってしまったのが原因なのは確かだ。

 だがそれ以前に彼の他人の見方にも問題があった事なのだよ、人を人として見れなかった彼はいずれにせよ人を人形の様に操り、解剖などをする時に、人形をバラすかの様に他人の体ををばらしていたと思うよ。

 そしてそうやって手に入れたパーツで、無理矢理彼女と取り替えようとするんじゃないかな、だからさこの事件は結局の所早く起きていたか、もう少し遅く起きていたがぐらいの差しかないと私は考えている。

 でもそんなものを完全に分かるのは神様ぐらいのものさ。

 それに、例えどんだけ違う結果を考えた所で、未来は変えられないのだから意味のないことだよ。

 ……ただね私達にもわかっていることは、もうこの事件は終わったって事さ。」


 ……確かにそうだ、結局僕が考えている事は、違う可能性の話、どれだけ考えた所で結果は変わらない事だ。

 本当にこの手の事件は後味が悪いな……


「でもまぁ可能性として考えるなら、小百合ちゃんが古江 恭二に殺されずに、そしてお互いが嘘偽りがなく真剣に向き合う事が出来ていたのなら、幸せになっていたと思うよ。」


「……ん、嘘偽りがなく真剣にって、 一体どうゆう事だ?」


「ん? ああそれはね古江 恭二の歪んだ心に気づいていたのに小百合ちゃんが見て見ぬフリをしてしまい、そして古江 恭二を思うあまりに、他の誰かと結婚を約束しているという嘘をついてしまった事だよ。」


「え? どうゆう事だ? てかなんでそんな事をお前が知っているんだ?」


「んーそれはね、私も一通り彼等について色々と調べたからだよ、その時に彼女の勤務しているお店の仲のいい同僚に話を聞けてね、その時色々と相談に乗っていたらしい。

 その内容がね、私は兄の気持ちに応えて良いのかどうからしい。」


「応えるって、それはつまり彼女の方も古江 恭二の事が好きだったっていいたいのか? 」


「ああその通り、その同僚に聞いた所、あの二人は両思いだったという事だよ、だけど彼等は兄弟だ、例え全てを投げ出して、何処か遠くで一緒に暮らす事が出来てもそれが成功するとは限らない、古江 恭二の歪んだ心を治す勇気がない、もし一緒に暮らしても自分は見なかった事にしてしまうかも知れないと。

 そして、真剣に向き合う事が出来ないと悟った小百合ちゃんは、古江 恭二と真剣に向き合ってくれる、彼の歪んだ心を正してくれる存在がいることを信じて。

 そして自分もまた、自分に対して真剣に向き合える存在を求めて、愛する人が前を向ける様にと、あんなうそをついたのさ。

 まぁ結果はこんなことになったがね。」


「……本当にどうしようもない事件だな、お互いが幸せな道を進む為にと好きだからこそついた嘘が、こんな何とも言えない結果になるなんて……悲しいな。」


「まぁ物事なんて所詮この通りさ、必ず良い方に転ぶとは限らない、だからこそこんな事で悩んだりしてはダメなんだよジン。

 どうゆう結果になっても人間は前に進むしか出来ないんだから、例え辛く思い現実だとしても、歩ける限りは前に進まないとね。

 ……それにしても相変わらず君の家は遠いな、もう面倒くさいから本当に私の家に住めばいいのに、部屋はいっぱいあるんだから。」


「それだけは前から言っている事だが、絶対に断る! お前の家に住めば間違いなく僕の生活がおびやかされるだろ。」


「アハハ、おびやかされるって失礼だなぁ、ただ少し私の晩酌やゲーム、などの相手をされるだけだよ。」


「それが嫌だから断っているんだろうが。」


 全く、彼女の晩酌に付き合わされたら間違いなく夜中まで付き合わされ、ゲームなんて下手すれば朝まで一緒に遊ばされるのは間違いない、そんな事になれば間違いなく僕の安眠が妨害される。


「絶対にお前の家には住まない。」


「えー、絶対にかい?」


「絶対にだ!!! 大体僕には今住んでいる場所があるんだから、わざわざ住む場所を変える必要はないだろ、まぁもし、万が一僕の住んでるマンションから僕が追い出されるか、もしくは爆破されたり火事にでもならない限り、まぁその時はお前がいいとゆうのであれば住み着いてやらないこともないが、まぁそんな事はないから安心しろ。」


「火事はともかく爆破って、君はたまに突拍子もない事を言うよね、一体誰が君のマンションを爆破するっていうんだい。」


 加羅は笑いながら僕の発言を馬鹿にする。

 勝手に笑ってろと顔を逸らし外を見ることにした。

 ふと気づいたが、まだ朝早いというの人が多く、みんな同じ方向を指差しながら何かを話していた。


「おや遠くからパトカーとかのサイレンが鳴っているね、病院に援護かな?」


 確かに遠くからパトカーらしきサイレンが聞こえるがこれはパトカーではなくて、どちらかというと消防車に近い用な気がする。


「いやこれってパトカーじゃなくて消防車じゃないか? 朝から火事だなんて大変だな。」


 僕はそんな事を言いながら大きくアクビをした。


「ああ、よく聞いたら確かに消防車だね……あれあっちの方はやけに明るいな、太陽は左の方にあるっていうのに。」


「明るいってじゃあそっちで火事が起きているんだろ……正面が明るいのか?」


「ああ、そうだな君の家がある方だな……。」


「……いやいや、まさかそんな事はないだろ、きっと違う家が燃えてるだけだって……嘘だろ。」


 マンションに近づいた時、マンションに火がついている事に気づく。

 マンションに着くと、僕は燃えている場所を確認しに行く、頼むからそんな事は起こってくれないでくれと願ったが、残念ながらその願いは叶わないようだ……目の前で消防隊が消化活動を行なっている……ここから見る限り……燃えている場所は間違いなく僕の部屋だった。


「え、えーと……ジン? とりあえず大丈夫かね、言っておくが私は今回ばかりは無関係だからな。」


「……僕は自分の家が燃えた事を……否定したい。」


「……諦めろよ……まぁ気持ちは分かるけどさ……こればかりは君でも無理だよ。」


「……なんでだぁぁぁ!!」


 膝を崩し地面に手を当て叫ぶ。

 今日僕は一つの願望を否定した対価といわんばかりに……自分の家を無くした。



 続く。

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否定確信の願望否定録 @gureenkarsu

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