第一否定 人形憎愛 第三節

 警察署を出た僕達は、もう夜中だというのに、街の明かりで明るい道を車で走らせていた。

 今日一日を思い出しながら、やっぱりこうゆうめに合うのだなと溜息をついてしまう。


「ふぅ、やっぱりお前と関わったせいで仕事に付き合わされたじゃないか、しかも願望者絡みだなんて。」


「アハハ、いいじゃないか、こうやって高額の報酬が約束された訳だから君の滞納している家賃を払う事が出来るだろ。」


 ……確かに家賃はここ数週間は支払いが遅れているのは確かだが、何でこいつが知ってるのかは謎だ。


「あ、ちなみに何で知っているのかと言うと、家のポストに家賃滞納の紙が入ってたからだからね、全く前々から言ってあげているのに、家賃なんか払えないぐらいなら私の家に来ればいいのに、空き部屋は沢山あるんだよ。」


「それだけは絶対に嫌だ、お前の家に住んでしまったら仕事に呼び出される回数も増えるし、まず間違いなくお前の晩酌に付き合わされるだろ。」


「晩酌だけでなく、私のテレビゲームにも付き合わされるよ。」


「僕の安眠を妨害するき満々じゃねぇか……てかこんな無駄話をしている場合じゃないだろ、車に乗ったのはいいが、いったい肉体コレクターは何処に潜んでいて、どんな願望を願っているのか分かってるのか。」


「んー、願望は恐らく、肉体に連なる事だと思うかな、あの黒布は普通ではありえない脚力と腕力を持っていた。

 おまけに凶器はあんな物だ、間違いなくその手の願望だろ。

 居場所の事なのだが、おおよその場所は検討が付いているんだよ。」


 と言うと彼女は一枚の紙を僕に渡した。

 その紙には成分分析と書かれており、内容は彼女が拾った凶器についてだ。


「あの凶器の成分分析なんてしてもらっていたのかよ。」


「ん、ああ叔父の資料の中に入っていたんだよ、それでそれのおかけで、奴の潜伏場所がぼんやりと分かったんだよな。」


 更に読み進める、内容はまずこの凶器はやはり人間の肉体から作られた者だということがわかった。

 指をあんな鋭利な物に変えるなんて、何を願ったらそうなるんだよ。

 そしてこれの材料になった人物は、一ヶ月前ぐらいに行方不明になっていた女性、古江 小百合ふるえ さゆりという女性だった、そこである疑問が浮かんだ。


「一ヶ月前ってことは、この事件が起こる前に行方不明になっているな。

 この女性が何か関係しているのか?」


「ああ、事件が起こるよりも前に行方不明になっているけど、その女性はまだ見つかっていなくてね、まぁ今回は指だけ見つかったわけだけど。

 まぁ現場にこれを置いていったのは不味かったね、なんせこの私に居場所教えてしまったのだから。」


 場所がわかったってどうゆう事だ? この資料には場所を特定できるような情報は何処にもないのに。


「見たり考えたりするのはそこじゃないのだよジン、問題なのはね、コレクターの凶器として使われていたのがこの指だとして、もしこの女性もコレクターの収集品の一部だとしたらさ、何で彼女だけが見つからないか何だよ。」


「彼女だけが見つからないって、確かに他の遺体は見つかっているが……もしかしたら犯人は何か彼女に対して目的があって、彼女を監禁しているか、まぁ指だけが見つかってしまってるから望みはないけど、人の肉体を集めている様な奴だから、彼女はもう死んでいて遺体が気に入ったから、剥製にして飾っているんじゃないのか?」


「いやいやまだもう一つの可能性があるじゃないか、例えばさ……彼女は何かの思惑で、犯人と共に行動しているとかね。」


「え……犯人と一緒に行動しているって、つまりこの古江 小百合さんが肉体コレクターの共犯者だと言いたいのか? いやいやそれはないだ……」


 途中で言葉をやめる、加羅は警察署で、僕達は肉体コレクターを見たと言っていた。

 一つの疑問が膨れ上がる、警察署で感じていた違和感、もし僕が考えていた犯人がアイツではないならと。


「……僕達が今探している犯人って、肉体コレクターのことだよな。」


「ああ、そうだよ。」


「……じゃあさ……一つ聞きたいことがあるんだが、肉体コレクターって、僕達が出会った黒布のことじゃないのか?」


「残念ながらアレは肉体コレクターではないよ、私の予想ではその黒布こそが古江 小百合であり、肉体コレクターは古江 小百合の身近な人物だと推理している。」


 やっぱりそうだったか、普通に考えてそうだろ、あんな大きな奴がレストランにいたら、誰も気づかない筈がない。

 ……ただ、それだと一体誰が肉体コレクターなのだ? 加羅は身近な人物だって言っているが。


「身近な人物って、心当たりがあるのか?」


「そこまで自信がないけど、実は古江 小百合が行方不明になった時に一番最初に疑われた人物がいたんだよ。

 その人物の名は、古江 恭二ふるえ きょうじ、古江 小百合の兄に当たる人物だ。」


「行方不明者の兄が一番最初に疑われたのか、また彼は何で疑われたんだ。」


「まず彼等の家庭環境だが、両親は医者でこの詠歌街でも一二の大きさを誇る病院の院長をしている。

 そして古江 恭二も親のとは違う、大きさはそこそこの自分の病院持ちそこで院長をしている、一方小百合さんの方は医療関係の仕事にはつかず、アパレル関係の仕事をしていたみたいで、そしてここからが本題だが、妹が行方不明になった時一番最初に古江 恭二を疑ったのは、両親なのだよ。」


 その言葉を聞いた瞬間驚いた、本来犯人扱いされたら庇うはずの両親が真っ先に息子を疑ったからだ、だがそのことで一つの可能性が浮かび上がった。


「両親が息子を疑ったって、妹に執着でもあったのか?」


「ああそうだよ、しかもかなり妹さんにご熱心だったみたいでね、何度かそれで家庭内で問題が起きていたらしく、それのせいで同じ職業なのに勤務先が違うらしいからね。

 しかし両親とは別に妹さんの方はそこまで嫌ってなく、両親には内緒でよく病院内に足を運んだり、手を繋ぎながら一緒に帰ってる事があると、仕事仲間が目撃していたみたいだよ、仲の良い兄妹だってね。」


「え……家庭内で問題まで起こすのに何で嫌われてないんだ? しかも仲良く歩いている姿が目撃されているって、それじゃあまるで……。」


「んー、そこらへんは本人達にしかわからないことだから、なんとも言えないね、でもこれだけは言える。彼等が間違いなく事件に関わっているのは確かだってね。」


 と彼女はなんの疑いもなく自信満々にそう答えた。

 全くその自身は何処から来るんだよ。


「で、そこまで自信満々だということは、今向かってるのは古江 恭二の実家か。」


「いや全く違う、そんな所に剥ぎ取った肉片が落ちていたら、周囲の人にバレてしまうだろ。

 今向かってるのは、彼の勤務先の古江病院だよ、多分そこの霊安室に、集めた肉体のパーツを隠していてついでに古江 小百合もそこに住まわしていると思うよ。」


 そういえばそうだな、自室に死体のパーツなんか置いていたら腐臭で周りの住人にバレてしまう。

 でも自分の病院とかなら確か霊安室と呼ばれる部屋などがあるからそこら辺に隠せる、でもそれなら……


「それだともう警察が捜査に入ってるんじゃないのか、第一容疑者なら最初に捜査が入っていてもおかしくないだろ。」


「いや、叔父に聞いたら捜査に入った時は彼の自宅と、病院の一部分しか捜査ができなかったんだ、そして何も見つけられず、しかも失踪に関与した証拠も一切なく、証拠不十分のまま肉体コレクター事件が発生したため、彼は容疑者から外れたんだよ。」


「あれ、ちょっと待てよ、今から病院に行くって、今何時だったっけ?」


「ん、今丁度夜の十一時だね、もう少しで明日になってしまうね、いやー時間が流れるのが早いことだ、お、丁度病院に着いたよ。」


 と、彼女が言い終わると、車を止め目的地の病院にたどり着いた……いやちょっと待てそれよりももっと、重要な事がある。


「いや着いたっていっても、もう病院閉まってるぞ、まさかとは思うが、不法侵入する気じゃないだろうな。」


 彼女は驚いた様な様子でこちらを見る。


「なにをいってるんだジン、それ以外手段はないだろ。

 こんな時間にいきなりきて、わざわざ正面から入って、霊安室を調べさせてくれと言っても断られるだろ、まぁ任せなさい、こんなこともあろうかとピッキングツールとハッキングツール一式を揃えてあるから、裏口から侵入と監視カメラの記録消去はできる、いやー安心して調べ物ができるね。」


 ……まぁ彼女に常識を求めるだけ無駄だったな。

 クルマを降り辺りを見回すと、周囲に人影はなく、窓から見える範囲では病院は薄暗く灯りがついており、歩いている人影はない。

 面会時間が過ぎた為、正面はやはり開いている様子はない。

 すると加羅はカバンを手に持ち裏口に通じる扉を開け、裏口につくと、カバンの中から自作の腕に装着できるハッキングツールらしき物を付け、電子ロックで施錠されていた扉をものの数秒ぐらいでハッキングしてしまった。


「えっ、あまりにもチョロすぎない? ここの防犯システムが心配になってきたよジン。」


「普通の人間はそんなに簡単にハッキングできないんだぞ。」


 僕達は裏口の扉を開け中に侵入した、部屋の中は暗く、手に持っていた中を照らすと中は医薬品の貯蔵庫だったらしく、奥に続く扉を開く。

 扉の先は広い廊下が続いており、そこからナースステーションが見えた。

 周りを見渡し、職員などが居ないか注意深く見る……よし、どうやら運良く誰も居ないみたいだ、すると後ろの方で。


「おや、ラッキー、あんな所にナースステーションが見えるな、するとー……あったあった防犯システム一式が置いてあるじゃないか。

 ん、あーそうゆう感じでここを運営してたのか、それならやりやすいね、これをこうしてこうやってほいさ、これで問題なく調べ物ができるね。」


 加羅は辺りを見渡す事もなく、ナースステーションに駆け寄ると、そこにあったパソコンと防犯装置に細工を始めた。


  「……普通は周りに人が居ないか見るもんじゃないのか。」


「それはジンの役目だからね、何なら代わりにハッキングするかね。

 まぁ君だと出来ないけどね、それよりもジン、そこに館内の見取り図があるじゃないか、どうやら霊安室は地下の階段を降りた所を真っ直ぐに行くみたいだね。」


 彼女が指を指した所に見取り図があり、一階から三階と、地下の見取り図が書き込まれており、僕は地下に行くための階段を探した。


「階段もこの部屋から左に向かえばあるな、見つかる前に早く行こうか。」


 細工をすますと廊下にでる、誰にも見つからないように壁に背中を預けながらゆっくり進んでいく。


「なにをしているだい、ジン。」


「見て分からないか、誰にも見つからないように壁に沿って歩いているんだよ。

 侵入しているのがバレたら騒ぎになるだろ。」


 すると彼女は深く溜息をついた後に。


「じれったい、それじゃあ咄嗟の判断が出来なくなってしまうだろ、こうやってキビキビ進めばいいんだよ。」


 と彼女は廊下を堂々と歩き出すと、僕は慌てて加羅に追いつく。


「イヤイヤそんなに、堂々と歩いたら、職員か患者にバレてしまうだろ。」


 すると彼女は廊下の真ん中で停止した後クルッと回転した後にこう言った。


「それについては安心していいよジン、患者は分からないけど、職員などには見つからないと思うから。」


 彼女はそれを言うと、今度はケンケンパッと音を立てながら歩いて行った、いやどこからそんな自身が湧いてくるのか分からなすぎる。


「全くそんな事をしていて見つかったら赤面ものだぞ。」


「ん、あ、そっかジンは見てなかったんだったね。」


「見てなかったって何がだよ。」


 と階段を下りている途中で彼女は僕に伝えてきた。


「さっき防犯システムをハッキングした時に分かったんだけどね……ここにナースさんなどの職員は誰もいないんだよ、だから今の所は安全に進めるんだよ。」


 と階段を下りた時に彼女はとんでもない事を言い出した、職員がいないだって、そんなことはないだろ、それだともし患者に緊急事態が起きた時誰が駆けつけるんだ?彼女にその事実を再確認しようとした。


「職員がいないだって……それはあれか、一階や地下にはいなくて他の階にはいるって事であってるんだよな。」


「いいや、本当に誰もいないんだよ、そして院長室のカメラもあったんだけど、そこにも誰も映ってなかったから、この病院は職員ゼロだよ、そのおかげで楽々と侵入できるよ。」


 唖然とした……命に関わる仕事だというのに誰一人この病院に関係者がいないことに、この病院にだけは入院しないようにしようと決心した。


「でもこれで私は確信したよ、ジン、間違いなく古江 恭二が犯人だ。」


 彼女はいきなり古江 恭二が犯人だと確信し始めた。


「確信したって、さっき車の中ではそうかも知れないと言っていたのに何でまたそういいきれるようになったんだ。」


「何だジン、気づかないのか? この病院に職員は誰もいない……いやこの場合職員がいたとしよう、さてどうなる、勿論古江 恭二が犯人だとし、彼が黒布の生き物を従えていたらだ。」


 といきなり彼女は変な仮説を立て始めた。


「はぁ、気づかないも何も、職員がいて当たり前の事なのに、それをいたとするってそんなの普通の事だろ、で院長の古江 恭二が、黒布と一緒にいた場合どうなるかなんて……いや……ちょっと待てよ。」


 ある事に気付く、確かにこの病院に職員は誰もいないというふざけた状態だ、でも逆に考えるともし、職員がいる状態で、古江 恭二が犯人として、黒布と一緒に行動してるとすると、もし職員のだれがが黒布を発見してしまったら……


「間違いなく殺されるだろうな、そしてそのつど目撃者を消していたら警察は怪しく思い介入されてしまう。

 そんなこと毎度していたらいつかはバレてしまう、でもここには今職員は誰もいない。

 誰もいないと言うことは、いくらでもあの黒布を匿うことができる、正しくこの病院は犯人にとって隠れたり、誰かを殺しに行ったり、帰ってきた時に後処理ができる、最高のシチュエーションなのだよ、そして確実な証拠が、この扉の奥に全ての答えがあるぞジン。

 さぁ、秘密を暴こうじゃないか。」


 僕達は霊安室の扉の前にやってきた。

 すると彼女は扉が開いてるのを確認すると、その扉を開けた。

 中は中々広く、中央には手術台らしきものが置いてあり、入り口から左の壁にはラベルで記された瓶が置いてあり、右の壁には遺体を入れるであろう押入れが無数にあり、何故か一つだけ扉が開いていた。


「おもったよりも広い所だな、でこの部屋で何を探せばいいんだ。」


「まずは、物的証拠である被害者達の体の破片、もしくは古江 小百合こと黒布の確保、そして古江 恭二が犯人の場合逮捕だね。

 さて取り敢えずはそこの瓶でも調べようかな。」


 すると彼女は左の壁の方にさっさと歩いていった、それなら反対側の押入れでも調べることにするか、押し入れにはそれぞれ名前が書いてあり、どれも全く知らない名前ばかりだ。

 でもその中で一つだけ、最初から開いてあった押入れに目がいった。

 それには名前が書かれておらず、もしかしたら誰かが開けたまま帰ってしまったのだろうかな、酷い死体が入っていたら嫌だな、取り敢えず閉めておくか、押し入れに手をかけた時、中に寝ていた死体に気づく。そのベットには患者の様な服装で年齢は二十代前後の髪は黒く、肩ぐらいまで伸びている女性が入っており、死体には特に目立った外傷はなく、死んでいるにはあまりにも綺麗だなと、初めは死体ではないのではないのかと思ったが、胸の辺りを見ると少し様子がおかしい。

 胸が動き呼吸しているのが分かる、どうやらこの子は寝ているようだ……いや霊安室で寝るなんてどう考えてもおかしいだろ。


「……なぁ加羅、ここって霊安室だったよな。」


「そんなの当たり前だろジン、それにしてもこっちを見てみろジン、人間の声帯らしきものや、腕に足、様々なものがここに置いてある、多分これのどれかに被害者の物が紛れているかもしれないな。」


「いや、それも重要な事には変わらないんだろうけど、こっちに来てくれないか、ここに女性が眠っているんだが……」


 彼女は手に持っていた瓶を元に戻し急ぎ足でこっちにくると、寝ている女性の顔を見る。


「……んーこれは予想外だったね、まさか本当に古江 小百合がここに隠されているとは思わなかったよ。」


 彼女は呆れた様な顔をしながら古江小百合の体を見ていた。


「え? この子が古江 小百合だって? 何かの間違いだろ、呼吸は普通にしているから寝ているんだろうけど、でも何故だ? 彼女は一ヶ月近くもここに監禁されていたとしたらなんでここにいたままでしかもこんなに熟睡しているんだ? 鍵は内からなら開けれるんだから普通に逃げ出せるだろうし、それにお前の推理だと、古江 恭二と一緒にいた黒布が古江 小百合じゃなかったのか。」


「いいや……どうも違ったみたいだよ、彼女はここで眠っていたのだろうな、まず君の疑問の答えるとして、彼女はここを出ないんではなくて、出られないんだと思うよ。

 多分だが彼女はこの一ヶ月もの間ずっと眠っていたんだろうな、その目的としてはほら見てみなジン、よく見たら分かるが、彼女のいたる所に縫っている跡が見える、彼女はここで手術をされていたみたいだね、古江 恭二によってね。」


 加羅の指で刺した部分を見てみると、喉の部分、手の付け根、など露出している部分の所々に縫った跡を見つけた、そして僕は今までの犠牲者達の事を思い出した。


「この縫っている所ってもしかして……今までの犠牲者達が剥ぎ取られた部位なのか。」


 加羅は頭を掻きながら苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ああ、まさしくその通りだよ、これで古江 恭二が犯人だと分かったことと、彼の犯行動機が少なからずわかったね。

 でもここに古江 小百合の体があるとなるとかなり厄介な事になってきたよ、まぁアレが誰なのかは本人に直接聞いてみたらいいのかな、ねぇ古江 恭二さん。」


 彼女がそう言い振り返る、慌てて扉の方を見ると、そこには人影が映っており、その人影が霊安室の扉を開けた。

 入ってきた人物の身長は目測で175ぐらい、僕よりもやや高いぐらいの医者の服装をしている男性だ、どうやら彼が古江 恭二なのだろう……そして後ろの方には例の黒布が後から入ってきた。

 古江 恭二は、部屋を見渡し、僕達以外に誰もいないのを確認している。


「これは……一体どうゆうことなのかな……キミらの服装を見る限りここの患者でもなさそうだし……しかも私が誰だか知っている。

 ……はぁこれは非常に面倒なことになってしまったね……君達以外にはもういないのかな? まぁ別に構わないか、もしまだいるなら後で見つけだしてバラせばいいんだし、ん、ちょっと待てよ……君達どこかで見たと思ったら、カモノハシカにいたカップルじゃないのか。」


「ああ、そうだよ、貴方の今まで起こした事件を予測さしてもらってね、カモノハシカで少々張り込みをさしてもらっていたのだよ、それにしてもまさか、初日に犯行を起こすとは思わなかったよ。」


「ああ、やっぱり君達か、騒がしいカップルだったからよく覚えているよ、じゃあ路地裏で暴れていたのも君達だったのか、コイツが酷く殺気立っていたからおかしいとは思ってたんだよ。」


「コイツと言うのはその後ろの人物のことかな、私の推理では古江 小百合と思っていたのだが、古江 小百合はこのベットで寝ている……するとその女性は一体誰なのかな?」


 すると 古江 恭二の顔から笑みが無くなり少々イラついた表情になった。


「小百合をこんな、醜いものにする筈ないだろ、彼女は僕が作った実験体だ、小百合を完璧な存在にする為の材料を集める為に作ったのだよ。」


 すると古江 恭二は棚がある方に歩きだした。


「作り出したって言ったが、例え君が医者でもそんな事不可能に近いのではないか、見たところ人以外も混じってるみたいだが?」


 前回は薄暗い路地の為その姿は分かりにくかったが、今回は明かりのついた部屋にいるためその姿をハッキリと見える。

 体全体を黒布に覆っているが手や足などは露出しており、明らかに人ではない何かが混ざっている。


「君達の様な、普通の人間にはそれは不可能だろう、でも私は違うのだよ……普通の人間とはね。」


 そう言いながら古江 恭二は、瓶の中から指を取りだし、それをこちらに見せた。


「この様に私は神に選ばれた人間なのだよ。」


 そう言うと、手に持っていた指はみるみる姿を変え、その形は僕達が拾った凶器と同じ物に姿を変えた。


「ほう、それが君の願望チカラなのだね、さしずめ名前をつけるなら肉体変化もしくは肉体改造なのかな。」


「それに近いかもしれないが、でもそれだけじゃないと思うぞ、黒布を見て分かるが改造した人物を自在に操ることも可能なのかもしれない。」


 ただの肉体改造だけなら黒布は大人しく従わない、自分をこんな姿にした、古江 恭二に襲いかかっていてもおかしくないがそれを黒布がやらないという事は、制御する事が可能という事だ。


「何だ君達、あまり驚かないじゃないか、しかも中々に良いところを指摘してくる。」


「まぁ、これでも驚いているほうなんだが。」


「ん、そうだな、我が相棒のワトジンはあまり顔に出ないから分かりづらいよ、まぁムッツリだから仕方ない。

 それでもね、今回の事件は私達にとって予想の範囲内なのだよ、何故なら私達の仕事は貴方の様な普通とは違う、特別な人間を捕まえるのが仕事だからね、今から自首すれば痛い思いはしないと思うから勧めるよ。」


 誰がムッツリだと、言い返したい所だが、場の雰囲気がそれをできる雰囲気ではなかったため、あえて口を閉じた。

 すると 古江 恭二は何かを納得したような顔をし、こちらに指を向けた。


「フムフム、私以外にも力を持った者がやはりいるのだな、まぁ私には関係ない話だ、それよりも重大なのは目の前にいる君達だな小百合が近くで寝ているからあまり暴れたくないのだが仕方ない……殺せバラせ。」


 次の瞬間、後ろにいた黒布は、こちらと距離があるにも関わらずに、俊敏に動き距離を縮めると物凄い速さで腕を振りかざしてくる。


「ほらきた危ないよ、ジン。」


「ぐお!?」


 僕は黒布の腕に潰される寸前で彼女に蹴られ、吹き飛ばされる事で避け、加羅もまた僕を蹴った反動で避けれた。


「全く〜、ジンよ何をぼうとしているんだい、敵は目の前にいるというのに。」


「あ、あんな速度、普通は反応できないよ、てかよくも僕を蹴ったな。」


 立ち上がろうとした瞬間、黒布は僕に目標を絞ったのか、今度は左手で僕を貫く為に伸ばす、僕は左に避けようと思ったが左は既に壁際だったのを思い出した。


「あ、しまっ、」


「全く、だからあれほど肉体は鍛えた方がいいよ、と言ってあげているのに。」


 左手が当たるよりも先に、加羅は黒布を蹴り飛ばし、ビンなどの戸棚に勢いよくぶつけた。


「んー、その感じだとジン、まだ君の願望チカラは使えないみたいだね、それじゃあ仕方ない、ここは私がどうにかしてあげようか。」


 すると彼女は鞄を床に置き、中から60センチぐらいの棒を取り出し、それをトンファーの形に変形させ、拳を構えた。


「それじゃあ自首しないという事で、大体半殺し、もしくは後遺症が残るほどぶちのめされても……恨まないでね。」


「随分と自信満々だな、僕が作ったコイツに勝てると思うのか?」


 加羅に蹴られ棚に埋もれていた黒布は、自分の体の上にあった棚を彼女に向けて勢いよく投げつけた、それを彼女は避ける事なく、逆にそれに対して走って行き、トンファーで棚を左に軽く逸らし、空いていた右手で勢いよく黒布を殴りつけ壁に叩きつけた。


「んー、普通なら今ので頭蓋骨まで破壊できたと思ったのに……中々硬いね、骨の強度までいじくれるのか、それなら!」


 彼女はそのまま左を向き、古江 恭二めがけて裏拳を食らわす、間違いなく直撃した……が、しかし。


「……え。」


「ほう……まさかやはり自分の体も弄っていたんだね。」


 腹部を狙った一撃は、直撃したにも関わらず、膝をつくことなく、ましてや後退りすることもなく、平然とそこに立っていた。

 古江 恭二の手が動き出そうとした時、危険を察知し後ろへと後退する。


「当たり前だろ……こいつは確かに強く、銃程度では殺すことができないが。

 こいつは力加減が出来ず、相手をミンチにしてしまうからな、私だけで出向かないといけない時が多々あったからな、まぁその為にも色々な素材が必要だったから、こいつには助かったんだよな。」


「なるほどその筋肉などは殺された男性の遺体から採取したという事か、ホント酷いことするね、全く気に入らないよ。」


 そう言うと彼女は、今度は顔めがけて右ストレートを放つ……が、古江 恭二を守る為に近づいてきていた黒布によって殴られ、加羅の体が宙を舞うが、空中で一回転をし見事に着地を決める、どうやら後ろに吹き飛ぶことで避けたみたいだ。


「おい、大丈夫か。」


「んー、当たった瞬間に後ろに吹き飛んでみたけど、中々痛いなー、相手が一人なら楽勝だけど、二人はキツイかなー、まぁ私の方が圧倒的に強いけどね。」


 すると加羅は再度古江 恭二達に突っ込んでいった。


「おい、あまり無策に突撃しない方がいいんじゃないか。」


 彼女は僕の言葉を無視するように突き進む、それに反応するように、古江 恭二も前に出る。

 古江恭二の拳と加羅の拳がぶつかり合った時、金属音が部屋中に響き渡った。

 力と力がぶつかり合う事で、両方、あるいはどちらか一方が後ろに仰け反るかと思われだが、両者共に一歩も引かず、互いの拳を更にぶつけ合う。

 古江 恭二の後に続く様に黒布の手が伸びてくるが、加羅の動きが速く、捉える事が出来ない。


「おいおい、これでもトラックを壊す事が可能な腕力なのに、これに対抗するとは君の方こそ化け物じゃないのか。」


「アハハ、こんな美少女を目の前にして、化け物とは酷いなぁ。」


 お互いの攻防が続く、第三者から見れば両者とも同じ実力に見えるがそれは少し違う、加羅の動きがだんだんと更に加速し、古江 恭二と黒布がそれに追いつけずに、徐々に壁際へと追いやられていく、二対一だとゆうのにこの強さ、いつ見ても思うが相変わらずの人間離れな強さだな、敵じゃなくて良かったと思うよ。


「それじゃあまずは、邪魔者から潰すとするかな、お前には恨みはないがここらでフィニッシュとさして貰おうかな! 」


 加羅は古江 恭二に蹴りを入れ壁に衝突させると、今度は黒布を蹴り上げ空中に浮かせると、足に力を入れ地面のタイルを砕き、持っていたトンファーの持ち手の部分を破壊する勢いで握りしめると、先程よりも強く殴りにかかった。

 ……しかし加羅の拳が黒布に当たる寸前、糸が切れた人形の様に地面に倒れ込んでしまった。


「……あれ? 力が上手く入らないこれはもしかして……。」


「ふう、もうちょっと早く、それぐらいの力を使われていたら、コチラが負けていたと思うが、どうやら効いてきた様だな。

 それにしても凄いな君は……普通の人なら意識が昏倒する様な、麻酔を使っているのに、そんなに動けるのだから。」


 古江 恭二は自分の爪の一部を剥がすとそこから黄色い液体が流れ出てくる、加羅はゆっくりと立ち上がる、だが、それは誰が見ても、精一杯であるのが分かる程、無茶をしているのが分かった。


「あーまさか麻酔を体に仕込んでいたとは……あー完全に油断していたよ、これはちょっとヤバイね〜。」


「だから油断するなといっただろ。」


 これは不味いと思い彼女に駆けよろうとしたが……? 何故か……足が動かない……別に恐怖で動かないのではなく、物理的に何かが足を掴まれて動けない、掴まるといっても後ろは死体を収納している扉しかないので誰もいる筈がない。

 それなのに自分の足を誰かが掴んでいる、何がそこにいるんだと、恐る恐る自分の足を見た。

 ……足を掴んでいるものを見た瞬間、背筋が凍りつく、そこにはあるはずもない、いやあってはおかしいものが、人の手が扉を突き破り僕の足をしっかりと掴まえていたのだ。


「なんだ……これは。」


 次の瞬間、後ろにある死体が収納されていた、突然開き中から無数の手が現れ拘束される様な形で、床に叩き伏せられる。


「グア!? くそ動けない!」


 床から立ち上がろうとするが、恐らく四人ぐらいに捕まり、完全に動けなくなってしまい、周りを見るといつのまにか僕は何かに囲まれていた。

 僕だけではない加羅の周りにもいつのまにか集まってるじゃないか。


「おいおいジン、人に言っておいて自分もがっつり油断しているんじゃないか、全く……それにしてもまさか死体まで動かせるとは流石にセコくないかな。」


「何も私が、操作できるのが一体だけとは言っていないんだが、一度弄った事のある肉体なら私は自在に操ることがてぎるのだよ、まぁそのかわり複雑な操作をしたり、自動で動かすには生きている状態じゃないと出来ないがな、このようにな。」


 古江 恭二が合図をした次の瞬間、周りにいた死体が彼女に襲いかかりにいく、彼女はフラフラな状態にもかかわらず、、最初に襲いかかってきた死体の攻撃を避け、蹴りを入れる、次に捕まえようとした死体を体を逸らし、そのまま殴りつけ壁に激突さした。

 次の瞬間、その隙をまるで狙ったかのように黒布の手が彼女を捕まえてしまった。

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