第2夜 FRIDAY NIGHT 第4話 泣き顔でスマイル
ママの“いれたいの~攻撃”に押されまくっていたその時!
店のドアが開いた。
「いらっしゃいませー」と香奈ちゃんが反応する。
常松も振り返ってみる。
(あーっ、マズイなー。何もこんな時<ママのシモネタ大炸裂中>に客が来なくてもいいのに)
目に映ったのは、一昨日に出会った沙希であった。
常松の姿を確認した沙希は、軽く手を振ると常松の左隣に座った。
「ママ~、なんだか楽しそうね~。入れたいとか、なんとか、聞こえてきたけど、何の話? 楽しそうな会話なら私も入れてよー」
「あら~、沙希ちゃんもい♡れ♡て♡欲しいの~。ツネマー、よかったじゃな~い。
沙希ちゃんもい♡れ♡て♡欲しいって!♡」
「常松さんが何かいれるんですか? 高級なボトルかな? いったい何なのかしら~」
困ったことに沙希は、シモネタではない何かを期待している様子で、屈託のない笑顔を常松に送る。
(うわー、これはマズイぞーー。マイクのスイッチよりもヤバイって!! なーんで、このタイミングで、こんなシモシモ、もしもしこんばんは!なネタに食いついてきちゃっうんだろう)
その時、リーサルウエポンと化したママが破壊力MAXの攻撃を加える。
「ねえねえ、沙希ちゃん、聞いてよ~。ツネマーったら~、私にいれたくて仕方ないみたいなのよね~♡。でも、ツネマーったら欲張りだから、美人の沙希ちゃんにもいれたがってるって
(おーーーい、何の“
「いやいやいや、ママってば、その手のジョークはダメだって! マジでシャレにならないから、ホント、そういうジョークはやめましょうよ」
必死になってママの攻撃に耐えつつ、おそるおそる沙希を見る。
沙希の表情は、若干、強張っているように見える。
(ヤバイなー! さっきの会話がシモネタだったことに気がつきはじめたぞー。
ここは、キチンと説明して身の潔白を証明しないと)
「ホント、ママってば、冗談がキツすぎだよなー。沙希ちゃんも変な誤解をしちゃうよね~ぇ。俺は、ただ、ホント、カラオケをいれるって言ってるだけなのに、参っちゃうよなー!」
常松の必死の言い訳に、沙希も微笑みながらうなづいているが、その微笑もなんだか、ひきつっているように見えた。
そんな沙希の表情に気づき、話題を変えようとした・・・・その時、
「もう~、ツネマーったら~、相変わらず美人に弱いんだから~。そんなに顔をニヤけさせてると、沙希ちゃんが気味悪がるわよ~。今風にいえば“ウザキモい”って感じかしら~」
「ちょっとちょっとー、勘弁してくださいよーー! ニヤけてなんかないでしょう!
どっちかといえば、誤解を解くのに必死な顔つきだと思うんだけど。
だいたい、俺は“歌”をいれようとしただけでしょう!」
「そうよね。だから~、い♡れ♡た♡い♡んでしょ~」
「まーた、そっちに戻っちゃってるよ!!」
ママにツッコミを入れ再び沙希に言い訳をしようとした、その時、
「あー、ニヘイさんじゃない! いらっしゃっていたんですか~?」
沙希は、ナナメな感じでニコやかに手を挙げる
「沙希ちゃん、こっちで一緒に飲もうよ。そっちにいると危険だよー」
(くそーーー! あのナナメ野郎! ニヘーラの分際でふざけやがってー!)
沙希はグラスを持つと席をたってしまった。
「そうよネ。こちらは、Hな話ばかりのようだから」
無情にも沙希は、ナカちゃんの誘いに乗って席を移動する。
その常連2号ニヘーラに目を向けると、沙希が横に座るや否や表情がニケけまくっている。
(あいつの、あの顔の方がニケけてるっていうんだよ! しっかし、あの顔! ムカつくなーー! う◯こ長いくせにー)
悔しそうに
ママは妙な敗北感にテンションが下がりまくる常松のグラスをとって水割りをつくりはじめた。
「沙希ちゃんにフラレちゃったわね~」
「もう、ママがしつこく、大名行列並みに
「私は、ツネマーの本心を代弁してあげただけなのよ~♡」
「はいはい、もうわかりましたよ。俺も男だから仕方ないですよ。シモが好きですよ!」
ドSなのだがキュートで、しかもちょっとセクシーな顔つきのママを見ると、どうしても強く怒れない常松は最早、開き直っていた。
正直なところ、掴みどころのないママの神秘性が魅力的にさえ思えるのであった。
(このママのノリには敵わないよなー。でも、ママってやっぱり魅力的なのは確かだから、ママに入れたいって思われてしまうのも別に悪くないかもなー。
しっかし、あのナナメ野郎だけは、ムカつくよなー)
そんな思いが頭をよぎる中、楽しそうな沙希の笑い声が耳に入ってくると、やっぱり少し、寂しく思える。
もちろん、そんな2人の楽しげな雰囲気の中で、歌なんて歌う気にはなれない常松であった。
――泣き顔でスマイル............ってかーー!
FRIDAY NIGHT
笑い声が……………………。
…………………………………………嫌な思い出に変わる。
<第2夜 終>
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