第3夜 DRAMATICでDRASTIC! 第1話 後輩 つじのまこと

「あ~あ、なんか、イイことないかな~」


 仕事帰り、いつにも増して暗い顔の常松は電車待ちのホームでボソッと呟いた。


 先週末に“いいなー♡”と思っていた女の子に嫌われてしまい、自分のみじめさを思い出していた。


(なんで、こんな思いをしなきゃいけないんだろう!)


やるせない気分でいっぱいいっぱいだった。


「つねまつさーーーん! 今日も暗い顔してますねーー!」


うつむき加減の常松を見つけた後輩の辻野まことが大きな声でからんできた。


(うるさいのがきたなー)


内心、そう思う常松であったが、会社の後輩にバカにされたままではカッコがつかない。


「辻野―! お前、仕事は終わったのかよ。明日は大事なプレゼンがあるんじゃなかったのか?」


「明日の案件は絶対に勝ちますよ! もう何日も前から準備してきたんだし、それに、俺は仕事が早いっすからね!」


「なーにを言ってやがる」


「あっ、そうだ! 常松さん、これから一杯つきあってくださいよー!どうせ暇なんでしょ!! 行きましょうよーー!」

「おいおい、どうせ暇ってことはないだろうが!!」


「すみません! ちょっと調子に乗りすぎましたね。でも、飲みに誘ったのは、常松さんのスタンスを見習ってのことなんですよ」


「?? どういうことだよ?」

「いつも常松さんって、大事なプレゼンの前日は飲むことにしてるって言ってるじゃないですか。そうするとプレゼンがうまくいくって! だから、俺も今日は準備も終えたし、飲みに行こうと思ってたんですよ。しかも、その験担ぎのプロである常松さんと一緒に飲めれば、明日は絶対に勝てるってもんでしょう」


「仕方ない奴だなー。そこまで言うなら一杯だけつきあうか!」


「さすが、常松さんですね。後輩に優しいって評判は本当ですよね」

「おいおい、その妙な持ち上げ方はやめてくれよ! お前に褒められるのはなんか気味悪いって!」


「またまたーー! 喜んじゃってるくせに!」


 常松は辻野の中途半端なお世辞に内心うれしく感じ、なんだか気分が晴れやかになった気がした。もともと、この辻野の調子良さと明るいキャラクターには、妙な心地よさを感じていた。


 辻野の住まいは常松の家の近所だったので、同じ方向だからなのか、会社帰りに二人で飲むこともしばしばであった。


 二人は、TQ線の急行に乗り、T駅で降りた。

辻野の案内でさびれた小料理屋に入り、そこそこ美味い料理と日本酒をいただく。


「しっかし、お前は酒が強いよなー」

「常松さんだって、結構強い方だと思いますけど」

「けど….? けど、何なんだよ!」

「いやいや、酒は強いけど、あっちの方は強くなかったりして」

「バカヤロー! 俺は下半身もストロングなんだよ!」

「まーたまた、股が強いんですかーー?」


「まあ、お前の底抜けな強さにはかなわないかもな。お前って、女にいろいろしつこそうだしなーー」

「いやいや、こう見えてもタンパクな方っすよ!」

「いや、お前は絶対にネチネチいきそうだよ」

「ハイハイ! たしかに俺は女にベトつくタイプですよ」

「その点、俺はまったくベトつかないし、しかもパサつかないからなー」


「それって、○○○○サスーーンじゃないっすか!」


 酔っ払いの話というのは、どうしようもない方向へと流れていくものである。


「常松さーん!もう1軒いきましょうよ!イイ店を見つけたんですよ」

「また、シャレたショットバーかよ」

「まあ、いいから、つきあってくださいよ!」


 さびれた、しかもひなびた小料理屋を出ると、一陣の風が吹いた。


(なんだか、爽やかな夜だなー)


 とても気分が良くなってきたので、夜風を感じながら歩く足取りも軽快だ。

前を歩く辻野を見ると、彼もなんだか気持ちよさそうな雰囲気を醸し出している。


「気持ちいいっすねー。風がとっても気持ちイイなー」

「ホントだな」

「あと、もう少しで着きますよ」

「どんな店なんだい?」

「とにかく笑えますよ!あっ、もう、そこですよ。あの緑のネオンサイン」


 ラーメン屋の角を曲がると、突き当たりに緑の派手に光る看板が見えた。

常松が目を凝らす。

「えっ! あれかよ」


【スナック ミホーク】


「お前もスナック好きだったのかよ!!」


 スナッキーな夜はつづく。

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