第2夜 FRIDAY NIGHT 第3話 To The Highway
ドSママの陰謀により、常連2号ニヘーラから“股”の方ではなく、歌の方に対抗心を燃やしていると勘違いされてしまった常松。
そして、いよいよあの歌には負ける訳がないという自信満々の常松の歌が炸裂する。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
常連怪人ナナメ男に大見栄を切った常松。
そのせいなのか店内は、ピーーーンと空気が張り詰めているように感じられた。
が、ドSのママにとっては、そんな空気感はナッシングといった表情で、ニヘーラVs常松の対決を楽しんでいるように見えた。
「ツネマー! 早くニヘイちゃんから私を奪い取ってぇ~♡」
(お前は、ニヘーラのモノだったのかよ!! っていうか、最早それでいいよ、そのままで)
すると、ニヘイちゃんこと常連2号ニヘーラがママのセリフに反応。
「いやいやいや、私のモノではないですから」
さすがの常連2号も抵抗している。
(いや、お前のものにしちゃっていいんだっつーの!)
「あら~、ニヘイちゃんったら私がツネマーに肩入れしたから、ご機嫌ナナメになっちゃったのかしら~」
(おいおい、ナナメなのは、あいつの姿勢だよ!!)
「ママ、冗談はそのくらいにしてほしいなー。それより、プロ並みにうまいという彼の歌を早くこの耳で聴いてみたいものですよね」
常連2号ニヘーラは嫌味オーラ全開で常松を見ている。
(なんだ、こいつ! 嫌味な野郎だなー)
不覚にもそのセリフにカチンなうえにコチンとしてしまう。
そこへ、再びママがからみつく。
「そうよね~、確かに早く聴きたいわよね。じゃあ、ツネマーは何を歌うのかしら~」
そう言いながら常松のグラスにバーボンをそそぐ。
常松は気合いを入れ直して、たった今、グラスに注がれたバーボンを一気に飲み干す。
「んじゃあ、気分をかえて、俺はビートの効いたノリのイイヤツにしようかな」
「じゃあさー♡」と、香奈ちゃんが割り込んでくる。
「あの歌は歌えますか-? “♪シャワ~を浴びすぎ~て~♪”っていう歌。あれ、なんて曲だったかしらー」
「ああ、JOOWYの曲だよね。 “YES.NY(ニューヨーク)”でしょ」
「そうそうそう、その曲よー。歌って、歌ってーーぇ!」
「OK! じゃあ、決まりだね」
自分の得意な曲をリクエストされ、うれしさが込み上げてくる常松。
そこへ、またまた意表をついて、ママが口をはさむ。
「私もその曲好きなのよねぇ~。 特に“♪She has a pretty face~♪” ってところが好きなのよ~! 私のことを歌ってくれてるっていうか~、最早、私のための歌なのかと思っちゃうのよね♡」
ママのセリフにイラッとするが、イライラを隠しつつママに反撃。
「へえーー、そうなんだーー。でも、今日は、そんな気分じゃあないから、違う歌にしようっと!」
「あら~、ツネマーったら、意地悪ねーー。“
(いやいや、あんたの歌ではないでしょーー)
「そうですよーー。ママの歌かどうかは別にしても“YES.NY(ニューヨーク)”は、私が
リクエストしたんですよー。歌わないんですかー?」
香奈ちゃんもママにセリフをかぶせて口を尖らせて、とても残念そうに常松を見つめている。
同じ見つめるのでも、ニヘーラの冷ややかな視線とは比べ物にならないほど、萌え~~な雰囲気を醸し出していて癒されそうになる。
そんな香奈ちゃんの視線にいたたまれなくなった常松は覚悟を決める。
「まさか、香奈ちゃんがそんなに聴きたいなんて思わなかったよ。じゃあ、楽しみは後にとっておくということで、最初は俺の歌いたい曲でもいいかな?」
「うん!じゃあ、2曲目には歌ってねー」
「わかってるって!」
常松は誇らしげな顔で、“どうだー視線”を投げる。
(若い女の子までが、俺の歌を聴きたがってるぜー! どうよ、この状況は!!)
「俺よりも数倍も歌がうまいんだからさあ、なんだってうまく歌えるよなー」
常松のドヤ顔を見たニヘーラは不愉快そうに言い放つが、常松はそのセリフを無視してリモコンを操作している。
「じゃあ、これ歌おうかな! これだな! “トウメイに乗る前に~To The Highway~”」
「ええーー! その歌ってちょっと難しいわよ~、大丈夫~。いくら私を奪いたいからって、そんなに無理しなくていいのにい~」
(なんか、イラッとするなー)
「大丈夫ですよ。ご心配なく!」
「私は聴いてみたいから、この曲いれちゃいますよーー」
香奈ちゃんはリモコンを奪い取って送信した。
ピピピピピピピピピ....................。
リモコンからの送信音が鳴ると画面にタイトルが表示される。
“トウメイに乗る前に~To The Highway~”
すると、店内には妙な空気感というか、妙な静けさが漂う。
ナカちゃんをはじめ、ママも香奈ちゃんも常松の歌に注目しているからだろう。
(なーんか、空気が重たいなー。っつうか、みんなに注目されるとやっぱり緊張するよなー)
皆の視線を浴びながら、常松はマイクを握りしめた。
(ああ、そうだ! マイクの持ち方は、こうして...........これでよしと! マイクのてっぺんに歌声がヒットする
ように歌うんだったっけ)
常松は緊張しながらも、以前に仕事で一緒になったジャズシンガーのカリンに教えてもらった上手なマイクの
使い方を思い出していた。
いよいよ、イントロが流れはじめる。軽快でノリの良いビートのきいたテンポの良い曲だ。
よせばいいのに、常松は手足を使ってリズムをとる。
いつもよりもノリノリで、昔からの友人が見たら大笑いするのではないかと思われるほどのノリを見せている。
更に、いつもよりも注意深くマイクを握りしめる。
そして、注目の歌い出し。
♪さっき~携帯でんわ~、電源は入れず~に~受話器~とじたぜ♪
んっ!!!! ??
????????????????????????????
あれっ??
常松を含めた4人は同時に異変に気がつく。
(しまったぁぁぁーーーーーーっ!! マイクのスイッチが入ってないしーーーぃ!!)
「ええーーーーっ!!!」
ママも香奈ちゃんも笑いが声にならない。
「アッハッハハハハハーー。おいおい、歌がうまいとか何とかの前に声が小さすぎて、歌が聴こえてこないじゃないか! もしかして、マイクの使い方もわからないのかい」
常連2号ニヘーラは、鬼の首をとったかのような勢いで、常松を愚弄しまくる。
ママも香奈ちゃんも笑いをこらえている。
常松は、再び、穴があったら入りたい気分であったが、入れたくなる衝動を抑えつつ、
しかも、そんな二度目のオチはいらないので、グッ!とこらえてマイクのスイッチを入れる。
歌声なしのカラオケが鳴り響く中、常松は恥ずかしさをこらえてマイクにシャウトする。
「すいませーん! もう一度入れなおさせてくださーーい!」
そんな常松の悲痛な叫びが店内にコダマする中、ママはリモコンの演奏中止ボタンを押して、カラオケ演奏をとめた。
「ほら~、だから無理はしない方がいいって言ったでしょ~。皆、笑いをこらえるのに必死よ。
こんなことになる前に、素直に私のための歌を歌えば良かったのに~」
「彼の場合は、まずはマイクの持ち方から教えた方がいいんじゃないの」
ニヘーラのくせに、ここぞとばかりに嫌味たっぷりに攻撃してくる。
常松はその攻撃を無視しながらママに言い訳をする。
「いや~、ごめん、ごめん、マイクのスイッチ、入ってるもんだとばっかり思っていたよ」
「で、どうするの~。ま~たこの無理な歌を入れなおすの〜? もう、あきらめて“YES.NY”を歌いなさいよ~」
「無理な歌って........勘弁してよーー! スイッチが入ってなかっただけでしょう」
「はいはい、じゃあ反省したところで“YES.NY”を歌うのね」
「わかりましたよ。入れますって! 入れたらいいんでしょー! 入れますよ!!」
その台詞にママの目がキランッ!と光っった。
「あら~♡ いれたくなっちゃったの~♡ 私にいれたいのね~♡ でも、ま~だ時間が早いんじゃないの~♡」
(ええーーっ!無理やり、そっちへ持っていっちゃったよー!!)
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