第165話「カエル」
月の明るい夜、カエルが石に登って鳴きたてている。ユーモラスである。
「やあ」
とぼくは声をかけた。
すると、石の上に乗っかったカエルは、ぴょんとジャンプしたかと思うと、そのまま地面に落ちた。それっきり動かない。
「……死んでるな」
ぼくたちは顔をしかめて、その死骸を見下ろした。
「カエルには毒があるんだね」
と秋谷さんが言った。
「知らなかったよ」
「ええ。フグと同じですよ」
「でもさっきまで生きてたじゃないか」
「そうですね。死んだふりをしてたんでしょう」
「なるほど。……しかしこれはちょっと変だね」
秋谷さんの顔は真剣だった。
「変ですか?」
「だって、このカエルは、君たちの足音を聞きつけて、それからずっとここにいたわけだろう? どうして君は気がつかなかったんだろうか」
「それは……」
ぼくも首をひねった。確かに言われてみるとおかしいのだ。
「僕たちより先にここへ来ていた人間がいたということでしょうか」
「あるいは、最初からここにいて、僕たちが通りかかるのを待っていたという可能性もあるけど……」
「そんな馬鹿なことあるもんかね!」と小左薙が言う。
「俺らが来た時、こいつはまだ生きていたぞ。俺たちが来る前からここで待っとったとしたら、俺たちの声を聞き逃すはずがないわな」
「まあ、そうだね」
「それにさ、こいつは死んでからどれくらい経つんじゃろな?」
「うーん。わからないなぁ」
「どうせなら、もっと早く死んだふりしてればよかったものをのう」
「きっと急いでたんだよ」
とぼくは言った。
「急ぐ?」
「うん。何か大事な用事があったとか……」
「ふうむ」
小左薙は腕組みをした。
「わからないな」
とつぶやいた。
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