第150話「公平無私」

私は公平無私をモットーにしているから、相手を打算や好悪で評価することはない。ただその人物がどんな人間かということだけは、注意深く観察して見極めるようにしている。例えばこの男は、自分のことしか考えていないし、自分のことしか愛していない。他人のために何かをする気などさらさらないのだ。そういう人間は、何度でもトラブルを起こすだろう。そしてトラブルを起こすたびに、自分が悪いことをしたのだとは思わない。だから、懲りることもない。トラブルを起こしながら、それを解決する努力もしない。そんな男にいくら親切にしてやっても、何の見返りもないどころか、かえってトラブルの元になるだけだと分かっているからだ。しかし、それでもやはり、トラブルが起きた時には手を差し伸べてやるのが、私のポリシーだ。それがたとえどれほど些細なトラブルであっても……。

さっきから話しているこの男というのは、私の会社の上司である。今年三十五歳になるのだが、仕事はできる方だと思う。ただしそれは能力的にという意味ではなく、性格的な意味でだ。つまり、彼の性格は、あまりいいとは言えない。いや、はっきり言えば、最悪なのだ。まず第一に、彼は、自分が間違っていると思ったことは絶対に認めない。そして第二に、自分の間違いを認めることができない。第三に、自分が悪いと思っていないことでも謝れない。第四に、自分は悪くないと決めつけているくせに、人のせいにする……。とにかく最悪なのだ。

この男が突然魔法を唱えた。

「俺には魔法の才能がある!」

どう考えても、それは嘘に思えたが、彼は両腕でへんてこな動作をして呪文を唱えた。

『ファイヤー』

確かに魔法というより、単なる火の玉の放出にしか見えない。しかし、これで威力の方は凄かった。なんと、あの巨大な岩山を一瞬で蒸発させてしまったのだ。

しかも驚いたことに、これは一度きりの技ではなかった。彼はその後、次々と魔法を唱えていく。

『ウォーター』『ウインド』………… しかし、どれもこれも大したことなかった。いや、正確に言うなら、威力はともかく、見た目的には全然たいしたことがなかったというべきだろうか。まあ、それでも一応は、ちゃんとした攻撃魔法に見えるから、まったく使えないわけではないのかもしれないが……。彼は最初に使った『ファイヤー』以外、一度も呪文を唱えることなく、魔法を使っていた。とにかく彼とはうまく付き合っていきたい。もし彼が何か問題を起こせば、私の責任問題にもなるからだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る