第136話「刑は刑なきに期す」
「刑罰で悪人を罰するのは、それによって悪人をなくして、刑罰が不用になることを期待しているのだ。刑罰のない世の中が理想である。中国の古典の言葉だ」
「しかし、死刑は必要ですわ。この世には悪人が多すぎるのですもの」
純子は言った。青木の表情にかすかな変化があった。……こいつ、もしかしたら何か知っているのか? それとも単なるお人好しなのか?
「君は死刑肯定論者かね?」
純子はその問いを無視した。今、ここで議論すべきことではない。
「結局、あの事件の犯人グループは全員射殺されたわけだが、これはかなり思い切った手段だったようだね。もちろん、政府側にとっては、そうせざるを得ない事情もあったんだろうけど……」
青木は続けた。
「もし彼らが本気でテロを計画していたなら、それはそれでまた別の問題が生じていたはずだからなあ。君たちのような専門家の意見を聞きたいところだよ」
「…………」
「いや、そんな顔をしないでくれよ。わたしはただ、事実関係を確認しておきたかっただけなんだ」
「確認って何を確認するんですか?」
純子は訊いた。
「だから、その……あの事件では、犯人グループと政府の間のやりとりがいろいろあったらしいじゃないか。たぶん、そういう裏取引的なことを君は知ってるんじゃないかと思ってさ」
青木は上目遣いに純子を見た。
「いいえ。何も知りませんわ」
純子は首を振った。
「本当かい? まあいい。じゃあ、仮に君たちが知っていたとしての話だけど、もしも政府が彼らの要求を呑んでいたらどうなっていたと思う? つまり、犯行グループの要求通りにテロリストたちを釈放していたとしたら……」
「その場合は、もちろん報復されるでしょうね」
純子は答えた。
「だから犯人グループは生かしておくわけにはいかなかったんですよ。あれはやりすぎていました」
「そうかな……」
近い未来の日本ではこんな会話が起こるかも……?(by作者)
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