第135話「船乗りのオチなし会話」

「なまけごころが少しでも起こってきたときには、もう自暴自棄に陥っているものと知るべきだ」

「そうなんですかね?」

「そうだ。しかし、きみはそうじゃないだろう」

と、グライムズ。

「わたしのほうも、そんなにひどい状態じゃありませんよ」

「そのようだね。それでだ……」

グライムズはたばこに火をつけた。

「きみのところへ行ってもいいかい? きみの話を聞きたいんだ」

「もちろんですけど、あなただって、この前の航海から帰ってきたばかりなのに……」

「いや、おれはもう大丈夫だよ。それに、今度の仕事には、ちょっとばかりおもしろくなりそうなことがあるんでね」

「どんなことですか?」

「それは後で話すさ。ところで、あっちでは、どうだったんだい?」

「ああ、そうですね……。えーっと、わたしたち、イプシロナ号でしたっけ? あそこにいたんです。それからシーカプー号に移って、またイプシロナ号に戻ってきたんですよ」

「ふむ……」

グライムズが考えこむような表情になった。

「すると、あそこでは、何日か過ごしたわけなんだね」

「そうなりますね。二週間以上になりましたから……グライムズさんのほうでは最近どうですか?」

「わたしか、そうだな、わたしはきみも知ってのとおり、一月半ほど前に、きみたちと別れてニュー・サウス・ウェールズへ渡ったんだ。だが、その時は、まだこっちへ戻る気はなかったんだよ。ところが、つい三日前、突然、海軍本部の連中がやってきて、わたしを拘束しちまったんだ。それも、きみのところから帰ってきている最中のことだった。幸いすぐに釈放されたがね」

「へぇ……」

グライムズはたばこを灰皿に押し付け立ち上がった。

「時間だね。この辺で失礼する」

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