第95話「浴室」

「あ……肩つった!」

「だったら、お風呂入らないで寝なさいよ」

「それは嫌です。汗臭くなるので……」

「じゃあ早く入りなさい。私はもう入るからね」

そう言って、ルームメイトはお風呂場へ行ってしまった。僕もさっさと入ってしまおうと思い、着替えを持って脱衣所に入る。そして服を脱ぎ始めた時、ふと鏡に映る自分の体を見て思った。

(こんなにも細くて小さいんだな)

って…… 今まで全然気にしてなかったけど、よく考えたら自分より年下の女の子の方が胸があるし背も高い。それに最近、なんか顔つきも女っぽくなった気がする。そう考えると急に恥ずかしくなってきた。急いで浴室に入り、シャワーを浴びる。熱い湯が体を伝い、泡と一緒に流れていく。いつもなら気持ちいいはずなのに、今日はあまり落ち着かない。

「ねぇ、あの子誰?」

「え?何言ってんの?妹じゃん」

「でも、あんな髪の色見たことないよ?」

「確かに……ちょっと聞いてくるわ」

「やめなって!変なこと聞くと怒られるぞ!」

外から聞こえてくる会話を聞きながら僕は湯船に浸かる。やっぱり少し熱かったけど、今はそれが心地よかった。すると突然扉が開かれ、誰かが入ってきた。びっくりして振り向くとそこには知らない男の人が立っていた。

「うわぁ!ごめん!!」

その人は慌てて出て行った。一瞬しか見れなかったけど、すごくカッコイイ人だったような気がする。その後、何故か僕はドキドキしていた。この感情が何なのか分からないまま、僕は浴室を出た。

「遅かったじゃない。ちゃんと洗えた?」

ルームメイトの言葉を無視して、僕は布団に入った。まだドキドキしている。どうしてだろうと考えているうちにいつの間にか眠っていた。翌朝、目を覚ますとルームメイトは既に起きていて朝食の準備をしていた。昨日のことは夢だったのかと思ったけど、僕の枕元には綺麗に畳まれたパジャマがあった。きっと彼女が洗濯してくれたんだろう。後でお礼を言わないと……。

「おはようございます」

挨拶をしながらリビングに入ると、ルームメイトが何かを作っていた。匂いから察するに、味噌汁を作っているようだ。

「朝ご飯出来てるよ」

ルームメイトは笑顔で言う。僕は彼女の隣に立ち、料理を手伝うことにした。と言ってもほとんどやることはないんだけどね。ルームメイトが鍋の中に入っている具材を菜箸で掴み、小皿に入れる。それを何度か繰り返したあと、彼女は火を止めて味を確認した。どうやら完成したみたいだ。

「はい、出来たよ」

ルームメイトが作ったのは焼き魚とお浸しと卵焼きだった。どれも美味しそうだ。僕達は席について食べ始める。最初に口にしたのはお浸しだった。シャキシャキとした歯応えが楽しい。次に焼き魚の身をほぐして口に入れた。これも絶妙な塩加減でとても美味しい。最後に卵焼きを食べる。出汁巻き玉子みたいな感じかなと思っていたけど、全然違った。甘くて優しい味だった。

「どうかな?」

不安そうな顔をして僕を見る彼女に向かって僕は言う。

「おいしい!」

その言葉を聞いて安心したのか、彼女は嬉しそうに笑った。そして再び食事を続ける。しばらくして完食した後、僕は食器洗いを申し出た。すると彼女は遠慮がちにこう言った。

「昨日男の人が浴室に入ったよね」

ドキッとする。まさかバレているとは思わなかったからだ。しかし彼女は続けて話す。

「あれ私の彼氏なんだ。驚かせてゴメンね」

僕は拍子抜けしてしまった。もしかしたら警察に通報されるんじゃないかと考えていたのだ。だから正直ほっとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る