第50話「この場を借りて言いたいことがある」

「この場を借りて言いたいことがある」

作家のA山B郎が切り出した。

「聞きましょう」

編集者が答えた。

「俺の新作が直木賞候補になった。これは名誉なことであり、光栄でもある。しかし選考委員の中には俺の作品をあまり評価しない人もいるようだ。だから俺はあえてここで言っておきたいのだ」

A山は声を張り上げた。

「なんだ?」

編集者が尋ねる。

「俺は今回受賞できなかったとしても、次回こそは必ず受賞する自信がある。なぜならば俺はもう次作のプロットを完成させているからだ!」

「おおっ」

編集者たちはどよめいた。

「そのプロットとはいったいどんなものなのかね? 聞かせてもらおうじゃないか」

「ああ、いいとも」

A山は胸を張って言った。

「それはだな……『越渡殺人事件』というものだ! これが受賞作になるかどうか、読者諸兄には見届けてもらいたい!」

「おおおっ」

「そして見事、俺が芥川賞・直木賞受賞者となった暁にはだな……」

A山はさらに大声で叫んだ。

「その時はこう叫んでもらいたいのだ。『この場を借りて言いたいことがあった!』とな!」

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