第41話「ダイブ」

「消してえええ!リライトしてえええ!」

俺はダイブした。ここは、とあるVRMMOの中である。

この世界は、ゲームマスターが用意した舞台装置の一つに過ぎない。俺たちプレイヤーは、その舞台の上で与えられた役割を演じる役者にすぎないのだ。

俺に与えられた役は、主人公とヒロインの恋の行方を、見守る脇役である。

俺の役目は、二人の恋の行く末を見守り、時には助言し、時に妨害する。そして、二人の仲を引き裂くことにある。

つまりは、当て馬というやつだ。俺はこの世界を憎んでいる。だがしかし、それはそれとして、こんな理不尽な設定をぶち込んだ作者に一発かましたいと思うのも人情というものだろう? だから俺は、今日も主人公の邪魔をする。

ああ、なんて楽しいんだろうね?

「お前らの幸せなんか認めねえぞおお!」

俺は絶叫しながら、拳を振り上げた。俺は今年で三十二歳になる。職業はSE。いわゆるシステムエンジニアってやつである。身長は百八十センチほどあるが、猫背のせいで実際よりも低く見られることが多い。

顔立ちは決して悪くないはずなのだが、童顔のため若く見られることもしょっちゅうだった。髪はやや長めであり、いつも寝癖がついているような髪型をしている。服装にもあまり頓着しない性格なので、大抵の場合よれっとしたシャツを着ていることが多かった。

「俺さん」

後輩の女性から声をかけられた。

「何?」

「さっき、部長が呼んでましたけど……」

「分かった。ありがとう」

「いえいえー」

そう言って彼女は去っていった。俺より三つ下の後輩であるが、仕事に関しては優秀な女性である。ちなみに彼氏はいないらしい。まあ、あんな可愛げのない女など、誰だって願い下げだろう。

そんなことを考えながら、俺は上司の元へと向かった。

「あのさぁ…職場でVRゲームやるのやめてくれる?」

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