第6話


 それから半年後。

 セナはナオトと婚姻した。

 立場上はユウキの義妹として養子縁組し、忘れていた貴族の嗜みを思い出すという条件だったが、セナは何とか専属教育者の試験に合格し、晴れて第二夫人となった。

 ただ、そこにユウキ同様の愛情があるかと問えば、難しいと答えるセナである。

 それは婚約から婚姻までの期間が短く、別に肉体を求められたワケでもないからだ。

 実際に夜の営みではユウキとナオトだけが楽しみ、セナは隣で悶々としているだけだった。

 セナとしては一緒に混じりたいという気持ちもあるが、イヤな気持ちのまま抱かれたくないという思いもあり、ナオトとユウキはそれを考慮し、声を殺して致していたようだ。

 ともあれ、ユウキが満足して眠ったあとのナオトは身悶え中のセナに声を掛ける。


「ふぅ〜。ごめんな?」


 ある意味これもピロートークだが肝心の第一夫人が落ちてるため、ナオトは苦笑しつつも、オドオドとするセナに意識を割いたようだ。

 三人の位置は素っ裸のユウキがナオトの右隣に、寝間着姿のセナが右隣に横になっていた。


「ふぇ? な、何がです?」

「いや、気分のいいものでもないだろ? 三人で寝るまではいいが、毎晩の事だから」

「い、いえ、そんな事は別に・・・」

「いや、気になるなら気になるって言っていいぞ? 正直な話、セナの実家の事はウチの不手際が招いた事だからな。リヴァーテ伯爵家への養子縁組も、我が家への婚姻も、全てはセナの身分を護るために行った事で、扱い上は政略結婚だからセナが俺に惚れてないのは仕方ない事なんだよ」

「え? 気づいてたんですか?」

「当たり前だろ? 好きでもない者に抱かれるとか、ユウキですら拒絶するからな? 俺も俺自身に好意を抱いてない子を抱く趣味はない。そりゃセナの尻とか胸とか男として興味はあるが・・・それだけだ」


 セナはナオトの発言を聞き、若干引いた声音で問い掛ける。

 好意を抱いてない子と言いながら、興味はあると聞けばそうなるのは必定であろう。


「き、興味はあるんですね?」


 この時のセナはナオトに視線をあわせず、左側を向いて自身の身体を抱き締めていた。

 ナオトが言う興味のある部位に手を添えながらだが。

 ナオトはセナに引かれた事に気づきつつも、天井を見上げながら自身の願いを口走る。


「そりゃあな。セナも磨けば光る原石で女の子としてはユウキに次いで可愛いしな。ただ、今の俺が求めるセナは、ユウキみたいに抱かれる事で女を意識させる子ではないんだよ」


 するとセナは、ナオトの発言を聞き流せず・・・慌てながら振り向き問い掛ける。


「へ? ど、どういう意味ですか? 私は確かに女の子であっても女ではないですが?」

「う〜ん? 今はまだ専用整備場が出来てないから何とも言えないが、ワクワクと楽しそうに整備を行う姿を先に見たいって思うから? まだウチにきて屈託無く笑った姿を見てないし」


 セナはナオトの苦笑から困った顔をした。


「えーっと、つまり・・・私の笑顔を見たいと?」

「そうなるな。まだ半年しか経ってないし、セナの色々な姿を見て知って、それから結ばれても遅くないんじゃないか? ユウキと俺の付き合いは長いから婚姻後に結ばれたが、乱れるセナは最後にとっておきたいし」

「ナ、ナオト様・・・流石にそれは恥ずかしいです」

「恥ずかしいって? 色々な姿が、か?」

「いえ、最後のだけ・・・私の姿を見て貰う事も、私がナオト様の色々を知る事も願ってもない事ですが、乱れる私というのは何か恥ずかしいです」


 最後はセナも真っ赤に染まった顔となった。

 ナオトは自身が言った事を思い出してセナに謝った。


「あぁ・・・確かに恥ずかしいか。すまん、言葉の綾だ・・・俺はともかく、セナは俺達の事を詳しく知らないしな。辺境伯子息と伯爵息女という地位以外では」

「以外・・・ですか?」

「まぁそれは追々話すよ。お互いに心を重ねて打ち解けさせないと、伝えられない事だってあるから」


 ナオトは眠気に襲われながら、いずれ話すとセナに誓う。

 だが、それには条件が指定されていた。

 セナはナオトの条件から察したようだ。


「というと・・・AP値同調率的な?」

「それが手っ取り早いな? 俺とユウキは常時100%が出るから」


 ナオトは思考が巡らない状態でユウキとのAP値同調率をポロッと口走る。

 それを聞いたセナはキョトンとなり、大絶叫ののち飛び起きた。

 寝間着越しでも判るほど胸をブルンブルンと揺らしながら。


「え? 常時100%ですって!?」


 ナオトは眠気に耐えつつ、困惑顔でセナに問い掛ける。


「ど、どうした?」


 セナはナオトの困惑顔を眺めながら、恥ずかしそうにうつむいた。


「い、いえ、それって王家の者ですら出せない数値でしたので」


 ナオトは(王家かぁ・・・)と思いながら、余計な事を言ってしまったと後悔し、思考が巡らない状態で、またも余計な事を口走った。


「あぁ・・・そういえばそうだったな。俺の希望としてはセナとも100%が出る事を望むよ。まずは鍵への追加認証が先だが・・・まぁそうしないと本当の意味で信頼しあってるとは・・・言い、難い、からな・・・眠っ」


 セナはナオトの言葉を聞き、ションボリとうつむいて布団に戻る。


「そ、そうですね・・・数値で出ますもんね・・・」


 しかし、ナオトはセナの方を向かず裸で眠るユウキを抱き寄せて更に余計な事を口走る。


「まぁセナとは肉体的な相性も含めて良結果が出るけどな。おやすみぃ・・・」


 ナオトは意味深な言葉を吐いたあと、スヤスヤと夢の中に落ちていく。

 ユウキの胸を寝ながら揉むあたり、感触に酔いしれているともいうが。

 するとセナは、意味深な言葉を受けうつむいていた顔を上げて飛び起きた。


「へ? な、何ですか? その気になる言葉は? ナオト様? 起きてください! ナオト様!!」


 セナはナオトの言葉を聞いて眠気が完全に吹き飛んだ。それは「肉体的な相性」と聞いて(何で判るの!?)という困惑が先立っていたらしい。

 ちなみにセナが「ッス!」という時は緊張している時の口癖らしく、本人も無意識のため制御が不可能だという。



  §



 それから三ヶ月後。

 三人が別館を出る日が訪れた。

 それは士官学校のある学園都市へ向かうための旅の始まりだった。

 三人はそれぞれの父親と別れの挨拶を行っていた。

 ユウキとセナは愛娘を愛する父親に。


「気を付けてな?」

「「はい。お父様達もお元気で」」


 ナオトは領主である父親から道中の注意点を聞いていた。


「道中は数カ所ほど他領を通るが、望まれない招待には応じないようにな?」

「望まれない?」

「ああ。こちらを田舎貴族と言う者が必ず現れるから、その手の者は適当に遇ったらいいから」

「面子的に大丈夫なんですか?」

「そこら辺は気にしなくていい。大概文句を言うのは下級貴族だけだから」

「なるほど」


 その後のナオトは二年間で組み上げたエアバイク式の電動バイクに乗り込み、背後にユウキを最後尾にセナを乗せ両翼付け根に設置した四つのトランクへと荷物を詰めてもらった。

 機体の見た目は雨天でも飛べるよう二つの操縦席と補助席をおおうボディ形状であり、縦に細長い見た目に反して発揮出来る出力が過去最大の物となった。

 元々の馬力も軍用を軽く凌ぐため、ナオトは父親からブースト使用時は光学迷彩を使うように言われた程である。

 ともあれ、ナオトは早朝ともあって眠る母親の身を案じながらも、父親と挨拶を済ませる。


「では・・・お父様、行ってきます」

「くれぐれも・・・まぁ判ってると思うが」

「ええ。お母様にもよろしくお伝えください」

「判った」


 父親も稼働する前という事で近くに居たが、頷いた後はエアバイク発着場を離れ、風防の中へと移動したのだった。

 その様子を把握したナオトは鍵を挿し込みながら、イグニッションに回しAP値同調率VP値気化量の数値を確認し、電動バイクのギアをニュートラルに切り替え、計器盤にあるオプションの蓋を開け、モードチェンジのボタンをエアバイクに変更した。

 すると、その直後・・・分岐供給路の蓋が開き、機体下部から浮遊するための風が発生し、前後の車輪を底部に設けた外装が閉じて自動的に仕舞い込む。

 そして横にスライドさせながら四本の翼を拡げ、飛び立つ準備が完了した。

 以降はそれぞれのヘルメット越しの通話機能で会話を続ける。

 三人の会話は外には聞こえないため父親達は心配しながら飛び立つのを待っていた。


「ユウキ、行くよ?」

「私は問題ないよ。VP値気化量AP値同調率は?」

VP値気化量は90%でAP値同調率は180%だな。おそらくセナの緊張が反映されてるからだろうが」

「だ、ダイジョブれッス!」

「緊張してるね・・・まぁセナが組んだフレームだから心配なんだろうけど」

「うぅ・・・」

「それなら今晩から頑張るかなぁ」

「えーっ!! まだ繋がらないって言ってたじゃないですかぁ!!」

「いや、緊張してるなら色々ほぐしてやるのも旦那の甲斐性ってな?」

「そうね? ようやく三人で楽しめそうだわ〜」

「まだですよ! 私の心の準備が整いません!(そりゃあ徹底的に愛して貰いたいですが)」

「お? 整ったな。100%と200%にいったぞ〜、しゅぱ〜つ!」

「しんこ〜!」

「ふぇぇぇ〜(なんでぇ〜!?)」


 こうして擦った揉んだあったが、三人を乗せたエアバイクは無事に飛び立った。

 単純にセナは本心に向き合えてないだけで、心の内ではナオト愛が強くなっていたようだ。

 すると、三人が飛び立ち、光学迷彩で姿が消えると同時に父親二人は寂しそうに呟いた。


「行ってしまったな、兄貴」

「そうだな。これから二年は戻ってくる事もないが無事成長してくれる事を願うしかないな」

「そうだな・・・ユウキとセリナの便りが楽しみだ」






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