第12話

 家に着くと、いつも通り葵が晩御飯を作って待っていた。


「ただいま。」

「おかえり。」


 初めは、このやり取りも新鮮だったけど、一週間も一緒に暮らしているとさすがに慣れてあたりまえになりつつあった。

 葵はいつも通り玄関までやって来る。


「漂、ごはんにする?おふろにする?それとも・・・・わたし?」


 ぶふっ。

 俺は鼻から血が吹き出たかと思った。

 今までにも積極的だなぁと思うことはあったが、ここまで攻めてきたことはなかった気がする。

 それに、今最後わたしって言うとき声小さくなって上目遣いだった。


 今のはやばかった。

 理性が飛びかけた。

 童貞なのによく留まれたな俺、と自分を褒めてやる。

 

 俺は悠翔からいろいろと聞かされて、えっちぃことにそれなりに詳しくなってきていた。

 が、聞いて知っている程度では三大欲求の一つ、『性欲』には到底太刀打ちできないと悟った。

 俺は同年代の男子より性欲がないと思っていたけど、もし葵が悠翔が言っていた裸エプロンで出てきていたら、俺は間違いなく理性が吹っ飛び、葵を襲っていただろう。


「漂。ねえ、どうするの?」


 葵に呼ばれて意識を脳内から現実に戻される。


「えっ、なにが?」

「聞いてなかったの?」

「いや、聞いてた聞いてた。えっと、ごはんにするか、ふろにするか、・・葵にするかだよな。」

「・・・うん。」

「なあ、葵にするってどういうことだ?」


 俺は、これは確認しておかなければならないだろうと思い、葵に尋ねた。

 もし、俺と葵で認識が違ったら大変なことになる。

 そんな展開は俺はごめんだ。


「なっ、なにを私に言わせようとしてるの。」

「いや、その俺と葵で考えてることが違ったらいけないなと思って。」

「そ、そっか。そうだよね。漂はドSなんかじゃないよね。」

「ん?最後の方が聞こえなかった。」

「気にしないで。えっとね、わたしにするっていうのはその・・わたしをたべるというか・・わたしと・・えっちするってこと。」


 最後の方は消え入りそうな声だったが、今度はちゃんと聞こえた。

 そりゃあもちろん言葉にした葵はすごく照れていたが、言われた俺もめちゃくちゃ照れくさかった。

 葵は恥ずかしくても言葉にしくれた。

 だから、男として、彼氏として俺も言葉にして伝えないといけないだろう。


「葵、その・・ほんとはすぐにでも・・葵としたいけど、この部屋だと隣に丸聞こえだと思うから、その・・今度デートに行った時とかでもいいか?」

「うん。うれしい。楽しみにしてるね!」

「おう。」


 葵の笑顔を見て、今度のデートのハードルが上がってしまったと思った。


「じゃあ、ごはんにしよ。」


 結局、葵に流され晩御飯を食べた。

 俺は、その日の晩御飯が葵と先輩の共同作ということを知ることはなかった。



 ♢



 はー。

 あぶなかったー。

 葵が条件付けてくれなかったら、料理作り終わった後そのまま居座って一緒にごはん食べてたわ。

 久しぶりに葵と二人っきりでいられて、一緒に遊べてテンション上がりすぎてた。

 葵と幸村くんの二人の時間を邪魔するところだった。

 それに、昨日幸村くんとの接触はできるだけ避けるって決めたんだった。

 葵と一緒に食べられないのは残念だけど、葵と一緒に作ったっごはんを食べれるからよしとしないとね。


 ごはんを食べながら葵とのお出かけのことを考えていて、私ってもしかしてシスコン?と思ったが気にしないことにした。



 ♢



 土曜日の葵とのデートのハードルが上がったため、さらにデートの対策をすることにする。

 ホテルのこととかそういうことは全く知らないため、恥を忍んで真希先輩に聞くことにした。


「あの真希さん、今日バイトが終わった後時間もらえますか?」

「わかった。」


 真希先輩は、珍しく一言だけしか返してこなかった。


 バイトが終わり、真希先輩と一緒にバイト先を出る。

 すでに葵にはバイト先の先輩とごはんを食べて帰ることは伝えてある。

 バイト先から少し歩き、いつもの相談場所である真希先輩の家に着く。

 真希先輩の家はいつ来ても物が少なくてきれいだ。


「私は決めてるけど、漂は何にする?」


 いつもと同じように出前で何を頼むか聞かれて、これまたいつもと同じように答える。


「先輩と同じので。」


 いつも同じやり取りだからしなくてもいい気がするが、真希先輩は必ず俺に何を頼むかを聞いてくれる。

 真希先輩のおごりだから俺はなんでもいいですって伝えたことがあるんだけどな。

 いい人だってわかっているし、信頼しているからこんな話は真希先輩にしかできない。


 出前が届き、テレビを見ながら食べていると真希先輩から聞いてきてくれた。


「それで、今日はどうしたんだ?」

「笑ったり、からかったりしないでくださいよ。」

「私がおまえに相談された時にふざけたりしたことはないと思うが。」

「わかってるけど、今回は恥を忍んで相談に来たから。」

「わかった。茶化したりしないよ。」

「ありがと。」


 俺は一呼吸してから話を始める。


「今週の土曜に彼女とデートに行くんだけど、ラブホテルに行くのはどうやったらいいんですか?」


 ぶふっ。

 真希先輩は、口の中に入っている物を吹き出しそうになりながらもなんとかこらえていた。

 ごくん。

 真希先輩は、口の中の物を全て飲み込み俺と向き合う。


「漂、そもそも何回目のデートなんだ?」

「初めてのデートだけど。」

「おまえ初めてのデートで彼女をホテルに連れ込もうとしてるのか?」

「まあ。」

「さすがにそれはまずいんじゃないか。絶対にだめとは言わないが。」


 真希先輩の反応を見て、俺は説明不足だと気付く。


「えっと、前に彼女とえっちするような雰囲気になったんだけど、俺の家は壁薄くて隣に音聞かれるから、今度デートするときでいいかって言ったんです。」

「なるほど。それが初デートで、そのデートをバイトの休みとった今週の土曜にするから私に相談に来たってことね。」

「はい。」


 真希先輩は少し考えてから、また話し始めた。


「私の個人的な意見だけど、二人とも初めてなら何も知らないまま一緒に体験するのがいいと思う。それに、変に手慣れた感じだと、彼女にやりちんだと思われるぞ。」

「あー。たしかにそれは一理ありますね。」

「だろっ。それと、お互いに初めてなら、二人で話し合ったり、一緒にドキドキしたりする方が忘れられない思い出になると思うぞ。」

「・・・・そうだね。詳しいことは聞かないことにする。真面目に相談に乗ってくれてありがと。」

「また何かあったら、私に聞きに来いよ。」

「はい。」


 

 悠翔に相談してたら、彼女だれとか、話がそれて面倒なことになった気がするから、真希先輩に相談してよかった。

 真希先輩はやっぱり頼りになる。

 これで、一応準備万端でデートに臨めそうだ。




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憧れの先輩はいつも俺に隠れて照れる 空音 隼 @hoshiduki-75

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