第11話
うーん。
漂の様子がいつもと少し違ったような気がする。
どこかよそよそしかった気がする。
昨日何か私に知られたらまずいことでもしたんだろうか。
そんな風に少し悪い方向に考えてしまう。
だめだめ。
付き合っているとはいえ、私のことを好きになってもらえてるかわからないんだから。
ぶんぶんと頭を左右に振り考えを改める。
きっと、寝起きだったからよそよそしく感じただけだ。
ブー。ブー。
机の上においていた携帯が鳴り、確認する。
葵今日時間ある?
予定無かったら今から二人でどこか行こー。
隣に住んでいるお姉からの誘いのメッセージだった。
特に予定はないためOKの返事をする。
いいよ。
準備できたらお姉の家に迎えに行くね!
返信してから準備し、お姉の家に行く。
ピンポーン。
玄関の呼び鈴を鳴らすとすぐにドアが開きお姉は出てきた。
「行こっか。」
「うん。」
お姉に連れられるがままに移動する。
連れてこられたのは複合商業施設だった。
♢
午後三時過ぎ。
今は二人でアイスを食べながら休憩している。
普通にショッピングを楽しんでしまった。
お姉に流されるまま過ごしていたら、いつの間にか一日がつぶれかけている。
客観的に見て、私たち姉妹はたぶんかなり仲がいい姉妹だと思う。
休みの日にはよく一緒に出かけるし、この年になっても一緒にお風呂に入ったりしてた。
でも今は、私は彼氏と同棲している。
スーパーのタイムセールに行き、食材を買って、晩御飯を作って家で彼が帰ってくるのを待たないといけない。
だから、これ以上お姉と楽しく遊んでいるわけにはいかない。
「お姉、私かえっ――」
お姉が急に私を遮り話を始めた。
「ねえ、葵は幸村くんとデート行かないの?たしか付き合い始めて一週間以上経ったよね?」
「うん、付き合い始めて一週間は経ったよ。でも、デートは行かないと思う。私は漂とデート行きたいけど、漂の邪魔はしたくない。だから、私は漂が予定あるうちは無理に誘わないって決めてるの。」
「そっか。やっぱり葵はいい女だねー。」
お姉は私の顔を自分の胸に押し付け、私を抱きしめて「ほんといい子。」とか「ほんといい女。」とか「さすが私の自慢の妹。」とか言い、私の頭を撫でまわした。
「ちょっと、お姉やめて。人前だから。」
まだお姉は止まらない。
「お姉、ちゃんと聞いてる。やめてって。いろんな人が見てるから。このまま続けたらお姉のこと嫌いになるよ。」
今度は強く言うと、お姉はすぐにやめた。
「ごめんね葵。ちょっとやりすぎちゃった。けど、葵がかわいいのが悪いんだからね。」
これは、お姉が私に謝る時の決まり文句だ。
いつも私がかわいいのが悪いとか意味不明なことを言う。
私を好いてくれるのは嬉しいけど、ちょっと重い気がする。
「お姉、私もう帰ってもいい?」
「何かあるの?」
「スーパーで食材買って、晩御飯作らないといけないから。」
お姉は少し考え込む。
「ねえ葵、今日一緒に晩御飯作らない?」
「えっ。」
急なお姉の提案に驚きを隠せなかった。
「お姉何言ってんの。」
「だから、今日今から一緒に晩御飯作ろうって言ってる。」
「それはわかったけど、なんで?」
「なんか急に葵と料理したくなった。」
「ほんとに急だなぁー。」
私は頭を回転させる。
お姉と一緒に晩御飯を作るということは、お姉も一緒に晩御飯を食べるのか?急にお姉も一緒にご飯を食べることになったら漂はどう思う?
「いいじゃん葵。それに、早くしないと家の近くのスーパーのタイムセール始まっちゃうよ。」
「わかった。とりあえずスーパーに行こう。返事は食材買ってからでもいい?」
「おっけーだよ。」
♢
スーパーで買い物を済ませる。
「買い物終わったけど、決めた?」
「うん。お姉と一緒に晩御飯作ってもいいけど、条件がある。」
「なーに?」
「お姉は自分の家で食べて。それが条件。」
「おっけー。その条件飲むよ。じゃあ、一緒にご飯作ろうねー。」
スーパーから家に帰るまでの間もお姉は相変わらず私にべったりだ。
一緒に出かける時はいつもこう。
だけど、私はお姉にべったりくっつかれるのが嫌いじゃなかった。
お姉は一度自分の家に戻ってから私と漂の家に来る。
お姉が来るまでの間に買ってきたものを片付けて料理の準備をする。
ピンポーン。
私は、お姉を家に迎え入れて一緒に料理を始めた。
♢
いつもより起きるのが遅くなって少し焦ったが、バイトに遅刻はしなかった。
俺はいつも通り仕事をしていると、これまたいつも通り真希先輩が話しかけてきた。
「昨日は何してたんだ?」
「真希さん。えっと、内緒です。」
「なんだ漂、いつから私に隠し事するようになったんだ。」
「いや、いつからというか、そもそも真希さんにプライベート教えたりした覚えはないんですけど。」
「ふむ。そうだったか。」
この人の記憶はどうなってるんだ。
たしかに、バイトを始めた頃俺の家庭の事情を話したことはあるが、それ以外を話したことはほとんどないと思うぞ。
「まあ、よかった。」
「なにがですか?」
「お前が好きなことをできるようになって。」
!?
そう言って、真希先輩は俺の頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫でた。
「ちょっと真希さん。仕事中ですよ。」
「まあいいじゃないか。私たちの仲だろ。」
「でも――」
俺は言いかけて口を閉じた。
真希先輩のことは姉のように思っているし、実際よくしてもらっている。
だから、無粋なことは言わず抵抗しなかった。
「それで、昨日は何してたんだ?」
「さっき言ったじゃないですか。な・い・しょ・ですよ。」
「つれないじゃないか漂。」
「今度話しますよ。」
「そうか。ならもう聞かないよ。」
その後は何事もなくバイトは終わった。
そして、家に帰ってから葵とこれまで通りに過ごせるようにいろいろ考えながら帰路に着いた。
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