第8話
葵と同棲のルールを決めた後、俺はバイト先に向かった。
俺が昼休憩をしていると、先輩が来た。
「おっ、幸村くん今昼休憩?」
「はい。」
「じゃあ、幸村くんが仕事に戻る時に私も行こっと。」
先輩には少し申し訳ないと思っていたから、先輩が普通に接してくれてよかった。
♢
金曜日の夜。
俺の部屋で一緒に晩御飯を食べている時。
「先輩、もう知ってるかもしれませんけど、俺明日から葵と同棲します。」
「うん。葵から聞いてる。葵のことよろしくね。」
「えっと、それで、明日からは葵とご飯食べることになるから、先輩にご飯作ってもらったり、俺が先輩にご飯を作るってのはもうできなくなるかと。」
「そうだね。でも、幸村くんが気にすることないよ。」
「俺が提案したのに、俺の事情でなしになってしまってすいません。」
「ほんとに私のことは気にしなくていいから。あと、私にできることがあったら何でも言ってね。私も葵にいろいろしてあげたいから。」
「わかりました。」
先輩の顔を見ると、先輩は少し寂しそうな顔をしていた。
先輩も俺と同じでこの時間を大切な時間だと感じていてくれたのがわかった。
だから、俺は先輩に申し訳ないと思ったし、心が痛かった。
♢
バイトの終了時間が先輩と同じだったため、一緒に家まで帰ることになった。
「ねえ、幸村くん。葵といつデートに行くか決めた?」
「先輩知ってるでしょ。俺にデートに行く時間なんて無いって。」
「葵とデートに行く予定無いの。せっかく付き合い始めたのに。」
「時間があれば行きますけど。」
「なら、幸村くんがバイトをする代わりに私がバイトするよ。」
「どういうことですか?」
先輩の説明はこうだ。
バイトが忙しくてデートに行く時間がない。
なら、バイトを休めばいい。
そして、俺の代わりに先輩がシフトに入る。
それで、先輩が稼いだバイト代は先輩から俺に渡される。
これで、俺はバイト代を稼げるしデートにも行ける。
「仮に俺がバイトを休んでデートに行ったとして、先輩が俺の代わりにシフトに入ってバイトしたとしても、俺は先輩が働いて稼いだお金はもらいませんよ。」
「じゃあ、私からの依頼ってことでどう?私のバイト代は依頼金。」
「つまり、先輩が俺が葵とデートに行く時間を買うと。」
「そんな感じ。」
そう言われると、いいのかなと思ってしまう。
べつに、仕事としてデートをするわけではないが、名目上仕事ということであればお金をもらってもいいのではと。
けど、やっぱり自分が働いて稼いだわけじゃないお金を受け取ることはできない。
俺は働くことの大変さも、お金の通貨として以外の価値も知っているから。
「依頼だとしても先輩からお金は受け取れません。普通に休みとってデートに行きます。」
「それでいいの?」
「はい。」
「なら、来週の土曜日休みとってくれる?」
「いいですけど、どうして?」
「それはね、葵とのデートの予行練習をするためだよ。」
俺は驚いた。
先輩にデートに誘われた。
一応確認する。
「俺と先輩がデートするってことですか?」
「たしかに、デートと言えなくはないかもしれないけど、ちがうよ。葵には初デート楽しんでほしいから、幸村くんには予行練習して完璧にエスコートして欲しいの。」
夕日でわかりにくかったが、先輩の顔は少し赤くなっていた。
夕日で照れを隠すかわいい先輩を見た俺の口は勝手に動いていた。
「わかりました。来週の土曜は先輩とデートの予行練習に行きます。それで、再来週の土曜に葵とデートに行きます。」
「ほんとに!これで決まりね。」
先輩の声が少し高くなる。
そして、少し前に出る際に見えた先輩の横顔は、どこか嬉しそうに見えた。
家に帰ると葵は料理を作って待っていた。
家で誰かが自分の帰りを待ってくれているというのは、嬉しくて、幸せなことなのだと実感する。
「ただいま。」
「おかえり漂。」
たった一言。
おかえりのその一言が俺の心に響く。
そして、耳に残り離れなかった。
「ご飯にするでしょ?」
「うん。」
正直、俺は葵の料理を期待している。
朝自分で料理は得意だと言っていたからな。
俺は、手洗いうがいを済ませて食卓に向かう。
今日の晩御飯は、白米、肉じゃが、味噌汁、ポテトサラダだ。
どれもおいしそうに見える。
二人で向かい合って食卓につく。
「いただきます。」
「召し上がれ。」
俺はまず、肉じゃがを口にする。
新玉ねぎの甘さが肉じゃがの味にマッチし、とてもうまい。
ジャガイモや人参も小さくカットされていて食べやすい。
お次は味噌汁。
豆腐にわかめにジャガイモに新玉ねぎにわかめ。最後にネギがトッピングされている。
やはり、味噌汁にも新玉ねぎの甘さが出ていて、肉じゃがと同じくよりやさしい味になっている。
最後にポテトサラダ。
人参、キュウリ、ベーコンと味噌汁と同様に具だくさんで、少し甘めのポテトサラダだった。
俺が夢中になって食べている間、葵は何も言ってこなかった。
そして、俺は一通り食べて、葵に感想を言ってないことに気がついた。
「ごめん葵。食べるのに夢中で感想言ってなかった。」
「いいよ。それで、私の手料理はどうだった?」
「全部うまい。自分で料理得意だって言ってたから期待してたけど、期待以上だった。」
「漂にそう言ってもらえてうれしい。ありがと。いっぱいあるからおかわりしてね。」
「ああ。」
それから俺は、それぞれの料理をおかわりした。
「あーお腹いっぱい。ごちそうさま。」
「お粗末様でした。」
俺は、葵が風呂に言っている間に食器や調理器具を洗う。
それが終わると、勉強をして風呂が開くのを待った。
ただ、葵が今俺の家の風呂に入っていると思うとそれを想像してしまい、勉強には手がつかなかった。
そして、俺の風呂の番。
同級生の女子が、自分の彼女が入った後の風呂。
ごくっと唾液を飲み込み、風呂の扉を開けて浴室に入る。
浴室がいつもと違っていいにおいがする気がする。
これが女子が入った後の風呂。
健全な男子高校生としては、少し興奮してしまう。
髪と体を洗い、彼女の入った湯船に、葵の残り湯に浸かる。
全身湯に浸かり顔を洗う。
そこで、ここに葵がついさっきまで全裸で入っていたことを思い出し、想像してしまったことで、俺の下半身はさらに元気になってしまった。
いろいろ大変だった風呂を上がると葵は机で勉強していた。
全裸を想像して興奮してしまい、申し訳ない気持ちになるが、思春期の男子としては正常な反応だからと心の中で弁解しておく。
俺も葵と一緒に勉強をする。
一時間ほどして眠くなってきた俺は、葵にそろそろ寝ようと提案した。
ベッドから落ちたらいけないから、壁側に葵が寝転がる。
次いで、俺がベッドに入る。
女子がいるベッドに入るのは緊張する。
掛け布団をめくってくれている葵の横に俺はゆっくり入る。
それから、俺はリモコンで部屋の電気を消す。
部屋が真っ暗になると、葵が俺の方に体ごと向いて近づいてきた。
葵は、ぴったりと俺にくっつく。
「ねえ、手つないで。」
「えっ。」
「ほんとは抱きしめて欲しいけど、それはいきなりすぎだし、まずは手からかなって。それに私、寝ている間も漂と一緒にいるって感じてたいから。」
照れていた俺は、葵の顔を見ないようにして、葵の方に手を出す。
そして、葵の両手が俺の右手を包み込む。
「ありがとう。おやすみ漂。」
「おやすみ葵。」
緊張で眠れないかもと思っていたが、手をつないでいるとすごく落ち着いた。
そして、俺は確かなぬくもりを感じながら、徐々に意識が遠のいていった。
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