第7話

 葵と付き合い始めた翌日。

 昼休みに葵と一緒に昼ごはんを食べることになった。

 教室だと目立つから、昨日告白された空き教室で食べることになる。


「ねえ、私学校以外でも漂と一緒にいたい。」

「どういうこと?」

「言わせないでよ。わかってるくせに。」

「いや、ほんとにわからないんだが。」

「えっ。えーっとね、その漂と一緒にくらしたいなぁーって思って。」


 葵がすごく小さい声で俺に言った。

 静かな教室に二人きりだから、かなり小さい声でも俺にはしっかりと聞こえた。


「俺の家で同棲したいってこと?」


 俺がそう聞くと葵は小さく頷いた。

 葵は下を向いて、俺に顔を見られないようにしている。

 こういうところは先輩に似ているなぁと思う。


「なあ、親は何も言わないのか?」

「大丈夫だよ。私の好きにさせてくれてる。それに、お姉の家の隣だし。」

「少し考えさせてくれ。」


 俺は毎日かなり忙しい。

 土日もバイトがあるし、正直一緒にいられる時間は少ない。

 そして、葵には時間があまりない。

 同棲すれば、遊びに行けなくてもずっと一緒にいられる。

 あまり一緒に遊びに行けない代わりに同棲。

 仮に何かあっても、隣の部屋には先輩がいる。

 いろいろ考えたが、葵と向き合いたいと思っているから答えはこれしかない。


「わかった。同棲しよう。」

「ほんとに?」

「うん。」

「やった!ありがと。土曜日に荷物持って漂の家に行くね。」

「朝早くか、夜じゃないと俺はいないからな。」

「家を出る時に連絡するよ。」



 ♢



 同棲することが決まって二日後、土曜日。

 朝8時に葵からメッセージが届いた。


『今から漂の家に行くね。待っててね♡』


 俺は自分も文末にハートをつけた方がいいか迷ったが、ハートはつけずに返信した。


『急がなくていいから、気を付けて来いよ。待ってる。』


 素っ気ないメッセージが返ってきた。

 わかってはいたけど、彼女としては、何か愛情表現をしてほしい。

 今は好きじゃないかもしれないけど、私のことを絶対好きにさせてやる。

 俺は知らないうちに、燃えていた葵の恋の炎に油を注いでいた。


 ピンポーン。

 呼び鈴が鳴らされると、俺は急いで玄関に向かいドアを開ける。


「いらっしゃい。荷物持つよ。」

「ありがと。それと、おじゃまします。」

「どうぞ。」


 俺は葵の荷物を部屋に運ぶ。

 葵の荷物はそれほど多くはなかった。


「そこまで広いわけじゃないんだね。」

「一人暮らし用だからな。葵は朝ごはん食べたか?」

「うん。食べてきた。」

「そっか。じゃあ、荷物の整理するか。」

「そうだね。」


 俺と葵は葵の荷物の整理をする。

 教科書や参考書は本棚に、制服や体操服、私服はクローゼットに、と順調に進んでいく。


「次は、この袋か。中身は――」

「ちょっと待っ――」


 葵が待ってと言う前に俺は袋を開けていた。

 中身は葵の下着。

 俺は、葵の下着を見て固まってしまった。

 葵は急いで俺から袋を取り上げる。


「見たでしょ。」


 葵が顔を赤くして俺に言ってくる。


「いや、葵のブラなんて見てな――あっ。」

「やっぱり。私のブラ見たんだ。変態。」

「いや不可抗力だって。袋を開けたら白いブラが視界に入ってきただけで、決して見ようとして見たわけじゃ。」

「これからは勝手に見ないで。」

「わかってる。もう見ない。」


 葵が深呼吸する。


「葵どうした?」

「私の下着見てもいいけど、その・・私が着けている時だけにして。」

「・・・わかった。」


 俺も葵も顔が赤くなっていた。

 けっこうぐいぐいくるとは思っていたが、こんな大胆なことを言われるとは。


「まさか、同棲する際に最初に決めたルールが、俺が葵の下着を見るときは、葵が着けている時だけなんてな。・・・これ恥ずかしくね。」

「言わないでよ。わかってるし。それに私の方が恥ずかしいんだから。」


 お互いに落ち着くまで少し時間がかかった。

 だって、俺は下着を見たい時は葵に下着見せてと言わなくてはいけなくて、葵は俺の目の前で服を脱いで下着姿にならないといけない。

 どこのバカップルだよとツッコみたい。


 俺たちは荷物を片付け終わって、同棲のルールを話し合う。

 もちろん、下着のことには触れない。


「まずは、家事の分担だね。」

「そうだな。葵は料理得意か?」

「うん。漂は毎日バイトだし、ご飯は私が作ろうと思ってた。」

「なら、晩御飯と弁当のおかずを頼む。女子は朝いろいろと時間かかるだろうし、朝ごはんは俺が作る。」

「わかった。洗濯はどうする?」

「俺が洗濯して干すから、葵は取り込んでたたんでくれ。」

「りょうかい。掃除は私がするね。」

「助かる。なら、俺はゴミ出しをしよう。」

「これでだいたいは決まりかな。」

「あー、あとは寝る場所だな。」


 俺と葵はお互いに向き合ったまま考え込む。

 お互い考えてることは同じだろう。

 ベッドで一緒に寝るか、否か。

 後者なら、俺は床で寝ることになる。


「私は、一緒に寝たいな。漂は?」

「俺は、葵がいいなら一緒に寝たい。床で寝ると疲れが取れにくそうだから。」

「それが一番の理由なの?」


 かわいい。

 先輩と違って美人系だが、いや美人系だからこそ、こういう求めてくるのがかわいい。


「単純に葵と一緒のベッドで寝たいから。」


 恥ずかしかったが、葵にばかり恥ずかしいことを言わせるのはなんかズルい気がして俺も恥ずいセリフを言っていた。


「うれしい。」


 先輩がデレるのと違って、葵はデレているのをあまり隠さない。

 俺はデレているのを、隠す先輩も最高だが、隠さない葵も最高だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る