第5話

 今俺は先輩に勉強を教わっている。

 俺の部屋で。



 ♢



 学校が始まる三日前。

 俺は登校初日にある課題テストの勉強を始めた。

 そして、テストの二日前である今日、いくら考えても、答えや解説を見てもわからない問題と遭遇した。

 そこで、この後バイト先で会い、夜は一緒に晩御飯を食べる先輩に教えを請おうと考えた。

 なにせ、先輩は天下の東大の医学部に首席合格をした天才だから。

 勉強と運動以外は意外とうぶだったりするみたいだけど。


 バイトに行く道すがら、先輩にお願いする。


「先輩、今日の夜ご飯食べた後時間ありますか?」

「あるけど、急にどうしたの?」

「ちょっと勉強でわからないところがあって、教えてほしいんです。」

「へぇー。幸村くんでもわからないところとかあるんだ。ふーん。」

「何ですか。俺が勉強でわからないところがあったらいけないんですか。」

「いやー、葵が幸村くんはいつもほとんど満点でわからないところなんてないんじゃないかって言ってたから。」

「葵って先輩の妹のことですか?」

「えっ。前そう言ったと思うけど。」


 若干先輩が引いていた。


「いや、妹がいることは聞きましたけど、名前までは聞いてないです。」

「同じクラスなんだから普通はわかるんだって。ほんと、そういうとこ変わってるよね。」

「変わってはないと思いますよ。だって、人は自分の興味のないことはすぐに忘れるし、必要ないことは覚えようとはしない。俺にとってクラスメイトは必要も、興味もない存在というだけです。」

「そういうところが変わってるんだけどね。まあ、私はその考え方も少し変わってる君のことも嫌いじゃないけどね。」

「それはどうも。それで、俺に勉強教えてくれるんですか?」

「うん。いいよ。今日の夜ね。」

「はい。お願いします。」


 俺は歩みを止め、その場で頭を下げた。



 ♢



 夜。

 俺の部屋で晩御飯を食べ終わり、勉強を教えてもらう。


「えーっと、幸村くんは何の教科の何がわからないの?」

「この問題です。答えを見ても解説を読んでもわからなくて。」

「へぇー、入試問題か。もうそこまでしているんだ。すごいね。それで、この問題だね。ちょっと待ってね、今解くから。」


 先輩は俺がわからなかった問題をすらすらと解いていく。

 やっぱり先輩はすごい。

 先輩を見ていると、自分は天才じゃないと思い知らされる。


「さすがですね先輩。」

「まあ、高校卒業してるからね。最初から説明したんでいい?」

「はい、お願いします。」


 先輩の説明はすごくわかりやすかった。

 わからなかったところがわかるようになっていく。

 少し懐かしい。

 昔は、わからないところを姉さんに教えてもらっていたな。


 部屋に帰る時、先輩が妙なことを言った。


「ねえ、幸村くん。」

「どうかしましたか先輩?」

「えっとね、・・・葵の、妹のお願いを聞いてあげてほしいなって。」

「先輩の妹のお願いを俺が?」

「うん。無理にとは言わないけど。」

「まあ、先輩のお願いならできる限りは要望に応えようとは思いますけど。」

「ありがとう、幸村くん。おやすみ。」

「おやすみなさい先輩。」



 ♢



 高校二年の登校初日、テスト当日。

 万全の準備をしてテストに挑んだ俺は、わからない問題はなく全ての教科で時間が余ってしまった。

 余った時間、俺は二日前に先輩が言っていたことについて考えていた。

 先輩の妹で、同じクラスの松藤葵。

 彼女がいつ俺に先輩の言っていたお願いをしに来るのか、俺に何をお願いしてくるのか。

 そして、俺はどの程度のお願いまで聞くべきなのか。

 できれば今日中に話しかけてほしいと思っていたが、もう放課後になる。

 結局今日は、先輩の妹は話しかけてこなかった。


 

 


 


 


 

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