第5話

 その日の夜。マンションの三階にある自宅で、ルーム着に着替えた冬はゆっくりとくつろいでいた。一人用のこたつを敷いて、飲物とお菓子と木彫りの犬を一緒に置いて、テレビを見ながら暖かい飲物を飲む。


 あおたろうの提案は、本体を冬の家に置く事だ。

 

 これで斉の精神に大ダメージを与えられるとのこと。あおたろうは斉の癒しポジションで毎日の疲れを取り除いているらしい。


 「はぁ~~~至福の時ぃぃ」


 時計の時刻が夜九時を回ったところで、こたつの上に置いたスマホから着信音が鳴った。名前をチェックして、無視。

 テレビのチャンネルを変えて、歌番組になると口ずさむ。そこに子供の声も少しハモる。


 冬はもう一度飲物を飲もうとして。


 ドンドンドンドンドン!!!


 ピンポーンピンポーンピンポーン!!!


 「ふゆううううううううう!!!」


 完全に通報レベルの騒音が、玄関から響いた。


 「そこに、そこにあおたろうが居るんだろおおおおおおおお!!!!」


 ドンドンドンドン!!!


 「開けてくれええええええええええええええええ!!! お願いだあああああ!!!」


 冬は「うわぁ……」と半眼で玄関を凝視しつつ、ゆっくりと近づく。


 「冬さま、しばし玄関で待機をお願いします」


 その横をすり抜けて、あおたろうが玄関を開けずに上半身だけ外へ出た。

 

 あおたろうの目には狼狽してスーツを着崩している斉と、弟のあかじろうが見えた。

 斉は玄関のドアから上半身だけ出したあおたろうに驚くことなく、嬉しそうに破顔したあと、繭をキリっとあげて怒った。


 「あおたろう!! あかじろうから聞いたぞ!! 冬に全部話したってどーいうことだ!? そして当面そっちに住むだって!? 俺を差し置いて冬と二人暮らしとか許されると思ってるのか!! 冬に抱っこされたりナデナデされたり一緒に風呂とか入ってないよな!? ああああ羨ましいそこ変わってくれえええええ!!!」


 後半願望を叫び、地面に突っ伏す斉。


 「…………んん」


 あかじろうは口から空気を出した。

 あかじろうはあおたろうとうり二つ。違うのはくすんだ赤い長髪と、着物色が暖色系なだけ。


 あおたろうがチラッと盗み見すると、あかじろうの色香を感じさせる切れ目が波打っており、笑いを耐えるようにキツク口を一文字にしていた。


 「主さま。夜はお静かに」

 

 あおたろうは玄関から完全に抜けて、斉の前に立つ。


 「あおたろうは今、冬さまにお仕えすることにしております故、あるじさまの命には答えられません」


 「んな!?」


 「当分、冬さまの情報が入らないままお過ごしください。これはぼくから主さまへの罰です」


 「ど、どうして」


 斉は真っ青になりながら、あおたろうを凝視する。にこにこ笑顔を讃えるあおたろうの、その顔が激怒しているように見えるのは気のせいではない。

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