第4話

 「どうしてそう言い切れるの?」


 おそらく、ケモミミ子供は嘘を言ってはいないだろう。しかし懐疑の念を抱く冬にとっては、不信な気持ちの方が強い。

 ケモミミ子供は少し躊躇いを見せたが、すっと真面目な顔になり、口を開く。


 「主さまのお話は毎朝、冬さまの可愛らしさを讃えつつ、愛を叫ぶところから始まります」

 

 「ん?」


 冬は目が点になった。

 ちょっと気持ち悪いとも思った。


 「主さまは束縛が好きな方です。常日頃から、冬さまの行動を逐一チェックしており、何を食べているか、体調の状態、そして誰とお会いするかまで、僕を通じて調べ上げてございます」

 

 「んん?」

 

 「更に、スマホのアラームの起床時に冬さまの声。着信には冬様の鼻歌が登録されており、PC作業の時は、カラオケで入手した冬様の生歌をBGMに、常に聞いています。この度は三日ほど生声を聞いていないので、禁断症状が出始めております」

 

 「ま、まって!? 斉って変態だったの!?」

 

 「変態というか、異常な執着です」


 斉のイメージが崩れていく。と冬は頭痛を覚えた。


 「よごろ家男子には多い性質なのでご安心ください。犯罪は起こさないギリギリラインを責めています」

 

 「いや。いろんな意味で安心できない」


 冬は眉間を押さえながら言葉を続ける。


 「そんなに私が好きなら、なんで他の女性にうつつを……」

 

 と言いかけて、冬は気づいた。あおたろうは苦笑する。


 「お気づきになられましたか? 束縛しすぎて冬さまの嫌われたくない一心で、別の女性に一時身を預ける愚策を行っております」


 冬はまた呻いた。


 「それもそれで許せないけど、そうなのか。束縛……私が一番嫌いなやつだわ」

 

 「冬さまの性格を分かっているので、ボロが出ない様に行っているだけで、愛情がないわけではありません。寧ろ強すぎて害を及ぼすくらい、と言う事は理解できましたでしょうか?」

 

 「なんとなく」


 そこまではしっかり理解できた。ケモミミ子供が言うことが事実であればだけど。


 あおたろうは困った様に腕を組んだ。尻尾がパッタンパッタンと揺れており、苛立ちを隠せていない。あの尻尾もふりたいと冬は釘付けになった。


 「とはいえ、大切な伴侶になるお方に、これほど心労を与えるのは見るに堪えません。ここはどうでしょう。ぼくと協力しませんか?」


 あおたろうは意地悪い笑みを浮かべた。その顔も可愛いと頭を撫でくり回したいのを堪えつつ、「なにを?」と首を傾げて返事をする冬。


 「ぼくの主さまに一泡吹かせてやりましょう」


 あおたろうはある作戦を提案した。


 「そんな事で……? 一泡……?? いや。私は別に良いけど……??」


 その内容を聞いて不思議に思ったが、冬に妙案は浮かばない。

 どうにかして懲らしめてやりたいと思っていたので、半信半疑のまま承諾すると


 「楽しみですね! 主さまの真っ青な顔が目に浮かびます」


 あおたろうは無邪気な笑顔を浮かべた。


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