徒然モノクローム②
1.フラグが止まらない
ニコちんの家に遊び行きた~い!
というテツの提案により本日(土曜)は高峰家でお泊りゲーム大会をすることになった。
ちなみにゲーム機とソフトは三人の持ち込みだ。俺は持ってないからな。
小遣いは貰っているし足りなくても欲しいと言えば買ってもらえるだろう、それはもう嬉々として。
だが俺としては申し訳なさが先立つので何かを買ってなどとおねだりをしたことはなかった。
そんなだから正直、家に人を招くのも……と最初は渋ったんだが、
――――あれ、これはチャンスじゃね?
と思い直したのだ。
義母も姉も不良だからと難色を示すような人ではない。その人間性が確かなら喜んで迎えてくれるだろう。
なら俺のせいで何かと心労をかけている二人の負担を和らげるためにも友人を連れて行くのは悪くない。
どうせだし普通に遊ぶだけじゃなくお泊り会ぐらいやれば喜ぶはず!
とまあ相も変わらず醜い打算だとは思うが、この際無視だ無視。
「わりいニコ、待たせたか?」
「ううん、今来たとこ」
家の住所を伝えても分からんだろうしと学校前で落ち合うことにしたのだが、時間はまだ五分前。
平気で学校サボったりするくせにこういうとこ律儀だよなタカミナ。
「彼氏と彼女かよ」
「……まあ、見た目だけならニコは美少女だからな」
「俺にそっちのケはない」
だが同性愛は否定しない。俺が求められたのなら真摯に向き合って断るし、友人がその道を進むのなら全力で応援する。
前世じゃ社会人になってからは良くない思い出の方が多いが良い出会いもあったのだ。
棘の道も愛する人となら、そう言って笑っていたあの人達は元気でやっているだろうか……。
「それよりゲームは持って来てくれたの? あと着替え」
「もち! これで朝までパーリタイムよ!!」
「OK。それじゃ、行こうか」
三人を伴って歩き出す。
最初は普通に談笑していたのだが家がある住宅街に入ると急にそわそわし始める。
まあ、高級住宅街とかちょっと気圧されるよね。俺も最初は居心地悪かったし。
「……な、なあニコ。俺ら家行って大丈夫なのか?」
「母さんも姉さんも不良だからって偏見持つような人じゃないよ。俺を見れば分かるだろ?」
「ちょっとあの、ニコちんの境遇を持ち出すの禁止カードにしない? 未だに正解のリアクションわかんないから」
「まあ事前に話しを通しているんだし俺達がそこまで気にする必要は……おい、何だその“あ”って顔は」
「いや、伝えるの忘れてた」
「おいぃ?!」
無論、わざとである。サプライズのが喜びは大きいだろうしな。
普通なら夕飯の支度とかもあるだろうが今回はトモの希望で外食だし。
何でも美味いと評判だが大将がクッソ強面で一人で入るのはちょっと……な中華料理屋が中学と俺の家の中間ぐらいのとこにあるんだとか。
俺も聞いたことがない店名だったし、結構楽しみだったりする。
「大丈夫大丈夫。最低の浮気をした夫を一度は許すような人達だから」
「自分の境遇が禁止カードになったからって父親持ち出して良いってわけじゃないからね?」
駄弁っていると家に到着。
尻込みしている三人のケツを叩き中へと押し込む。
「ただいま」
「おかえ……!?」
!? ってリアクションがもう全てを物語ってるよな。
姉さんとかほら、齧ってた煎餅ぽろりしちゃってるもん。
三人は目をかっ開いて硬直する義母と姉に引いているようだがしっかりと挨拶を口にする。
「お、おじゃまします」
「今日、泊まりで遊ぶんだけど大丈夫かな?」
「――――……ハッ! ええ! ええ! 勿論よニコくん。バッチ来いってもんだわ! ね、麻美!!」
「うん! 全然大丈夫! もうさ、じゃんじゃか遊んじゃって良いから!!」
うっわ、見たこともないぐらい嬉しそうな顔してる。
それを狙ったとは言え引く。二人にじゃなくロクな人間関係を築けてない自分の屑さにドン引きした。
「……めちゃ可愛い。ね、ねえニコちん! お姉さん紹介し……あいたっ!? 何すんのさ!」
「テツのお母さん美人だね。ちょっと口説いて良い? どうよ」
「それは引く……うん、ごめん」
それじゃあ部屋に行くからと言いかけたところで、
「ねえニコくん、皆さんも。お夕飯は何が……」
「あー、トモが行きたい店があるらしいから夕飯はそこで済ませるつもり」
「そ、そっか」
しょぼんとされると胸が痛い。
「…………でも、夜食に何かつまみたいから頼んで良いかな」
「! お母さんに任せて頂戴!!」
「ありがとう。じゃ、部屋行くから」
逃げるように三人を連れて部屋に引っ込む。
そして部屋に入り一息吐いたところでテツがこう切り出した。
「やばない?」
「主語抜くの止めてくれない?」
本当にやばく感じるから。
「やばいだろ。友達連れて来ただけであの喜びようだぞ。お前のこれまでの生活が垣間見えて俺は泣きそうだ」
「桐原とやるまでの経緯は聞いてたけどさぁ……そりゃあ人にゃ向き無不向きがあるけどよ。もうちっと、なあ? 人間関係頑張っても良かったんじゃねえか?」
ガチ説教も止めて。凹むから。
「タカミナ、そこまでにしとこ。楽しい休日をニコちんの悲しい交友関係の話で潰すの勿体ないし」
「だな。つか、部屋広っ! 家がデッケエから当然っちゃ当然だけどさこれやべえな」
「だが物はあんまりないな。勉強机にPC、テレビ、ベッドと……後は最低限の家具だけ」
義母への気遣いを除いても俺は元々趣味が多い方じゃないからな。
PCがあれば幾らでも暇は潰せるのもあって、何か欲しいとかそういう欲求が薄いのだ。
前世のささやかな趣味も未成年の今じゃ無理だしな。
「ニコちんニコちん、ゲームテレビに繋いで良い?」
「ああ、頼むよ。俺はそういうのわかんないし」
準備をするテツを視界に入れつつ二人と駄弁っているとノックの音が響く。
開けてみるとニコニコ笑顔の姉がジュースとお菓子を差し入れてくれた。
部屋の様子を見て更にその笑顔が深くなったのを見て俺の胸は更に痛んだ。
「……まあ、何だ。とりあえずゲームする前に折角差し入れてくれたお菓子貰おうや」
「……だな」
生温い優しさが痛い。
「あ、そうだ。ニコに伝えなければいけないことがあったんだった」
空気を入れ替えるため、とかではなくマジに何かあるようでトモが表情を引き締めた。
タカミナとテツを見るに二人も知らないらしい。
「ニコ、お前“黒狗”に狙われてるぞ」
「くろいぬ?」
自慢じゃないが俺はわりと動物に――……じゃない。
これ異名か。そういう異名を持つヤンキーが俺を狙っていると。
ああうん、次のイベントフラグですね。多分、赤龍タカミナを倒した無名の奴が居るとかって噂が流れてるんだろう。
あれは俺の負けだが部外者には分からんことだしな。
「……まあ元々不良でも何でもないから知らなくても仕方ないか」
「いやあ、普通の子らでも四天王のことぐらいは知ってるでしょ。絡まれたくないし」
「おい、俺は別に普通の学生に絡んだりはしてねえぞ」
「してるじゃん。目の前にニコちんって被害者が居るじゃん」
「う゛」
「どうでも良いけど、その四天王? とやらについて教えてくんない?」
俺がそう促すとトモは頷き紅茶を飲み干す。
そしてあくまで中学の括りだがと前置きし、語り始める。
「市内五区の内、ニコの居る中区以外にはそれぞれの区で一番強いと目される不良が四人居るんだ」
「それが四天王?」
「そう。その内の一人が赤龍の高梨南。東中の頭ってことになってるが……」
「俺ぁ、そんなつもりはねーけどな」
だろうな。四天王とかそういう括りにすら興味はないと思う。
「北区の“金角”と南区の“銀角”はしっかり頭を張ってる奴らだが、まあコイツらに関しては心配は要らない」
情報が出回ってはいても俺が狙われることはまずないだろうとトモは言う。
二人も同じ意見らしくアイツらはなーと苦笑している。
「何でさ?」
「アイツらはな、死ぬほど仲が悪いんだよ」
「……ライバル関係?」
「傍から見ればそうだが本人の前で言うとその瞬間に喧嘩が始まるから気をつけろよ。まあ、会う機会はないだろうけどさ」
フラグですね分かります。
というか実際そういう流れになったら言うだろうけどな。
四天王とかってワードが出た時点でもう戦うのは半ば決まったようなもんだ。
それならイベントの進行をスムーズにするために禁句の使用を躊躇うつもりはない。
「まあそんなわけでアイツらは互いを潰すことにしか興味ないからあんま気にしなくて良い」
「中学で決着つくとは思えないけどね~。確か小学校の時からでしょ?」
「ああ。勝って負けてを繰り返して未だ勝ち星は拮抗。高校まで縺れ込むのは目に見えてる」
「その前に何かあって和解するかも……ないな。自分で言っといてアレだがそりゃねえわ」
何か=俺である可能性が高いですね。
その時になれば大まかな絵も見えるだろうし、タカミナが言うように今は気にしなくて良いだろう。
「で、問題の黒狗……梅津というんだがコイツはかなり好戦的な男で勢力拡大にも積極的だ。そしてかなりの危険人物でもある」
「具体的には?」
「集団を率いるのが抜群に上手い。軍隊もかくやという“痛み”を伴う躾で鉄の統制を敷きそいつらを使い戦争を仕掛けて来る」
部下同士であろうとタイマンにはまず持ち込ませない。
少数を多数で囲んで叩き潰し、確実に数を減らしていくのが黒狗のやり方だと言う。
「強い奴にはもっと徹底している。捨て駒を使って地道に削り勝率を上げられるだけ上げてからじゃないと奴はまず出て来ない」
うんざりしたような口調だ。
見ればタカミナとテツも深々と溜息を吐いている。
「ひょっとして君ら」
「ああ、うちの区に攻め入って来たんだよ」
まあ話に聞く限りじゃ狙われるのはタカミナのところしかないわな。
北と南は勝手に潰し合ってるんだもん。漁夫の利を狙った方が良いに決まってる。
となると残るはさしたるまとまりもない東区しかあるまいよ。
「タカミナが四天王に数えられたのは去年の十二月でな。
先代の四天王は黒狗寄りの考え方をしていて区内にある各校からカンパやら兵隊を集めたりしていたんだが」
「タカミナが言うこと聞くわけないよね」
そう言うとテツトモは深々と頷いた。
「ただやり合えばただでは済まないと分かっていたから先代は半ばタカミナを避けていた。
しかし、似たようなやり方をする黒狗の台頭で危機感を抱いた先代が東区の完全な統一に乗り出したんだ。
そこそこのドラマはあったんだが本題じゃないし省略するが色々あってタカミナが勝ち、東区の中学生は自由を手に入れた」
その代わりに統制は失われたわけね。
頭であるタカミナは組織とかそういうのはどうでも良くて、その他の連中は……恐らくは内部で小競り合いしてたんだろうな。
邪魔なのが居なくなったし、一番強い奴はやる気なし。となれば血の気だけは多い不良連中が大人しくしている理由はない。
そりゃ良いカモだわ。黒狗からすればチャンス以外の何ものでもない。
俺が推測を述べるとテツは頷き、続けた。
「好機と見た黒狗は年明け早々に東区に攻め入って来た。
それなりに抵抗はしていたようだが乱立していた小勢力はどんどん潰れて中旬頃には窮地に陥っていたよ」
「そこで我らがタカミナの出番ってわけさ! まとめ役の連中がタカミナに頭を下げに来たんだ」
はいはい、そういう感じね。
タカミナの性格上、断れないだろうしそれで腰を上げたのだろう。
「俺も黒狗には興味あったけどあっちから狙って来るなら大人しく待ってりゃ良いと思ってたんだが……二年三年の奴らにも頭下げられたらなあ」
「それで?」
「受けに回ってたらジリ貧だろ? だから大半は防衛に徹して俺が少数の精鋭を率いて本丸を落とすことにしたのさ」
「上手く行ったの?」
「半分は、な。タイマンには持ち込んだは良いが途中でサツが来てよぉ。それでお流れになっちまったんだわ」
「そこそこの期間、不良が集団で動いていたから目をつけられるのは当然だな。俺もそこを失念していた」
警察が来てお流れ、ねえ。ああ、何となく分かったかも。
確証を得るためにも一応、聞いておくか。
「あのさ、多分だけど黒狗って他所から来たんじゃない?」
「? ああ、そうだな。中学からこっちだが小学校卒業までは九州に住んでたとか。それがどうしたよ?」
「別に。それで黒狗は強いの?」
「お前ほどじゃねえがかなりのもんだったぜ。あのままやり合ってたらどうなってたかな」
よそ者で、タカミナが認めるほどの強さか。やっぱり俺の推測は当たってるっぽいな。
となると露骨にフラグが立った黒狗イベントの進め方は二つ。相手を立てるか立てないか。
光の道に進みたい俺としては前者以外にはないが、一応後者についても考えておくべきだろう。
世の中何があるか分からないしな。
「タカミナに勝利したって実績を持ちながら勢力を持たないのがニコだ」
「俺は勝ってなんか……」
「世間様にはそう見られてるってことさ。兎に角だ。まず間違いなく兵隊を使ってお前を削りに来るだろう」
「陰湿なやり口で追い込んで仕留めるのがアイツだからね~」
「とは言えダチが狙われるのは面白くねえ。兵隊を集めるとかは出来ねえが俺らは何時でも協力すっからよ」
「ああ、必要な時は声をかけてくれ。必ず力になる」
「俺は喧嘩弱いけど友達だもんね~遠慮なく頼ってくれて良いよ!!」
本当に気の良い奴らだ。
「ありがと。でもまあ、多分大丈夫だよ」
「いやお前の強さは実際にやり合った俺が知ってるけど黒狗は……」
「問題ないさ。大体、分かったからね」
疑問符を浮かべる三人をスルーし、俺は手を叩く。
「さ、ゲームしよゲーム。今日はそういう集まりなんだしさ」
【Tips】
・便所(トイレではなく便所)
ヤンキー達の憩いの場であり専用の喫煙所でもある。
基本的には上記の通りだが他校との戦争中などで駅や公園の便所を利用する場合などは途端に危険なスポットになり得る。
一人で便所に入って多人数に囲まれ袋にされるなどのイベントが起きかねないので注意しよう。
家を出る前にしっかり用を済ませるか、コンビニの便所を利用するのが吉。
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