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「昨日、君の家にこっそりと出入りする男を見たよ。君の相手にぴったりの、高貴そうな男性だった……君の父上は、君に相応しい相手をちゃんと用意しているんだね。もしかして、君も彼を」


「いえ、いいえ、違いますわ。ぁあ……。それはきっと、出入りの商会のものです。誤解なさらないで」


「商家だって、僕には望んでも手に入れることのない立派な身分だよ。その男は、父上のいない間にも、君の家に出入りできるんだね。歳の頃は僕より少し上くらいの……」


「ふ……んん……エンジのことでしたら、あの男は、私よりも、二十は上ですわ。それに、私には……セス、が……」


 ぴく、と男の手が止まった。が、それもほんの瞬きの間。その指が、女性の濡れた粒をつまみあげる。


「ひゃっ!」


「ふうん。その男に、君はこんな風に抱かれるんだ」


「いやっ、そんなの、嫌です」


 女性が潤んだ目で男に顔を近づけると、男は目の前に広がった彼女の金の髪の中に顔をうずめて片手で彼女を抱きしめた。


「僕だって嫌だよ。ああ、僕がこんな旅芸人でなかったら、今すぐ君をさらっていくのに」


「さらってくださいませ。私も、あなたを……あ! そこ……!」


「ここ? ここが気持ちいいの?」


 男の指が激しく動いて女性を一気に追いつめる。


「ああ、セス……今日こそ、あなたを……」


「欲しいの?」


「欲しい。欲しいわ……」


「だったら、もっと、聞かせて。君の甘い声。もっと、僕を煽ってよ。そうしたら、僕も……」


「はぁ、ああ……愛しているわ、セス……ねえ、あなたも、私を、愛している?」


「今更だよ、ポリー。君のいない世界なんて、僕にはもう考えられないよ」


「わ、私も……あ、あ……ひゃああ!」


 びくり、と女性の腰が跳ねて、そのままがくがくと腰を揺らす。


「ああ! だ、だめ! また……ああああ!」


 絶頂へと女性が上りつめても、男はその手を緩めない。さらに激しく指を揺らされ擦られて、女性は天を仰いで嬌声をあげた。


「ああっ! ま、待ってっ……セス! セスゥ……あああああっ……っ!」


 一際高い声と共に跳ね上がった直後、ふ、と女性の声が途切れて、その体からくたりと力が抜けた。腰だけが無意識のうちに痙攣を続けている。


 男はその手を離して女性の身支度を整えると、そ、とその体をベンチへと横たえた。濡れた手を布で拭いたところで、木のドアがきしんだ音をたてて開く。


「うまくいったか? アゼル」


「ああ。ドノマ男爵とつながっているのは、モーリ商会のエンジだ」


 あとから入ってきた男が、驚いたように目を見開いた。


「まさか……モーリ商会は、今回一番被害が出たと騒いだ……」


「それも、おそらくドノマ男爵と仕組んでのことだったんだろう」


 男は、苦々しい顔で吐き捨てるように言った。


「なんてこった。まんまと騙されていたのか」


「次に船が着くのは二日後だってさ。おそらく今までで一番の積み荷の量になる」


「そうだな。それとなく疑っているのを匂わせてけん制してきたんだ。向こうもいい加減、いらいらしているだろう。今回警備を緩めたのが罠だと気づかないなら、所詮それだけの連中だ」


 男の話を聞いて、アゼルは眉をしかめる。今まで甘い言葉をささやいていた優男とは、まるで別人の顔だ。

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