第4話
正直、彼女の様な環境に育てば筋肉と運動神経は同じくらいある者は居てもおかしくはない。
ただ彼女の育った場所は、高所。
私も時々行っていたから知っているが、彼女と彼女の幼馴染みは「落ちたら確実に死ぬ」場所でも、自分の身体を上手く使うことで難を逃れる術を知っているのだ。
おそらく昔は小さかったからできなかったろうが、今だったら私の実家の屋敷から、窓や屋根やらを伝って飛び出すことも可能だろう。
彼女は選手に選ばれると、めきめきと頭角を現した。
やがてそれは国のスポーツ協会からも目をつけられる程だった。
特に我が国は器械体操に力を入れていたこともあり、彼女には期待が寄せられていた。
そんな彼女の姿にカールがまず驚いた。
「アデルハイドって凄かったんだなあ!」
私は少し嫌な予感がした。
彼は相変わらず私に優しいし、婚約者としてきちんと扱ってくれる。
今後うちの婿としてやっていくために、商業関係の勉強もがんばっている。
だが根本はスポーツ好きなのだ。
彼はダンスにしても、本当はワルツより、激しいステップのポルカやマズルカとかが好きなのだ。
アデルハイドはまだ子供子供している部分が多いし、そもそも彼女はいつか故郷に帰るのが前提なので、色恋沙汰が自分に関わってくるとは思ってもいない。
楽しく勉強をし、スポーツに夢中なだけだ。
ただそれは、事情を知っている私だから言えることで、この寄宿学校に居られる様な生徒や、その周囲の者には判らないことだ。
カールは次第に私との外出にアデルハイドの話を持ち出すことや、一緒にどうだ、と誘うことが増えてきた。
私はそんな彼に、更に不安が増してきた。
そんな時、事故が起きた。
*
私が気がついた時は、病院のベッドの上だった。
通りを皆で歩いていたら、「危ない!」という悲鳴の様な声が聞こえ、突き飛ばされた。
暴走する自動車が通りに突っ込んできたのだ。
運転手も手に入れたばかりで大した腕も無かった。そして誤ってアクセルを大きく踏んでしまったのだと。
ハンドルを切ってあちこちぶつけながら、何とかしようとしたらしいが、ブレーキの存在が頭から飛んでいたらしく。
私の背後を直撃しようとしたところを、アデルハイドが突き飛ばしてくれたから、何とか助かった。
ただ。
車輪が私の足をまともに轢いていった。
そして私は再び車椅子が必要になってしまったのだ。
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