第2話
ところで、私が学校に行きだした三年後、アデルハイドをこの学校に通わせたい、とお父様からの手紙が来た。
私は中途学年への編入だったが、アデルハイドは一年生から始めるのだから大丈夫だろう、とのことだった。
その際の学費や生活費はお父様や、彼女の後援者となっている私の主治医の先生から出るという。
なおアデルハイドからの意見としては。
「山を離れるのは嬉しくないけど、この先のことを考えてみたら、勉強して私の村の先生になる資格を取れたらいいと思った」
とのことだった。
まあ確かに、ずっとあの村で暮らして行くにしても、お祖父様もお医者様もずっと彼女を保護してくれる訳ではない。では山羊飼いをしている彼女の幼馴染みといつか結婚するのか?
だがそれだけで生活していけるとは思えない。
決して多くのものは必要としない地域であろうが、これからもそうであるとは限らない。
何か彼女にも思うところはあるのだろう、と私は思った。
一方私は、と言えば。
イレーネの実家、ザイトルツ家、そしてその周囲の資産家の令状令息との交友関係を次第に増やしつつあった。
ただ、その中で、時々嫌がらせというものもあった。
私は既に社交界に顔を出しつつあったのだが、その時のダンス姿に、けちをつけるひとが居た。
うちやザイトルツ家よりやや家格の高い令嬢とその取り巻きだ。
彼女らに言われると、私の踏むステップはいつも微妙にずれている、とのことだ。
まあそれは仕方がない。
いくら歩いて走れる様になったからと行っても、初めからそうできていた人々に比べれば、私の歩き方にしてもステップにしても、決してスムーズなそれではないのだから。
学校では先生の目があるので、そういうことは言われない。
それ自体が淑女としてどうか、ということを厳しくしつけられる学校なのだ。
いやまあ、それを考えるとアデルハイドは大丈夫だろうか、と思うこともあるが、彼女の神経は不可解な否定でない限りは、痛めつけられることはないのだろうから。
話が逸れた。
ともかく私は自分の足に関しては、ある程度何かを言われても仕方がないと思っている。
私の過去を知っている友人達は、常にその都度「気にしなくていい」と言ってくれている。
カールもその一人だ。
パーティでは私の相手をして踊ってくれるが、ワルツなどのゆったりした曲を選んでくれる。
彼はこの時、それでも大学に行っていた。
ただしやはり自身の希望通り、スポーツに力を入れていて、何かしらの大会では良い成績を修めている。
そしてある時、イレーネがこう言った。
「兄様、今度のボクシング大会で優勝できたら、どうもクラーラ、貴女に求婚するみたいなのよ!」
「できたら?」
「まあ実際は、できてもできなくても求婚はするつもりらしいけど! 馬の鼻面にニンジンぶらさげるみたいなものよ」
「私はニンジンなのね」
思わず肩をすくめた。
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