さすがにその理由の婚約解消は許せませんのよ。

江戸川ばた散歩

第1話

「クラーラ…… 君との結婚はどうしても無理だ…… 婚約は破棄して欲しい」

「何故…… 何故なのカール!」


 公園の景色の良い展望台で、彼は私にそう言った。



 私とカールが出会ったのは、私が十四で、寄宿制の女学校に行きだした頃だ。

 私は十三の歳まで身体が弱く、屋敷で家庭教師について知識を身につけていた。

 だが十二の歳に勉強、いや遊び相手として連れられてきた四つ下のアデルハイドと、その保護者のおかげですっかり元気になり、それまで弱っていた足も走ることができるくらいにまで回復した。

 それなら社会性をつけた方がいいな、と実業家としてこの都市でも有名なお父様は、私を社交界に通用する女性として、きちんとした外での教育を受けさせるべく学校に行くことになった。

 初めての共同生活は不安だったけど、友達と言えばアデルハイドしか知らなかった私にとっては、新しい世界が開けた気分だった。

 アデルハイドに文句がある訳ではないけど、この時期の四つの年の差は大きい。

 私は既に社交界に出ることを想定した教育を街で受けているが、彼女は故郷で基本的には昼間は山の小屋で家事をしたり、山羊の世話をしたり、時には学校も行くが、習っている内容もまるで異なる。

 とは言え、私は彼女がとても好きだし、頼りになる妹の様なものとして、休みになったら遊びに行くことにもしていた。

 ただ、話が合うだろうか、と次第に不安にはなってきていた。

 実際女学校で習う事柄も、同室の友人の話す事柄も、アデルハイドがやってきた時程ではないにせよ、外に出なかった私には充分刺激的だったのだ。

 特にこの、同室のイレーネは、成績はいまいちだが、気立てが良く、人見知りがちな私を他の寮生と上手くやっていける様に橋渡しをしてくれていた。

 そして短い休暇の時には、近場の実家に私を招いてくれた。

 そこで出会ったのが、彼女の兄のカールだった。

 彼はその時、私達より三つ年上、既に高等学校でも上級生の部類だった。ただ、その上の大学を目指すかというと、その辺りは迷っている様だった。

「むしろ俺は、スポーツ選手になりたいんだよね」

 世間では運動の良さを説きだし、スポーツの世界大会が行われるとか何とか。私はそんな話題も知らなかったので、彼の話には大いに興味を示した。

 この一家、ザイトルツ家とはそれから私が女学校に行っている数年の間、たびたび交流を重ねる様になっていた。

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