父の話

 母さんにお祖母ちゃんのこと聞いてたんだって?

 あれからもう二十年か。不幸な事故だよ。

 俺が出張じゃなかったら、って今でも時々思う。お前達にとっても良い婆ちゃんだったし、俺にとっても大事な母親だからな。

 俺が小さい頃に父親が亡くなって、俺と仁美ひとみを女手一つで育ててくれてな。

 仕事も家のこともバリバリやる、スーパーマンみたいな人だったよ。

 いっつも笑顔で、裏表がなくて、思ったことはズバズバ言う人だった。

 大酒飲みだったからいつか身体をこわすんじゃないかって心配してたけど、まさかあんな形で亡くなるなんてなあ。


 母さんと? いや、仲良くやってたよ。そりゃ結婚してすぐくらいの頃は「お義母さんの言い方がキツすぎる」とかボヤいてたけど。

 昔からそういう人なんだよ。正直過ぎるっていうか、悪気は無いんだよね。そうやって母さんにも説明したら、そのうち何も言わなくなった。

 いつも会うとお互いニコニコしてたし。

 二人目の娘みたいに思ってたんじゃないかな。仁美に対してと同じくらい気さくに接してたから。


 お祖母ちゃん、初孫だったから香澄かすみのことをそれは可愛がってくれてな。赤ちゃんの時からしょっちゅう遊びに連れ出してくれたんだ。

 お前は香澄よりちょっと身体が弱かったから、あんまりそういうお出かけは出来なかったんだ。だから余計にお祖母ちゃんの記憶が薄いのかもしれんな。

 お祖母ちゃんも「ママに似て弱くなっちゃったのよね。可哀想にね」って言ってよく笑ってたな。


 お祖母ちゃんの思い出なら、仁美叔母さんにも聞いてみたらどうだ。



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