第16話

 ハル様の言葉に、皆、ポカーン。

「えっ…」

 コナさんも、麗も、過激派衆も、みんな。

「えっ? この人誰? レイちゃん、知り合い? でも、さっきボクの恋人って…? …どういうこと?」

「…どういうこと? はこっちのセリフです。コナさんの恋人じゃないんですか?」

「コナ? この女のこと?」

 いまだ腕にくっついて離れないコナさんを指さして、言った。


 その物言いは、明らかに恋人にする言い方ではない。

「そうです。その人が、あなたの恋人だと言ってるんですが? そのせいで噂が立って、こっちは商売にならないんです。虚言罪と営業妨害罪で訴えてやろうかと」

 マリさんも加わって、ここでは完全にハル様攻撃モードだ。

「えええっ…ボク、こんな女、知らないよ…」

 と、困り果てた様子のハル様。嘘をついているようには見えない。


 …どうやら、雲行きが怪しくなってきた。

「こんな女って…ハル様、確かにおっしゃったじゃないですか!『君の存在は忘れたくない。君が大好きだ。だから、これからもボクについてきて、ボクの生活に一生よりそってほしい』って!」

 そうわめきだすコナさん。

 本当に言ったのだとしたら、ドン引きするような内容なのだが…

「ボク、そんなこと一回も言ってませんよ?」

「いいました! 確かに! おととい、ここで!」

「おととい…あっ!」

 しばらく考えるそぶりを見せた後、ハル様ははっとした表情を見せた。

「そんなこと言ったんですか? まったく、私以外にも人を困らせていたんですね」

「ちがうっ! 言ったのはそんな気持ち悪い言葉じゃない!」

 麗のあきれた声にかぶせるようにして、ハル様は否定する。

「『言ったのはそんな気持ち悪い言葉じゃない』と。では、コナさんに向かって何か言ったのは事実なんですね?」

 言葉を分析した麗が言う。その言葉に、力なくうなずくハル様。

「で? なんて言ったんです?」

 麗がそうせかすと、観念したようにハル様が言った。

「ボクが言ったのは、『君たちの存在は決して忘れない。こうして働いてくれている君たちを心から尊敬する。だから、これからもこの場で、ボクらの、みんなの国のため、協力してほしい。』だよ。国王専属鑑定士であるボクが町に出たら、恐れられている国王と、その配下の人への恐怖とか…そういうのが少なくなるだろうという、国王の目論見で来た時に、言った言葉だよ。しかも、この女だけじゃなくて、もっと大勢に言ったつもりだったんだけど…」

 おとといと言えば、麗が鑑定士になり、男どもに追われ、そしてハル様にあった日。

 そんな日に、そんな出来事があるなんて、知らなかった。

「マリさん、ご存じでした? その日と言えば、私が鑑定士になった日でしたが…私が鑑定士になる前に、そんな演説が行われていたんですか?」

「いやぁ…そんなはずは…」

 マリさんに尋ねるも、よくわからないという顔だ。

 過激派3「…あっ!」

 過激派3が、何かはっとしたように言う。

「どうしたの? 何か知ってるの?」

 すかさずマリさんが突っ込むと、ぽつぽつと話し始めた。

 過激派3「いやあ…その日は、かわいい女の子が新しく鑑定士になったというから、職業屋に行ったんです。それがレイちゃんですね。で、そのあとレイちゃんが逃げて、しばらくしたら、あの国王専属鑑定士様のお話が聞けるといわれて、慌てていつもの関門に行ったんだ。たぶんそこでされていたお話が、そんな内容だったと思います。」

 話が長くなったので、一度整理する。


 まず、麗が鑑定士になる。

 その報告を受けて、過激派3含む多くの男性が職業屋に行く。

 それを見て麗が逃げる。

 麗がハル様に追い回され、フロラに助けてもらう。

 その後、ハル様による鑑定士の演説が行われる。(その時マリさんと麗がチイセになる。)

 コナさんが演説を告白と勘違いする。

 ハル様がコナさんに惚れたと言う

 人だかりができ、商売に影響が。

 現在


「はぁーっ…」

 このことをものの5秒で理解した麗は、大きなため息をついた。

「あのですね…コナさん。よく聞いてください」

 とりあえず、状況をしっかり説明しなければならない。

「ほえぇ…やだ! こんなうそつきの方の話なんて、聞きたくありませぇんっ! コナを貶めて、楽しんでるんでしょ? そんなひどい人の言葉、しんじませぇん!」

「じゃあ、ボクが話すね」

 そう冷静な声で言ったのは、ハル様だ。

「えっ…ハル様~、やっと、やっとコナのことが好きって素直に認めてくださったんですねぇ~…じゃあ、結婚式はいつにしますかぁ? あと、誓いの儀式もしないとぉ!」

 ハル様の言葉を聞こうとしないで、本格的な告白だと思い込んでいるコナさんは、結婚のことについて話し出す。

「いやいやそういうことじゃ」

「あとぉ…新婚旅行! ハル様ぁ…コナぁ、お城に行ってみたいですぅ」

「違う、違うんだって」

「お城じゃだめですかぁ? あっ、その前に、ご両親の方に挨拶を…」

「いい加減にしろ!!!」



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