第15話

 しばらく鑑定士の並ぶ道を進んでいくと、人だかりができていた。

「なんだろう、あれ…」

 二人は人だかりの中心を見ようとするも、よく見えない。

「あの…この人だかり、なんなんですか?」

 麗が近くにいた人に聞くと、

「この中に、あの国王専属鑑定士のハル様を落とした人がいるらしいんだよ…全然見えないんだけどね…」

「へえ…」

 そう聞くと、麗は興味をなくし、元の場所に戻ろうとした。

 だが、マリさんはそうはいかない。

 麗の腕をがしっとつかんで、人だかりの中に無理やり入りこんでいった。

「えっ…ちょっと、あのくだらないやつの相手なんて、知る意味もないじゃないですか! やめましょう! マリさん!」

 麗はそう必死に訴えかけるも、マリさんは聞く耳を持たない。

「ちょっと!」

 引っ張られるがまま、麗は輪の中心に入っていってしまった。

「えっ、うわっ!」

 ずっと人だかりが続くと思っていたが、人はその女性を囲うような形で、ドーナツ型になっていた。麗たちはかなりの勢いで来ていたため、ドーナツを抜けてしまい、思いっきり転んだ。

「ちょっと、嘘つかないでくださいよ!」

「ほえ?」

 輪の中にいる女性は、何が何だかわからないという様子で、きょとんとしている。

 …いや、しているフリなのかもしれない。

「あの国王専属鑑定士を落としたのは、ここにいるレイちゃんです! デマを流して、人気者に、しかもお客さんまで奪うなんて、虚言罪、営業妨害罪ですよ!」

「っ…ふえええん…コナぁ…うそなんてぇ…ついてないですよぉ…」

 いきなりその女性は泣き出した。

 …典型的な「ぶりっ子」だ。

 確かにその女性…もといコナさん? は、確かにかわいらしい見た目をしている。あのハル様が落ちた、惚れたといっても違和感を感じない。年も、16くらいで、麗よりも年下に見える。

(あいつ《ハル様》、ほかの人にも私と同じようなことしてたのか…? それとも、本当に惚れた人には別のことを…? どっちにしろ気持ち悪っ!)

 麗は気づいていない。というか、考えようともしない。ハル様の印象が悪すぎて。




 コナさんは男どもの気を引き付けるために、嘘をついているということを。





「おい! お前らなんなんだ! いきなりコナ様の御ま…え…に…」

 おそらく過激派である男(仮に過激派1)が近づいてきたが、麗と目が合った瞬間、言いかけた言葉を失った。

「なんだよ! コナ様の御…」

 また同じ言葉を言おうとした男(仮に過激派2)も、同じような感じで言葉に詰まる。

「うるっさい! コナ様の((以下略」

 またやってきた男(過激派3)も同じように。

 そのあとも続々と、

「コナ様((以下略」

 と言っては、言葉に詰まっていった。(過激派衆は合計で8人になった。)

 過激派1「なんだ…この美しい人は…」


 過激派2「天使…いや、女神か…?」


 過激派3「コナ様にも引けを取らぬ美しさ…」


 過激派4「いや、可憐さならコナ様をも上回る…」


 過激派5「そのお美しい目…」


 過激派6「さわやかな髪…」


 過激派7「このお方が…神の最高傑作…?」


 過激派8「このお方になら…」


 過激派衆(一生を尽くしたい…)


 男どもは同じような反応で、麗を見る。

「なんだこの茶番は…」

 麗がため息交じりに言うと、過激派衆は、

「はぁ…お声も美しい…」

 とうっとり。

「あのぉ…どなたですかぁ…? ひっ…皆さんもぉ…ひどいですぅ…」

 いつも「コナ様~」だった男どもが、いきなり別の人に対しデレデレしはじめたものだから、面白くないのだろう。また泣きまねをはじめた。

 過激派3「あっ…コナ様…落ち着いてください…」

「うええええっ! みなさん…コナよりもの方がいいんでしょう? そうなんですよね?? だからみなさんコナ私のことをほったらかすんだ~…」

 なだめようと勇気ある行動をした過激派3の言葉によって、さらに泣いてしまうコナさん。

 なんだか過激派衆も、コナ様の面倒を見るのがめんどくさくなってきたように見える。

 …あれだけ、「コナ様にメロメロです(ハート)」みたいな登場の仕方をした割には、意外とすぐに心変わりしてしまっている。

 そこに、つかつかと、聞き覚えのある足音がした。

 その人物の存在に、ドーナツは一気にえぐられた。

「おやおや、ボクのレイちゃんがなにか?」

「だれがあんたのレイちゃんだ」

 颯爽とあらわれたハル様の言葉に、麗はすかさず突っ込みを入れる。

「ほえ…ハル様? ハル様あ~っ!」

 それと同時に、コナさんがハル様のもとへ飛びついた。

「ハル様っ、このお方たちは誰ですか? さっきからハル様を落としたのはこの方だーって、コナのことを貶めようとするんですよぉ~? ううっ、そのせいでぇ…コナぁ……うえええっ…」

 ハル様の腕にくっつきながら、そういってまた泣き出すコナさん。

 さっきよりも5トーンくらい声が上がっている気がする。

「…あなたの恋人? なんじゃないんですか? さっさとその人連れて、帰ってくださいよ。この男どもも、うざい。さっさと業務に戻りたいんです」

 麗がそう言うと、ハル様はゆっくりと腕にくっついているを見下ろす。

 そして、また麗たちを見て、こう言った。







「…この人、誰?」




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