第14話

「んっ…うっ…」

「レイちゃん、朝だよ」

 今日もマリさんに起こされて、麗は起きた。

 朝ごはんを食べて、これから出かけようというとき、マリさんに呼び止められた。

「まって。スキルを入れるの、忘れてない?」

 そう言われて振り返ると、スキルが入った瓶二つを手にしている。

 それをよく見ると、スキルの球にうっすらと、『レイ』、『マリ』と書かれていた。

「あっ…」

 そういえば、苦しい思いをして抜いたスキルを入れるのを忘れていた。

(もしかして、抜くのがあんなにつらいなら、入れるのもつらいんじゃ…)

 そんな麗の不安を察したのか、マリさんが気が付いたように、

「あっ、スキルを入れるのは簡単だから安心してね!」

 といった。

(いや…あんな苦しいスキルの抜き方を当たり前だと思っているくらいの国だ…この国の「安心して」は、安心できない…)

「じゃあ、マネしてね! といっても、飲むだけなんだけど」

 そう言うと、『マリ』と書かれたスキルの瓶のふたを開け、それをすぐさま飲んだ。

「はい! おしまい! これだけだよ!」

 思ったよりも簡単そうだと思い、麗は瓶を手に取り、ふたを開けて、スキルの球を口に含んだ。

「んっ、ぐっ!」

 呑み込もうとして、思わずむせた。

(そういえば、普段はこんな大きな球、かまずに呑み込んだりしないな…)

「早く呑み込んで! レイちゃん、鑑定士じゃなくなっちゃうよ!」

「んっ! んぐっ! ぐっ…はぁ…」

 マリさんにそうせかされ、麗は必死になって呑み込んだ。

「そんなに?」

 不思議そうに言うマリさんに、

「元の世界じゃこんなものまるまる呑み込んだりしないんです!」

 そう必死に訴えるが、いまだ不思議そうにしている。

 だんだんいらだってきた麗は、

「そもそもなんでかんだりなめたりしたらいけないんですか!? 鑑定士じゃなくなるって、どういうことですか!」

 と、半ば八つ当たりのように言った。

「いや…その球、ずっとなめてたら、溶けていっちゃうの。そして、それが全部解け切ると、鑑定士としてのスキルを習得できなくなるんだ。だから…十年くらいしたらなくなっちゃうから、スキルをまたもらわなきゃいけないんだ」

「…そうなんですね…」

 麗はもはや言葉も出なかった。

 そんな不便な生活を、当たり前のように送っているなんて…と。

「…まあ、今日もお仕事頑張りましょう」

「そうね。行きましょ!」

 そして二人は関門に向かったのであった。


 関門に向かう前に、昨日言ったカーペットの店に立ち寄った。

「あっ! できてますよー!」

 こちらに気づいた昨日の店員さんが、愛想よく言って、しばらく奥に行った後、ピカピカになったカーペットを持ってきてくれた。

 新品と比べてもわからないだろうその出来に、麗も興奮気味に食いつく。

「これが…能力の力…」

「すごいですよね~。こんなにできる能力の人、めったにいないんですよ~!」

 嬉々として店員さんが言った。

「…ぐすっ…」

 またマリさんが泣き出した。

「…マリさん、行きましょう。関門にいるお客さん、帰ってしまいますよ?」

「…うん…」

「ありがとうございました。」

「またのご来店を~!」

 そうして二人は、今度こそ本当に、関門に向かった。



 関門に来てみると、人が昨日よりも増えていた。

「こんなに混むことなんてそうそうないな…どうしたんだろ…?」

 と、マリさんがつぶやいていた。

 近くの人に聞くと、どうやら国王専属鑑定士を落とした人がいるらしい。

「それ絶対わtむぅぐっ!」

 マリさんが口を滑らせそうになったので、麗はとっさに口をふさいだ。

 そのまま昨日言った場所まで行く。

「むむっ! むーむめ! んままんーみおものまんまんまっ みいまうま!(ううっ! どうして! 私たちのことなんだからっ 言いたいじゃん!)」

「だめです。そんなことしたら、まともに鑑定士できませんから」

 まだムームー言うマリさんにそう返しながら、麗は準備を始めた。

 しばらくするとおとなしくなったので口を外すと、何も言わずに準備を手伝ってくれた。

 

 新しくなったカーペットを敷き、そこに座る。

 準備ができると、またあの恥ずかしい掛け声をして、お客さんを呼んだ。




 結果…




 …ほとんどお客さんが来なかった。

 関門に立ち寄る人はかなりいたのだ。昨日よりもだいぶ多いくらいだ。

 だが、呼びかけても、ちらっとこっちを見るだけで、通り過ぎてしまうのだ。

「どうしてぇ~? こんなに新しいカーペットで、こんなに美人がいるのにー!」

(いや自分で美人って…)

「けど…どうしてでしょうね? 鉱石の調子でも悪かったのでしょうか?」

「うーん…気になる! 調べに行こう!」

 そういってマラさんが立ち上がり、町の方へと歩いて行った。


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