第13話

 宿に帰ると満足したのか、マリさんが麗から離れ、

「本当に、ありがとう」

 といった。

「そんなことより、スキルを抜くってどうやるんですか? 仕事終わってから、雑草やら石やらを見るたびに情報が入ってきて邪魔なんです」

「…本当に感謝はしてるんだけど、もうちょっと…浸るっていうか、余韻っていうか…」

 もごもごとムードだとかなんだとか言うマリさんに、麗は

「早く教えてください」

 と一括。ショックそうなマリさんに、麗は少し罪悪感を覚えたものの、マリさんが話し始めたので、罪悪感は忘れることにした。

 話の内容はこうだ。


 スキルを抜くには、まず専用の道具が必要だ。それは、大体宿の中に備わっているという。

 その道具は瓶のようになっていて、底のボタンを押して息を吐くと、二酸化炭素ではなくスキルが抜けていくらしい。

 そして、その瓶のふたを閉めると、スキルが保管できるらしい。


「で、その瓶とやらは、どこにあるのですか?」

「あ、えっとね、大体トイレにあるよ!」

 そういわれたので、トイレに行ってみた。

 確かに瓶がたくさん並んでいた。大きさは、薬局に売っている謎の健康になりそうな液体くらいの、小さめのものだ。

「これに…スキルを?」

「うん! やってみるから見てて!」

 というと、瓶のふたを開けて、そこにあったボタンを押した。

 そして、息を吐いている…ようなしぐさをする。

 おそらく本当に息を吐いているのだろうが、なぜか「ふーっ」という音がしない。


 本当にただそういうしぐさをしているのではないかと疑うほど、ずっとその体制だったので、麗がとうとう口を開く。

「あの…そのふりもうしなくて大丈夫です。大体はわか…」

「大体は分かりました」と言おうとしたら、マリさんの口から、薄桃色の光った球体が出てきた。

「えっ…」

 そしてその球体は、まっすぐ瓶の底へと落ち、底でふわふわと浮くようになった。

「こうやるの。まだやらないで、ちょっと待っててね」

 瓶から顔を上げて、ふたを閉めたマリさんは、そう言い残してトイレへと向かった。



「えぇ…」

 麗は今、ドン引きしている。

 どうしでドン引きしているのか。それは…


 …マリさんの入っているトイレで、おぞましい音がなっているからだ。あまりにもおぞましいので、その声は表現しないでおく。

 おそらくむせているだけなのだが、マリさんの声からは想像もつかないような、おぞましい声でむせている。

 原因は…99,9%スキルを抜いた時のあれだろう。

「こんなことになるの…? スキルを抜くのも大変だな…」


 しばらくすると、マリさんが戻ってきた。さっきとは違い、ひどくやつれている。

「ごっ…ゔぉっ、ごめんね? ゔっ、これ、マネしてみて。ちょっと苦しいから、慣れるまでは大変かもしれないけど…」

「…はい…」

 麗も覚悟を決めて、瓶を手に取り、ふたを開けた。

 底のボタンを押して、息を吐く。

「あ、絶対に息を吸ったらだめだよ! ちょっとでも吸うと、スキルが戻っちゃうから!」

「えっ!?」

 聞いていなかった情報に、麗は思わず息を吸った。

「あーあ、もう一回。難しいよね。わかる。でも、これをやらないと、めんどくさいことになるから、ファイト!」

「はぁ…」

 麗はもう一度、息を吐く。


 ……


(苦しい…さっきのスキルの球、全然見えてこない…いつまで続ければいいの?)


 そう思っていると、何かが口から出てくるような感覚になる。

(おっ、来たか! 早く落ちて!)

 麗は正直、限界だった。

 ギリギリまで息を吐くと、さっきはしなかった、「ポンッ」という音がして、スキルの球が落ちていった。

 麗はそこのボタンを戻し、ふたを閉める。

 そこで緊張が解け、一気にその場に崩れ落ちた。

「っあ゛ーっ! げほっ、げほっ! ごほっ…」

 麗も、さっきのマリさんと同じようにむせる。

 さっき、マリさんはよくトイレに行くまで普通に話せたなと感心するほど、苦しい。

「疲れるよね。お疲れ様」

「な゛っ、どっ、どーじて、ごっ、ごんなっ、だいべっ、へんなぬきかたをっ、ずるんですが!?」

「もっといい方法は、あるかもね…でも、これがスキルを抜く、一番最適な方法として、国全体に知れ渡っているの。たぶん、ほかの地方でも…この世界では、これが当たり前なの」

(あーっ…苦しい! 絶対にやりかた間違っている! もっと楽なやり方見つけてやる!!)


 そのあと息が落ち着いたのは、吐き出してから十分後だった。

「はっ、はっ、はーっ!」

「大丈夫? はい、お水」

「ふう…ありがとうございます…」

 ぐびぐびと水を飲み、ひとまず落ち着いた。

「…今日はもう寝てもいいですか?」

「ええ…そうしましょう。大体の人は、寝る前か、もうその日に予定がなくなった後にするわ」

(なっとく。絶対に息切れで倒れるわ…酸欠)

 麗はついに耐え切れなくなり、ベッドに倒れこんだ。

 そのまま麗は眠りに落ちてしまった。




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