第12話

「なんだこのチートは……」

「『万物を見る目』のレベル、絶対に上がってるよね?」

 たしかに、鑑定士になるときに飲んだスキルは、どちらもレベルアップしていた。

 器用さは、Lv.1からLv.7に。これはまだいい。

 万物を見る目のレベルは、Lv.1から……


「Lv.99て……どれだけなんだよ」

「Lv.99!? もう少しで特級鑑定士じゃない!? どうしたの? そんなに少ししか見ていないのに……これが、才能?」

「しりませんよ」


(ああめんどくさい!! チート能力は見飽きてるんだ! もっと刺激の強い、ベタじゃない展開は起きないのか!? チートなんて自分に備わってどうしろっていうんだよ! このままできる鑑定士として一生を終えるなんていやだ!)

 麗は、極力感情を表に出さないのが得意だ。

 ……その分、心の中はお祭り騒ぎだが。





「……ねえ、国王専属鑑定士、目指してみない?」

「いやですよ」

 国王専属鑑定士なんて、あのハルと同じ職場なんて、麗がやる気になることなどあるだろうか?

「どうして? 資格だけでもさ、ね? 一日でそんなになる人、百億人に一人くらいなもんだよ! 誇りに思っていいんだよ?」

「そういう問題ではありません。考えてみてください。あのイヤミなハル様と一緒の職場、耐えられます?」

「うっ……確かに」

 この二人にとって、ハル様はひどい人間認定されている。

「またその話は今度にしましょう。あいつハル様がやめでもしたら、私は喜んで資格を受けましょう」

 麗だって、国王専属鑑定士に興味がないわけではないのだ。こことはまた別の場所に行けば、もっと違うすごいことができるかもしれない。

「そうね」

「じゃあ……」

「じゃあ?」

 麗は片付けられたカーペットを取り、はじめ来た道へとかけていった。

「あっ、ちょっと、レイちゃん! まってよー!」

 また腕輪がくっつくと面倒なので、慌ててマリさんも追いかけた。



「いらっしゃいませ!」

「あの、鑑定士が座るのにいいカーペットありませんか?」

 麗が行った先は、カラフルなカーペットがところせましと並んでいるお店だ。

 愛想のいい女性が、気持ちよく出迎えてくれる。

「ちょ、ちょっと、レイちゃん! 確かにカーペット変えるとは言ったけど、そんなに早くなくてもいいじゃん!」


 そういったマリさんの言葉を聞いて、麗はみるみる表情が鬼のように変化した。


「何言ってるんですか! 今やらなかったら、絶対明日もやりません。それを私はいやというほど学習してるんです! やりませんよね? 今また宿に戻ったら! 夜ご飯食べて、お風呂に入って、あっ、カーペット買い忘れた! まあ明日でいいか。そして寝て起きて、忘れてカーペットを敷くころに気づくんです! この無限ループ! わかります?」

 麗は今までにないほどの迫力で、一息で言った。

「わっ、わかるけど! このカーペットは、うちのおじいちゃんの代から受け継いでいる、大切なカーペットなの! 新しくしたら、そのカーペット、捨てちゃうんでしょ?」

マラさんも負けじと反論するが、そんなの麗には通用しない。

「そうですよ! そんな古いカーペットなら、なおさら新しくするべきです!」

 またぎゃーぎゃー言い始めた二人に、恐る恐る店員の女性が言った。

「いらっしゃいませ……あの、

「「はい」」





(あれ? 今、この人の言葉に……操られた? これが、この人の能力なのか)

 驚愕している麗に気にする様子もなく、女性は続ける。

「もしよろしければ…そのカーペット、きれいにしましょうか?」

「そんなことができるんですか?」

「はい。鑑定士の方には、ずっと使っていたカーペットが名残惜しくて、なかなか新しくできないという方も結構いらっしゃいますので、ものを新品にできる方を雇い、新たなシステムを開発しました。それで…」

 その人の説明を聞いているうちに、マリさんはみるみるキラキラした表情になっていった。

「どうですか? 使ってみませんか? お値段は少し張るのですが、それでもかなりハイクオリティなものをご用意できますが」

「それで!」

 話が終わったかと思うと、マラさんが勢いよく言った。

「かしこまりました。それではお値段、200000インミになります」

(ほんとだ。クリーニングにしては結構高い。)

 バルサノのケーキが40000インミ、職業屋の宿の宿泊料金が3000インミなので、これがだいぶ高いことは確かだろう。

「…まってください。やっぱり普通にカーペット買います」

 さっきまでの威勢はどこへやら、いまさらマリさんがそんなことを言い出した。


「どういうことですか? マリさん。新しくなるんだから、いいじゃないですか」

 麗が言うが、マリさんはふるふると首を横に振った。

「200000インミなんて大金、私は出せません。そこまでお金持ちじゃないし、そこまでこのカーペットに固執しているわけじゃない。カーペットのためだけに、自分やレイちゃんの生活が苦しくなることはしたくないんです」


「…そうですか…残念ながら、これ以上値段をまけることはできないんです。申し訳ありません」

「いえいえ。そういうことを言っているのではないので。あの、そこにあるカーペット、見せていただいても?」

「…はぁ…」

 目にたくさん涙をためているマリさんを見て、麗は軽くため息をついた。

 そして、財布を取り出し、千円札2枚を出した。

「もともと、買い替えようといったのは私です。私がお金を出しても、何もおかしくありません」

 麗はそう言うと、持っていたカーペットを店員さんに渡した。

「承りました…で大丈夫ですか?」

「…レイちゃ~ん!!!」

「あっ、大丈夫です」

 マリさんが麗に抱き着いたので、麗が代わりに返事する。

「では、明日、12時までにこちらにお越しください」

「わかりました。ありがとうございます」

「レイちゃん、ありがどーっ!」

 麗はいまだくっついて離れないマリさんを半ば引きずりながら、人の目を浴びながら、宿に帰った。







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