第11話
「国王専属鑑定士なんて、ただの称号ですよ。そんな誇ることではありません。まだまだボクも未熟なんですから」
そういいながらもまんざらでもない顔だ。おそらく喜んでいるのだろう。
「皆さん! 国王専属鑑定士様もお忙しいでしょうから! もう行きましょうよ!」
フロラがそう言い、走ると、周りの人々も去っていった。
「で……その石、どうするつもりです?」
「えっ?」
唐突に話を振られ、もともと石を持ってきた男たちがあっけにとられる。
「どうするって……」
「売れば100000インミもする高価な石。もたもたと持っていたら誰かに盗られますよ?」
そういうと男たちは、慌てて麗から石をぶんどり、依頼料を渡して走り去っていった。
「……大丈夫?」
ハル様は心配そうに、さっきまで石を持っていた麗の手に、自分の手をそえるが、すかさず麗は、その手を振り払った。
「大丈夫じゃないです。なんであなたの顔を見なくてはならないんですか」
「ひどいなあ……」
「私にかまわないでください。なんですか。どうして王国専属鑑定士なんていう、たいそうご立派な職業の方が、ここにいるんですか?」
「国王専属鑑定士! 君の大切な鑑定士デビューを見逃すわけにもいかないし、君に悪い虫が付いたら大変でしょ?」
(めんどくさい……)
「まあ! あの国王専属鑑定士様? はじめましてぇ。私、マリと申しますぅ」
いつの間にか、マリさんが麗の横にいて、甘ったるい声で、ハル様に話しかけていた。
だが、その声には、ピリピリとした空気をまとっている。
「いやいや、初めまして。あなたは……?」
「ああ、この子のチイセをやっておりますぅ、マリと申しますぅ」
「ああ、あなたが、レイちゃんの……一体どんなウジ虫が、レイちゃんに近づいたのかと思ったら……」
そういって、マリさんを鼻で笑う。
「まあ、辛口ですこと。おほほっ」
ウジ虫とまで言われたというのに、マリさんは表情一つ崩さない。
だんだんと雲行きが怪しくなってきた。
「いやいや、レイちゃんははじめ、ボクの誘いを断ったんですよ。それを奪い取った方は、誰であろうとウジ虫ではないですか。しかも年も、レイちゃんとそんなに違わない。そんな未熟なあなたに、口調を注意される筋合いはありませんが?」
「まあ、これは失礼いたしましたぁ。でも、こんな身分も低いものに注意されるなんて、あなた様こそ、威厳の方はありませんの?」
「なに? 生意気な口をきく方だな。この僕にそんな口をきくのは、君くらいなものさ」
「レイちゃんも同じような口の利き方でしたが、それについては?」
「何をおっしゃる。レイちゃんは特別だ」
「レイちゃんだけ贔屓して、あなたは一体何を国王から命じられたのかしら? 女王、マリ様のいないスキに、どんな悪事を働こうとしているのかしら…」
「悪事だなんてとんでもない。私は」
「うるさいですよ。いい加減、そのいつまでもだらだらだらだらだらだらだらだら続く、不毛な会話をやめてください」
「おっとこれは失礼」
「ごめんねレイちゃん」
(はぁ……この二人を見ていると、フロラがずいぶんましに思える…あれ…そういえばフロラは……? 戻ってこない)
「まあ気にせず、業務を続けてくれたまえ。レイちゃんとそのチイセ」
「マリと申しますぅ!!」
なぜか初対面(のはず)なのに、火花をちらちらさせていた二人は、最後までいがみ合っていた。
そのあと仕事に戻った二人のもとに、なぜかたくさんの人が集まり、石を鑑定しに来た。
どうやら国王専属鑑定士が惚れた人がいると、騒ぎになっていたらしい。
とりあえず、鑑定士として、業務を果たしていた。
といっても、石を見て見えた情報を依頼主に伝えるだけなので、簡単だったのだが。
「ふう、今日は終わり!」
ある程度日が沈んで、人も少なくなってきたとき、マリさんが言った。
「だいたいの仕事、わかった?」
「はい。でも、見えた情報をそのまま伝えるだけでいいなんて、簡単すぎません?」
麗はずっと疑問に思っていたことを話した。
鑑定士というからには、長年の経験やら知識やらを積み込んで積み込んで、長い時間をかけて、一流になっていくとか、そんなのを思い浮かべていたのだが……
(小説の見すぎかな……)
「それがね、難しいんだよ。ふつうは」
「どういうことですか?」
どことなく真剣な顔をしているマリさんに、麗は聞いた。
「そもそもおかしいと思っていたんだ。どうしてすべての石が鑑定出来たの?」
「どうしてって……見えた情報をそのまま伝えていただけですが」
麗は本当に出てきた情報を伝えただけだ。嘘などついてはいない。
マリさんは何が言いたいというのだろうか。
「あのね…実は、レイちゃんが質問してから言おうと思っていたんだけど…大体低級…じゃなくて、初級者の人は、少し鑑定が難しい石とか宝石とか、あとは高価かどうかわからないような草とかは、データが表示されないことが多いんだ。私も二年前まではそうだった。だから鑑定士は、チイセを組んで、比較的たくさんの石を鑑定できる上級者と一緒にいるっていう決まりなんだけど…レイちゃん」
「はい?」
「本当に、全部の宝石のデータが鑑定できたの?」
「はい。そう言ってるじゃないですか」
「……ステータス、開いてみて」
「なんですか? 唐突に」
「いいから開いてみて!」
マリさんが興奮気味に言う。その気迫に押され、麗は渋々ステータスを開いた。
そして、鑑定士のステータスのレベルを見ると…
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