第10話

『砂鉄鉱石・磁石の役割を果たす・磨いて専用の石を組み込むと、ナビゲート機能を発達させる・』

「なに……これ?」

「何か目の前に出てきた? 砂鉄鉱石って出てきていたら、正解なんだけど……」

 確かに砂鉄鉱石と出てきている。

「はい」

「よかった。それが、鑑定士として仕事をしている状態。あ、もちろんスキルを抜いたらそれは表示されなくなるから安心してね!」

「スキルを抜く?」

「そう。スキルを抜くの。それについては、またあとで説明するね。あっ、ついたよ! ここが私……私たちが商売するとこ!」

 そういってマリさんがさしたのは、小汚い絨毯。


 ほかにも絨毯はあって、そこに鑑定士がぽつぽつと座っている。これは麗の推測だが、関門から先は、ダンジョンのようになっていて、そこから帰ってきた冒険者をターゲットに商売をしているということだろう。


 ……そう、鉱石を持った、疲れ果てている冒険者をターゲットに。

 その中には昨日チイセに誘ってきた男たちもいるので、麗はさっきから顔を隠していたのだが、今はそんなことどうでもいい。


「え……本当にこの上に座って商売しているんですか?」

 確認のためか、はたまた否定してほしいためか、麗はもう一度、マリさんに聞いた。


「ええ。なにかおかしいかしら? あ、関門に来たのは初めてよね。ここで鑑定士は」

「そんなことはどうでもいいんです! 不潔じゃないですか!」

 何も悪びれもしないマリさんに、麗の堪忍袋の緒は切れた。

「なっ……レイちゃんって、物事をズバズバ言いすぎじゃない? 別に気にならないでしょう?」

「の……」

「気になりますよ! 聞きますけど、優しいきれいな香りのする男性と、不潔なホコリの香りのする男性、どっちとハグしたいですか!? 絶対にきれいな香りの男性でしょう!? 香りっていうのは、人の印象を決める大事なものです! 

 絨毯、今日はこれでいいですが、明日からは新しい絨毯でやりましょう! お金は私が出しますから!」


「そういうことじゃ…

「あの!」


 ぎゃーぎゃー子供のようにわめく二人を、フロラが一括した。

「通り過ぎていく人ここを見ていくんですけど?」

 フロラの言葉に二人はあたりを見回す。


 そこには白い目で見てくる、通りすがりの人たちがいた。

「……わかったわ。じゃあ、今日の仕事が終わったら、買いに行きましょう」

「……ええ。私も強く言いすぎました」

 そうして二人はこそこそと、小汚い絨毯に座ったのであった。



「じゃあ、まずは接客から!」

「接客?」


 絨毯の上に看板や机を出し終わったマリさんが、麗に話した。


「そう、接客! 笑顔でかわいらしくしていないと、ひきつけられないわ。こんなにたくさんの鑑定士がいる中で、私たちを選んでもらうには、少しでも魅力を出すことが大事。まねして……

 こちら、一級鑑定士です! 最高の笑顔で、正確な鑑定をいたします!」


 こそこそと話したかと思うと、いきなり叫びだした。


「おっ、君たち、チイセなのかい?」

 叫び声につられてやってきた男たちが、親しげに言った。


「はい。私が一級で、この子が低級…じゃなくて、新しく鑑定士になった子です」

「……どうも」

「そっかそっか。男どもに絡まれないように気を付けてね。じゃあ、この鉱石の鑑定お願いしてもいい?」

 そういって男たちが差し出してきたのは、真っ赤なルビーのような鉱石。


 それを受け取ったマリさんが、しばらく見た後、くらっと倒れた。

「あっ……ごめんなさい。ちょっと具合が……レイちゃん、お願い」

 そういってマリさんは、麗に鉱石を渡し、下がった。

(これって……押し付けられた?)

 マリさんに限ってそんなこと……あるかもしれない。

 仕方なく、その鉱石をのぞく。


『ニス・見た目と違い、水の成分を持つ・金額にすると100000インミの価値がある』


「100000インミ!?」

 予想外の値打ちに、麗は思わず声を上げた。


「なに? 100000インミって?」

「あっ、この鉱石、売ったら100000インミくらいの値で売れる……らしいです。ほかにも、水の成分を持っているらしいです」

 男たちはしばらく硬直していたが、しばらくすると笑い出した。

「ははっ、お嬢ちゃん、そんなにこの小さな石がそんなにするわけないじゃん」

 どうやら、嘘をつかれたと思われたらしい。



「その石……」

 どうしようかと対応に困っていると、誰か近づいてきた。

「……げっ」

「げって、ひどいなあ……」

 それは、あのハルとかいう最低男だった。

 へらへらした笑いを浮かべながら、こっちに近づいてくる。

 麗も、「げっ」なんて少女漫画的セリフ(偏見)が出るとは思わなかった。


「その石……本当に100000インミもする石ですよ」

「え?」

「あっ、ボク、こういうものです」

 そういうと、名刺みたいなものを差し出した。

「えっ……王都から任命された……国王専属鑑定士、ハル様ではないですか!」

「国王専属鑑定士?」

 その叫び声を聞いた人々が寄ってきて、みんな驚く。

 当の本人は、未だヘラヘラと笑っていた……








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