第9話
そのあとしばらく待っていたら、腕輪が離れた。
「ふう……こんなことになるんだ」
「知らなかったんですか?」
「うん……」
こんな危険なことを伝えられていないというのはどうなのだろうか?
そう思って麗がステータスを開き、職業の説明書を見ると、確かに『チイセの腕輪は、一定距離を離れると、自然的に近づき、くっつきますので、絶対に離れないでください』と書いてあった。
「ほんとに書いてありますよ」
「ほんとだ……」
ここから学んだ教訓はただ一つ。「説明書は絶対に読め」
そのあと二人は、離れないように気を付けながら、職業屋に戻ることにした。
どうやらマリさんの話によると、職業屋には、それぞれの職業の人にあった宿泊スペースがあるらしい。
「そういえば話変わるんですけど、マリさんって、あの魔法使いの…マリ様? と同じ名前ですけど、同一人物なんですか?」
「あははっ! 面白いこと言うね。違うよ。別人物。マリ様の特殊能力は、『神をも愛す姿』だけど、私は『事実のような嘘』だから」
(特殊能力……キャパチカのことか。キャパチカって呼んでる人って、案外少ないのか?)
「『事実のような嘘』?」
「うん。私はその気になれば、まるでそれを事実かのように嘘をつくことができるわ。本気で頑張らないとできないから、普段はめったに使わないから安心してね。そういえば、フロラちゃんは『俊足』だったわよね」
「はい。頑張ればこの国を一周なんてすぐ」
「レイちゃんは? 特殊能力、なに?」
「あの……私は、別世界から来たので、能力なんて……」
「え?」
てん、てん、てんという効果音が付きそうなほど静まり返る。
「え? 異世界転生者?」
「いや、転生ではなくて、ただ移動してきただけなんです」
「えええええっ!? じゃあ、なんだっけ……『九地』っていうところから来たの?」
九地……地球のことだろうか。
「私がいたのは『九地』ではなく、『地球』ですね」
「へえ……でも異世界学によると、異世界に来た人も、特殊能力は持っているはずだけど」
「そうなんですか?」
マリさんの話を受けて、ステータスを開いてみる。
見てみると、HP、MPのほかに、『特殊能力』と書かれた場所があった。
そこには、『天才的な頭脳』と、『世界を揺るがす何か』というものがあった。
(何かって、適当かよ)
「能力、ありました。」
「そうだよね! なんの能力だった?」
「『天才的な頭脳』と……」
「ああああああっ!」
もう一つの能力を言おうとすると、フロラが突然、叫びだした。
「だめだよ! 二人ともそんなに離れたら!」
フロラの言葉に麗とマリさんが目を合わせると、かなりの距離が離れている。
「あっ……」
「ありがとう、フロラちゃん」
(何か隠してる……)
麗は不自然なフロラに違和感を覚えながらも、職業屋への歩みを進めた。
「らっしゃい! お、チイセ見つけたのかい。いいねえ。若くて。男どもに気を付けなよ」
ミアさんが麗たちの顔を見て、嬉しそうに言った。
この人は言い方は少し乱暴だけど、感じがよく、一緒にいて心地よい。何かわからないが、家族のような安心感があった。
そのあと麗とマリさんは、職業屋の宿泊スペースに泊まることにした。
部屋に食事を運びに来てくれた人から聞いた話によると、このくっつく腕輪は、鑑定士にのみ配られるらしい。
考えてみればそうなのだが、冒険者や、魔法使いについていたら危険で行動範囲が狭まってしまうから、ほかの職業にはないらしいのだ。
だから、職業屋で案内された部屋も、鑑定士用の部屋だった。
話によると、鑑定士用の部屋では、腕輪の効果がなくなるらしい。
「うわあ……」
「鑑定士の部屋に入るのは初めて? ここはほかの部屋より少し違うからね。レイちゃんは賢そうだから、ここの魔力とかわかるのかな?」
たしかに麗は、魔力はひしひしと伝わってきていた。
だが麗はそれ以前に、この部屋に驚いていた。
この部屋は、3000インミ(30円)と、バルサノのケーキよりもだいぶ安いのだが、中は普通のホテルよりも高級に見える。
中にはキングサイズのベッドに、おしゃれな木のような洗面台、なんの香りかはわからないが、いい香りのするアロマ。これでケーキよりも安いのは何かの間違いではなかろうか。
「じゃ、もう寝ようか! 明日は早いし」
ベッドに三人が横になる。それでも余裕でベッドが余る。
「おやすみなさーい」
マリさんが電気を消すと、三人ともすうっと眠りに落ちた……
「……ちゃん、レイちゃん、起きて。朝だよ」
「んっ……」
翌朝麗は、マリさんに起こされて起きた。
「おはようございます」
「おはよう。朝ごはんもう届けてもらってるよ」
「えっ……」
そうしてみてみると、かわいらしいお皿に乗せられたボリュームたっぷりの朝ごはんが見えた。
ここの世界の料理は、和食、洋食、中華料理がいい組み合わせで出される。
パンやご飯に、そんなの合うの? と思われるようなものが出てくるが、どれもとてもおいしい。
「うわあ……おいしそう」
「早く食べよ!」
そうして三人は、朝ごはんを食べて、職業屋をでた。
しばらく歩くと、大きな白い門が見えてきた。
「ここ……関門?」
「そう! よくわかったね! ここで私たちは、鑑定士として冒険者の人が持ってきた鉱石や薬草を鑑定するんだ!」
「でも、私、何がどのくらい価値があるのか、全然わからないんですけど……」
「大丈夫! ポーション飲んだでしょ? それでわかるから! 試しに、そうだな……この石をみてみて!」
そういってマリさんが差し出した石を見ると……
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