第6話

「ねえ、ステータスはどうやって確認できるの?」

 麗は、自分のステータスを見てみたくなった。

「ステータスの見方は簡単で、目の位置で、こうやって四角を作るだけだよ!」

 そう言って、フロラは親指を反対の手の人差し指に、人差し指を反対の手の親指につけた。

 だが、何も起きていない。

「何も起きていないみたいだけど……」

 麗が不思議そうに尋ねる。

「ああ、自分のステータスは、ほかの人には見えないんだよ。見えたら能力を使えって言われて、事件が起こるでしょ? だからこの国の長の魔法使いが、あらかじめステータスをほかの人に見えないように設定してくれたの! 優しいよねぇ……みんなのあこがれなんだ!」

「魔法使い?」

 魔法使いという言葉が出てきた。魔法使いは、能力とは別なのだろうか?

「魔法使いって…? 能力とは別なの?」

「魔法使いも知らないの? そっちの世界、本当にそれで大丈夫なの? 魔法使いっていうのは、職業の一つだよ! 職業は知ってる?」

「職業自体はなんとなくわかるけど、どんな職業があるのかはわからない」

「職業は、冒険者、魔法使い、聖者、商人、鑑定士、女王、国王があるよ! 十五歳になったら必ず何か職業についてなきゃ、つかまっちゃうんだけど、レイちゃん、何か職業、はいってる?」

 フロラに聞かれて、ステータスを開いてみる。

 移動したときは、大体何らかの職業に入っていることが多い。

「無職だ……」

 どの職業にも入っていなかった麗は絶望する。


 ちなみに、どうして麗が、この世界の字を読めるかというと、さっきのケーキ屋、町、そしてコンビニの商品とフロラの言葉。すべてを分析した結果、どの文字が麗の世界でいうどの文字に当たるかが、なんとなくわかっていたのだ。

「えええええっ! 無職なの!? まあ移動してきたなら大丈夫だと思うよ! じゃあ早く何かの職業に就きに行こう!」

「うん……」

 これで何度目だろうか。またフロラの家を出て、町へと向かった。



「レイちゃん、なんの職業に就きたい?」

「えっ? 選べるの?」

「選べないよ」

「なんやねん」

 歩きながらそんな話をする。

「そういえば、さっき言ってた魔法使いって?」

「ああ、魔法使いの女の人が、すっごいんだよ! ステータスを隠すなんて、しかも町の人全員のだよ!? すごくない!?」

 興奮してフロラが言う。

「へぇ……魔女?」

「魔女なんて失礼だよ! 魔法使いのマリ様だよ!」

「マリ様?」

「そう! あの木に魔法をかけたのも、マリ様! 若き頃だけどね!」

「若き頃って、いくつくらい?」

「何歳だっけなぁ……十歳くらいだったと思う」

(十歳で木に魔法をかけたら、今も生きている木になった……そのマリ様は、きっとすごい魔法使いだ。その人に会えたら、ここに来た理由もわかるかもしれない)

 麗が考えている間にも、フロラは話し続ける。

「その人はね、魔法使いで女王なんだ! とっても美しくて、優しくて、賢くて、みんなのあこがれなんだよ! 知らなかったら猛攻撃されるから、覚えておいてね!」

「あ……うん」

 麗は、そんなフロラを適当に流しながら、どの職業に就くか考えていた。

 さっきフロラに、自分で職業は選べないといわれたばかりにも関わらず、そんなことを考える。

(どうしようか……魔法使いも気になるが、商人としていろいろなものも見てみたい。鑑定士も……)

「あ、ついたよ!」

 気が付いたらついていたらしい。おそらくこの世界の文字で、『職業屋』と書いてある。

 よくある木の建物に、にぎやかなシンボル。ここが職業屋…

「はいろっか」

 カランコロンと、コンビニで聞いたような気持ちのいい音がする。

「らっしゃい! 転職かい?」

 ふくよかな女性が、はっきりとしたしゃべり方で話す。

「いや、新職」

「新職か? あんたたち、もう十五こえてるだろ。ルール違反だよ」

「私じゃないよ。この子。新しくここに来たの」


そうすらすらと受け答えしていく。

「あっそうなの? ならよかった。そっちの子、名前はなんていうんだい?」

「麗です」

「そうかレイか。いい名だね。大事にするんだよ。あたしゃミアっていうのさ。じゃ、おいでな」


 そういって、ミアさんは、奥の部屋に行ってしまった。

「行ってらっしゃい!」

 フロラに見送られて、麗はミアさんについていった。




 奥の部屋に入ると、たくさんの棚があった。

 その一つ一つに、職業名と女の子の絵がしまわれている。

「さ、あんたは……見たところ、頭がよさそうだねぇ……容姿もいい。あんたには鑑定士になってもらうよ」

「鑑定士って、具体的には、何をやれば……」

「ああ、それは今から説明するよ。せっかちな奴だね」

 そういうと、ミアさんは眼鏡をかけた女の子の絵が飾られている棚を開けた。


「詳しいことは、こいつに聞きな」

 女の子の絵を取り出すと、その絵を軽くなでる。


 すると、その子がみるみる実体化していった。

『ワタシが、鑑定士のご説明をいたします。鑑定士とは、この世界にある宝石、石、草、人などの価値を見分け、価値相応の値段をつける役割があります』

(まあ、ゲーム通りだな)

『鑑定士になるうえで、必ず守らなくてはいけないルールをご説明します。

 一、嘘をついてはいけない。

 二、三級鑑定士になるまでは、必ず二級以上の鑑定士とともに行動すること。

 三、鑑定したものを買い取ってはいけない。

 四、鑑定したものを売ってはいけない。依頼料は必ず依頼主から現金で受け取ること。

 五、鑑定した宝石から依頼料を受け取ってはいけない。

 主なルールはこれまでになります。ほかにも細かいルールはありますが、それはステータスから確認してください』

 三と四と五は同じようなものだが、それぞれ少しずつ内容が異なっている。

(つまり、鑑定士は鑑定士ってことね)

 麗は鑑定士の説明を受けながら、わくわくしていた。

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