第5話
「ああああああっ!」
「うるっさ」
しばらく椅子に座ってまったりしていた時、ふとフロラがさけんだ。
「そういえば町案内するっていったよね! 忘れてたぁっ!」
「なにそれ今更……」
「レイちゃんわかってたの!? なら言ってくれればよかったのにっ!」
「まあ……急ぎじゃないし、いいかなって……」
「そんなっ! そんなのやだ! いこっ!」
こうして半分無理やり、町案内へとまた出発した。
しばらくかわいらしい森を通ると、一つの広い場所に出た。
そこははじめ麗が来た場所と同じようなつくりになっている。
もしかすると……
「……ねえ、この町って、左右対称なの?」
「え? なんでわかったの? そうだよ! まだすこししか歩いてないのにすごいね! それとも、レイちゃんのいた街もそうだったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、私が入ってきたところと同じような感じだったから、気になっただけで……」
「へぇ……あっ! ついたついた! ここここ! 私のお気に入りの場所!」
そう言ってフロラが指さしたのは、森の大きな木。
ほかの木とは、何かが違う。
「この木は、昔魔女が、この木に魔法をかけたって言われてるんだ。だけど、それによる事故で、たまにここと対称なもう一か所の森で、何かが起こるって言い伝えられてるんだ」
(それ絶対私が移動してきたのと関係してるじゃん)
「それ、私だ……」
「え?」
「私……ここに移動してきたの。たぶん……反対の森から」
麗はここで隠していても意味がないと思い、思い切って言った。
「え? そうなの? じゃあ、まれに起きる異変で、ほかの世界から来たの!? すごっ!」
フロラは疑いもしなかった。思っていた反応と違う。
「信じるの? こんな話」
「うん! だってレイちゃんが嘘をつくわけないし、ついてたらわかるもん!」
「わかるって、どこからそんな自信が……」
「あっ、ええっと、いや、その……」
少しからかっただけなのに、なぜか戸惑っているフロラ。
(これ……何か隠してるな)
そう思いながらも、余計な詮索はしない。
あったばかりの麗に、何もかも教えてもらえるとは思わないからだ。
「じゃあ、ほかの地方って、異世界だったってこと? すごい! すごいじゃん!」
「え……?」
「異世界のこと、知りたかったんだ! ねえ、聞かせてよ! 家に帰ってさ!」
「あ……うん」
こうして二人はまた家に帰っていくのであった……
「で、ほかの世界って、どうなってるの? かたいものだらけなんでしょ? かたいものしかないから、異世界人はみんな骨がダイヤでできているとか……」
(なにその偏見)
家に猛スピードで帰った麗たちは、また机に座って、話をしていた。
「それ、どこ情報?」
「え? 異世界学の教科書に載っていたから、正しいはずだけど……」
どうやらこの世界では、異世界のことについても勉強するらしい。だから、異世界とか言われてもわかったようだ。
「異世界学……私の住んでる異世界は、確かに硬いものもあるけど、柔らかいものもあるよ。ここの世界みたいに、家はキノコじゃないし、こんなに森の中では住んでないよ」
「じゃあ、森を抜けた、あの男たちと会ったような場所が、永遠に続いてるってこと?」
あの男たちと会った……ゲームにある城下町のようなところだろうか?
「ほかの国ではそうかもしれないけど……私の住んでたところは違ったよ。あんなゲームみたいな」
「ゲーム!? ゲームって、あのゲーム?」
そう興奮していったフロラは、突如として立ち上がり、ごそごそと奥で何かをあさり、何かをもって帰ってきた。
「こんなやつでしょ!?」
もってきたのは、トランプくらいの大きさのカードだ。
だが、絵柄も紙の質も、トランプとは全く違う。
少女の絵が描かれた薄っぺらい紙が、五十枚くらいある。
「たしか、『ランプト』っていうんだよね! 表にして飛びついて、同じ絵柄をそろえるっていう!」
いろいろと違う。
「なんかいろいろと違うけど……まあ説明もめんどくさいからしないよ。ゲームって言うのは、テレビゲームのこと。テレビっていうのは、そういう機械で、いろいろとプログラムして、遊ぶものなんだ。その中にあるゲームの種類で、こういう世界の見た目は、よく出てくるなっていう話」
こんなこっちの世界ではありきたりのことも、こっちの世界では珍しいらしい。フロラは終始身を乗り出して聞いていた。
だんだんと麗は、ゲームや小説でわざと自分の正体を明かさない主人公の気持ちがわかったような気がした。
(正直、すっっっっっごくめんどくさい!)
「ところで、さっき言ってた『能力』って何?」
今度は麗のターン。小説ではよくある設定だが、実際に見ると自分にも備わっているのか、どんな能力があるのか、同じ能力を持った人はいるのかなど、気になることはたくさんある。
「ああ、能力ね。そっちの世界ではないの?」
「ない」
「大変じゃない?」
「それが当たり前だから」
「へぇ……能力っていうのはね、さっきも言ったかもしれないけど、別名、『キャパチカ』で、生れつきもっている特殊な力で、何も能力がない人はいないよ。その能力はまちまちだけど、大体は実生活に役立つものばかり。自分がどんな能力を持っているのかは、ステータスを見れば確認できるんだよ!」
「ステータス?」
また小説でよく出てくる設定が出てきた。
知らない人のために説明すると、ステータスは、自分の体力や能力などが見れるもので、大体は念じると出てくるという設定が多い。この世界ではどうなのだろうか?
「ステータスも知らないの!? じゃあ自分の状況どうやって知るの!?」
「いや……知らないのが当たり前? 自分の体力が数値化されるなんて、聞いたこともない」
「うっそー---ん! そんなので、そっちの世界、生きていけるの!?」
こっちでは当たり前のことが、異世界では全然違い、不便なものだった。
麗はますますこの世界に興味がわいた。こっちの世界の当たり前を、もっと知ってみたいと思っていた。
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