第2話
殴られると思って体を固めていたが、衝撃が来なかった麗は、ゆっくりと顔を上げた。見ると、少女が麗と男の間に割って入っている。
「あ? なんだ? お前もやられたいのか?」
「ちがいますよぉ…そんな物騒なこと言わないでくださぁい…」
顔は見えないが、ツインテールの髪型、ふわふわしたスカート、かわいらしい靴、そしてこのしゃべり方。
(この子、絶対にぶりっ子だ…)
麗はそう確信しながら、この様子を見ていた。
「ここで騒いだら、あなたたちもつかまっちゃいますよぉ? つかまったら、もう二度とここには来れませんよ? 一時の感情で、そんなことしてもいいんですか?」
その少女の声のトーンが低くなる。すうっと感じる恐怖に、男たちはじりじりと後ずさりした。
「ちっ…おぼえてろよ!」
よくある悪役の捨て台詞を吐いて、男たちはバタバタと去っていった。
「ふう…大丈夫?」
その少女は一息ついたかと思うと、くるっと振り返って麗に話しかけた。
「え? あ、はい。助けていただいてありがとうございました」
(思っていたよりも柔らかい子…)
「いいよいいよ、そんなの。それより、見かけない顔だね?」
(見かけない顔…異世界に来たんだから当たり前か…どうごまかす?)
「あ…地方から来たばかりで」
(何とかごまかせたか?)
「そっか。ここに来たのは初めて? ああいう人多いから気を付けてね。また絡まれたらいけないから、うちにおいで?」
「あ…はい。ありがとうございます」
こうして麗は、謎の少女と、少女の家に向かうのであった。
しばらく歩くと、また森の中に入っていった。
さっきまでいた森とは方角が違うので、雰囲気も少し違う。
人や家も前の森より多い。
「ついた! ここが私の家よ!」
「ヘぇ…」
キノコみたいなかわいらしい家の前で、少女が言った。
「さ、入って入って!」
「あっ、はい」
中に入ると、まるで森の中にいるような気持になった。
ふかふかのベッドに、これまたキノコのような化粧台、ライトがどこにあるのかわからないほど全体的に明るく、天井は木の葉のトンネルのようになっていた。
「好きなところにすわって! しばらくゆっくりしていくといいよ!」
「あ…ありがとうございます」
何から何までせっせせっせとやってくれるこの少女はいったい何者なのだろうか?
いわれた通り、これまたキノコの形をした椅子に座る。少女も向かい側に座った。
「改めまして、こんにちは! 私の名前はフロラ! フロラ・タルナスよ! よろしくね! あなたの名前は?」
元気な声で自己紹介をした少女、もといフロラは、麗に自己紹介を求めた。
「私は…麗。ただの麗です」
本当は苗字もあるが、苗字を名乗ったら、たぶん別世界から来たってばれる。
「わかった! レイちゃんね! これから仲良くしてね! ところで、どうしてここに来たの?」
「いや…それは…」
(どうする…? 本当のことを言うか…? 本当のことを言っても、おそらく信じてもらえないだろう。そうして変な人だと思われるわけにはいかない。)
「私はもともと別の地方ににいたんですけど、噂でここの話を知って、興味を持って…」
「ふうん、そうなんだ! ごめんね。どんな噂なのかはわからないけど、入ってからすぐにあんな男たちに絡まれたらいやになっちゃうよね…でもね! ここは自然がいっぱいで、とってもいいところだから! 勘違い…しないでほしいんだ…」
「大丈夫です」
麗がそう答えると、フロラがほっと息をつく。
「そっか。ところで、どこから来たの? 私別の地方にいったことないからわからないんだ!」
そう興味津々のフロラの言葉に、麗はわずかに肩をこわばらせる。
地球の、ここからしたら異世界の話をしても、フロラにとってはあまりよくないだろう。
(そこに行きたいとか言われてもいやだし…)
「名もないみすぼらしい町なので、知ってもあまり…」
「それでもいい! 聞かせてほしいの!」
麗が興味をなくそうとしても、むしろフロラの興味をさらにそそるだけだった。
「町のことより、私たちのこと、もっと話しませんか? 私、あなたのこと、もっと知りたいんです」
「うーん…それもそうだね。また今度聞かせてね!」
「ふう…」
「うーん…でもほかに話すことってなんだろう…? 好きなこととか? でもそんなこと言われてもね…」
「私、17歳です。見たところ、同じくらいかなと…」
「うっそ奇遇! 私も17よ! じゃあタメ口で話してね!」
「そう…だね…」
麗は一人でいることが好きで、静かな方が好きなため、こういう人間が苦手だ。
「じゃあ、この町をもっと見ていってよ! しばらくここにいるでしょ? もっとここについて知ってほしいし」
「それは…いいですね…」
麗はあまり乗り気ではないが、この世界を知るにはもってこいだ。そう思った麗は、フロラについていくことにした。
「じゃあまずは…この服に着替えて!」
「え?」
唐突なフロラの発言に戸惑う麗を置いて、フロラは麗を着替えさせる。
あっという間に、フリフリのかわいらしい服になってしまった。
「レイちゃんのかわいい髪色に合うかなぁって思って」
麗の髪色は、うすい紫色だ。もともと薄い色の髪の毛を軽く紫に染めたのだ。
「そっか…ありがとう…こういう服着たことないから…初めての経験だよ…」
「似合ってるよ! 喜んでもらえてよかった!」
「……うん……」
(これで喜んでもらってるとおもえてるなら…よかった…)
「じゃあ次は…」
「ちょっともういいかな? いろいろやってもらっても申し訳ないし…」
この後もしばらくやる! と聞かなかったが、何とか抑え、町を見るために家をでたのであった…
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