転生? 召喚? いいえ、移動です…

maise

第1話

「いや、ここどこ」

 一人の少女が、前髪をいじりながら呟いた。

 ここは、少女が前まで住んでいた世界ではない。

 いわゆる、「異世界」というやつだ。

 どうしてこうなったのか、それは5分前に遡る






 5分前

 の天才ニート、麗は、いつものようにボロアパートでRPGゲームをしていた。

「あーあ、また終わっちゃった。次はなんのゲームしよっかな……喉渇いたな」

 そう言って、水を取りに行こうとしたその時




 ピッカーン!!

 突然、揺れと共に麗の真下に魔法陣のようなものが現れた。

 揺れによって麗はバランスを崩した。

 そのままなす術もなく、光に吸い込まれて……




 ……なんてことはなく。

 色々な種類のゲームをやり込んでいる麗にとって、魔法陣で吸い込まれるなど、親の顔よりもみた光景で。

 スクっと立ち上がり、ひょいと避けようとしたが

(いや、ここで吸い込まれれば、リアルにゲーム感覚を体験できるのでは……? 悪役令嬢転生パターンか、聖女召喚からの追放パターンかは知らないが、どっちにせよリアル転生チートゲームを満喫できるはず。もし何もなくても、異世界に来てしまうのには理由があるはずだから、その理由さえわかれば、元の世界にも戻れるはず。)

 と、一瞬で考えた麗は、流れに任せて吸い込まれていったのであった……





「いや、ここどこ」

 そうして、現在に至るのである。

 麗は、硬い大理石の上で、黒い装束を着た気味の悪い人たちとイヤミな王子が待っているか、ベッドの上で無愛想なメイドが待っているかと思っていたが、そんなことはなかった。

 ここは、森に包まれた少し広い場所。よくある優しい雰囲気の、エルフの森のような空間だ。

「何これ……新しいタイプだな。とりあえず探索してみるか」

 麗はこの森を探索し始めた。

 


「ここは……店?」

 しばらく森を歩いていると、一つの店が出てきた。

 優しい雰囲気だが、中をみる限り、コンビニのような形になっている。

 看板のようなものを見てみると、

「何これ……暗号?」

 何語にも当てはまらなそうな、怪しそうな文字が、木の板に彫られていた。

「これが、この世界の文字ってことか。言語は通じるのかな……」

 試しに麗は、コンビニのような建物に入ってみることにした。



 押すタイプのドアを開けると、カランコロンと気持ちのいい音がした。

「っせー」

 レジのようなところにいた店員らしき人が言った。見た目はよくある転生モノに出てくる、やたら可愛いモブキャラに似ている。

(せ? 日本語なのか? それともこれがこの世界の言語なのか……?)

 コンビニ(仮)の中を見渡してみると、木造の棚に、木の実や葉を連想させるような食べ物がずらりと並んでいた。その商品説明みたいたところの言葉はわからない。

 のどが渇いていたので、とりあえず透明の水のような液体を手に、レジのようなところに行った。

「お願いします」

「うっす。これだけっすか?」

「はい」

(言語は通じるのか?)

「チッ。これだけなのにわざわざ買いに来るんじゃねえよ。」

(なんかぐちぐち言ってるな……)

「300インミでーす」

「300インミ?」

 300円のことだろうか? そうか。日本の通貨が通じるのかわからないのか。

 とりあえず、300円を出してみる。

「はあ!? 冷やかしか? 金持ち自慢か!? 俺は300インミって言っただろうが! この30000インミをくれるってんのか!? ああ!?」

 もともと不愛想だった店員が、ヤンキーになりたての学生のように怒ってきた。

 そんな店員を無視して、麗は分析を続ける。

(30000インミ? 円と単位が100違うのか? じゃあ3円だせばいいのか)

 3円がなかったので、5円を渡す。

「チッ、結局くれねえのかよ……うい、おつりっす」

「ありがとうございます」

「二度とうちには来ないでくださいね。冷やかしが」

「…………」

 カランコロン

「愛想の悪い店員だったな」

 麗は、特に気にすることもなく、その店を去っていった。



 そのあとも道なりに進んでいくと、大きな道に出た。

 いつのまにか森は抜けていて、よくある小綺麗な街に景色は変わっていった。

 時々聞こえてくる言語は、やはり日本語と同じだった。

「宿とかないかな……あったら泊まってこの状況をまとめたいんだけど」

 そんなことを考えながら歩いていると、ドンッという音とともに、麗の身体が崩れ落ちた。

「っ……たぁ……」

 見ると、ガラの悪そうな男が4人。

「おい、姉ちゃん、なにぶつかってくれちゃってんの?」

「肩、いったぁ」

(あーあ、めんどくさいやつ!)

「ねえ、どうしてくれるの?」

「ちゃーんとお詫びしてよ」

 こんなところで問題でも起こしたら目立ってしまう。

「どうも申し訳ございませんでした」

「ああ!? なんだその態度は! 女のくせに、なめてんのか!?」

「いえ、そんなつもりは……」

(ちっ……こんな男相手に力で勝てるわけもないか。落ち着くのを待つか。)

「反省してんなら、そんな態度になるわけねえだろ!」

「あーむかつく。うぉらっ!」

 男が殴り掛かってきたのでよけようとした、その時、

「はーいストップしてください!」

 かわいらしい声とともに、一人の少女が現れ、麗と男の間に入った。

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