第9話 Life is but a walking shadow.

 人生は歩く影にすぎない。

 ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」より

 

 自分は14歳の時に一度死んだ。それから21年間、まるで死体のように生きてきた、ゾンビのように、波風立てないように、なぜなら彼らはいつだって突然やってきて、わたしの幸せを奪っていくのだから。

 わたしの人生に、いいことなんて何もなかった。太宰治の人間失格みたいだが、わたしは太宰治が嫌いだ。そんなわたしがとある事情により、出版社が違う人間失格を2冊買った。

 出版社が違う同じ小説を買って知ったのは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に結末が違う2つのバージョンがあるように、人間失格にも2つの結末があるらしいということ。「これだから中学の先生は文庫を買う時は詠世文庫を買え、と言っていたんだな」と妙な感想をいだいてしまった。 

 残念ながら、詠世文庫版は手元にない。文庫は古本を買いにくい、なぜかというと、判を重ねるごとに文字が大きくなった前例があるからだ。この先老眼が進行する以上、ある程度の文字の大きさは確保しておきたい。

 そんなことを考えつつぱらりとめくると、カンテノームが起動した。


 

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