第4話For the all and just for the public, the public servant does serve only for the public

 全ての人のために、公共のために、公僕はただ、公共に奴隷のように尽くすのだ。


 2人組、子連れは特権階級だ。友人がいる人間は、特権階級、信頼できる同僚がいる、後輩、先輩がいる、すべてが特権階級の人間で、ひとりで孤立して孤独なる人間は、そいつらのために道をゆずり、彼らの退屈で中身のない、まるで砂糖の入っていないシフォンケーキ、しかも焼き時間を間違え硬くなって食べようがないお菓子を強制的に脳細胞にまで届かせる、おいしくもない。

 感染症のおかげで分断と新たなる階級が登場した。貧困はもちろん、新たなる階級、感染対策をバッチリほどこし、友人と付き合っている人間は特権を享受し、どうせ孤立している私は、と。

 政府から強制的に「アレ」が届いたのはつい先日のことだった。

「あなたは友人を所持していません。 

 友人所持義務違反です。

 公僕法に違反します。」

「そんな法律、いつできたんですか」

「緊急事態宣言です。

 今は有事なんです。 

 ですから、公僕法が臨時に制定されました。

 すなわち、友人がいるものだけが公僕として働けるのです。

 あなたに友人がいないのは調査済みです」

 

 悪かったな、どうせ俺は職場にも趣味でも友人がいない人間ですよ。


「あなたの選択肢は2つです。

 すなわち、今すぐに友人を作るか、 

 公僕をやめるかです」


 乱暴すぎませんかね、その論理。


「で?友人、作ります?」


  公僕は1級国民だ。上級国民だ。公僕法によれば、公僕をやめれば、刑務所で働く公僕、第5級国民へと一気に価値が下がるとのことだった。友人がいなければ犯罪人扱いを受けるのだ、孤独を是とした歴史はどうした。

 

 友人が必要、友人がいない人間はクズ、友人が多ければ多いほどいい、友達100人できるかなは皇紀2600年にはなかった歌だ、歴史が浅い、でもこの国は歴史よりも「友達100人できるかな」を選んだのだ。


 で、カンテノームがうちに来た、というわけだ。何せ屍体なので、リビング・デッド、ゾンビだのキョンシーだのいろいろ浮かんでは消えるが、残念ながらゾンビ映画もキョンシー映画も嫌いだ。

 子供の頃、病院の待合室でキョンシーの映画絵本があった。近所から2分の場所にあったその病院を、育ての母は子捨て、要するに仕事しているあいだは看病できないから、といろいろ理由をつけて、風邪だの疲れだのいわゆる代理によるホラ吹き男爵症候群、こういうところも偉大なるお母様、いや、偉大なる大きなお兄様、とでもいうべきだろうか、偉大なる大きなお兄様はあなたをみてらっしゃるのだから。

 それで病院に投げ込まれ、元気なのに点滴を受けさせられ、病院のベッドに寝かされる。点滴中はじっとしていなければならないから苦痛だった。

 ある日のことだった、退屈していると、隣の優しい声のお兄さんから話しかけられた。理由は覚えてないが、楽しい思い出として残っている。

 よくいたずらされなかったな。


 そう言うわけで、わたしは死体のように生きていたのだ。だから、友人の作り方を知らなかった。リビングデッド、すなわちゾンビのように死んだ人間であれば存在価値を認められ、少しでも生きた人間としての振る舞いをすれば殴られ、蹴られ、笑われ、暴言を吐かれ、ゴミとして扱いを受ける。

 ゴミなのだから、税金で養わせてもらっている。波国の税は高い。なぜなら、この国は植民地だから、宗主国への上納金として吸われ、入ってこない。

 その分、波国の国民ではなく、波国の公僕に与えられる。だから、バッシングがひどい。だから、庶民の暮らしはいつだってつらい、重税さえなければ、波国の民はもう少し寛容さを増すだろう、と、カンテノームでなく、電子空間に書き殴った後、私は小さな眠りについた。明かりを消さないまま。

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