第3話You love me, and that means what?
あなたは私を大切に思っている、で、それは何を意味していますか?
どうしても「誰かを大切に思う」という概念が理解できない。誰かを推す、ごひいきさんになる、応援する、ということすら、昔表舞台に立っていた私にはわからない。
「また、吹き込んでいる。記録用?」
カンテノームが横からのぞきこむ。
「髪の毛、染めたんだ?」
月の女神のお仕着せは病んだ緑色、道化の衣装らしい。その色は、緑色はカンテノームの光り輝く顔をさらに引き立たせていた。
「仮想現実って便利だよねー」
先日覚えたその言葉を取り入れるその姿は、生きていればかなりの年数を数える人間だとはとても思えない。
「人間の身体って不便だと思うんだ」
唐突に私はつぶやく。
「なんで?」
「だって、仮想現実なら一瞬で髪型変わるし、髪色もすぐかわるし、化粧もすべて楽に変わるけど、人体の場合はそうはいかない。
紙の上なら、簡単に服も書けるし、化粧だって点で済むのに。
仮想現実の世界の人間に生まれたかったよ」
「そんなこと言わないの。
現実の人間だからこそできることもあると思うよ」
「たとえば?」
カンテノームが言葉に詰まる。彼にもわからない、答えられない言葉はあるんだ。
「どこにいたって、結局はわたしは異邦人なんだよ。」
わたしは、数を数える。
「世の中に何人、芸能人がいると思う?子役は?子役から無事に大人の役者になれた人は?
公僕になってわかったよ。
公僕は、芸能人が存在しない世界に生きている。
そもそも、身近にいるわたしがかつてそう言う人間だったことは、隠してないし、公的な記録にもあるしすぐ見つかるはずなのに、そもそも世界線が違う、交わらない。
たとえリーマン幾何の世界で平行線が交わることがあっても」
「リーマン幾何でなくても、この世界は非ユークリッド幾何の世界なんだから、平行線は必ず交わるんだよ」
と、カンテノームは訂正した。たしかにそうだ、時間がある以上、ここは四次元であり、ユークリッド幾何は成り立たない。
「カンテノームさぁ」
わたしはあきれる。
「なんで、あなた、わたしより賢いの?」
「はい、これ」
カンテノームが日記を差し出す。
カンテノームの本名が書いてある。
「読者にバレたらどうするの?」
「読者なんていないし、実写化でもしない限りわからないし、あ、映像化の時はモザイクか焦点ずらせば」
「砂の器は見たことは?」
「ある」
「宿帳が出てくるんだけど、宿帳に載っているここの住所、どこだかわかる?」
わたしは、かつて撮った写真をカンテノームに見せる。
「わかんないけど」
「カメラマンの実家の住所だと思う。
調べてみたら、同郷だった」
「へー。やっぱり、アレンジするんだ」
「アレンジって」
「実写化、映像化するには載っていない部分をどうかするかが大切だってこと。
かんじんなものは、目に見えないんだよバーイきつね」
と言って、コンコン、とカンテノームは鳴いた。きっかり両手でキツネを作りながら。
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